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異世界居酒屋「のぶ」の感想と考察

端的にいうと異世界で開かれた日本の居酒屋のお話。

邪心転生が蝉さんの今後の代表作になるんだろうなーとか思っていたら、とんでもないもの出してきやがった。

異世界に日本の料理と接客が持ち込まれたらどうなるかというシミュレート系の作品ですね。
様々なチート兵器や知識が次々と異世界に持ち込まれているなろう作品群ですが、中でも居酒屋まるまる一つぶち込むという荒業には意表を突かれました。

とはいえ、この作品において素晴らしい点は全く別のところにある二つだと私は思います。

本作は一言でいうと『文化が未成熟な世界に物資の流通や調理技術が成熟した日本料理を導入する』という一種のチート作品に他なりません。

けれど、他のなろう作品が書籍化された時によくある、「異世界に入っての俺ツエー作品でしょ」っていう風評被害にも近い偏見的な評価がほとんどされていないのです。

これはまず主人公らしい主人公がいないことに起因します。
日本からやってきた人間として「ノブ」と「しのぶ」がいますが、どちらが主人公という描かれ方はされておらず、他のキャラクター達と一緒に群像劇的な描かれ方をしています。

あえて言うなら居酒屋「のぶ」という舞台装置そのものが主人公と言えるでしょう。
仮面ライダー555の『ベルトが主人公』という形式に近いと言えばいいでしょうか。

要は居酒屋「のぶ」という存在がチートでも、それを扱う対象があやふやなんですね。
だから『こいつチート』だという指差す存在がいない。
さらに言うならチートが料理やサービスのため、勇者とか魔法みたいな明確な俺ツエーになっていないことも大きいです。

居酒屋「のぶ」がチート → 現代の日本食がチート → 現代日本スゲー!

っという構図になるわけです。
つまるところ、褒められているのは日本そのものという視点に落ち着きます。

オタクがアニメや日本食に対する海外の反応に、日本人が喜ぶのと同じようなものです。
日本人って現在に色々と不満はあっても、なんやかんや日本が好きなんですよ。
だから、異世界で馴染みある日本の何かが評価される姿というのが読んでて嬉しいんですね。

これがなろうのチート系作品であっても叩かれない大きな所以だと思います。

で、もう一つ。
今度は料理作品という視点でのお話。

料理系作品というのは、『料理』と『料理を食べて反応する者』が必要になります。
基本的に、その反応が大きければ大きい程料理の評価がアップします。

で、これをやるのにわかりやすく効果的な方法が二つ。
普通の人の発想にない驚きの料理を作ること。
「ミスター味っ子」しかり「食戟のソーマ」しかり「鉄鍋のジャン」しかり、これが一番スタンダードですね。

もう一つが、食べる側のステージを下げること。
こっちは誰でも知ってるような作品をぱっと思いつかないので極論を言うと、世界が完全に崩壊して何百年も経って文化が崩壊した生活を送ってる若者達に、現代の料理を食わせると次元の違う美味さに仰天するでしょう。

だって料理の文化がリセットされた世界では、うどんの出汁や肉につけた胡椒一つが未知の味そのものなのですから。

もうわかったと思いますが、異世界モノという特性を活かし自然に後者のシチュエーションを作り上げたのが異世界居酒屋「のぶ」です。

今回説明に窮しましたが今後は逆に後者のタイプを説明する時に、『異世界居酒屋「のぶ」という作品があってね……』という例に使えるくらい完璧に、この方程式に当て込んだと思うのです。

個人的にこの表現方法をあらかじめ知っていてやったのか知らなかったのか、今度蝉さんとお話する機会があったら聞いてみたいなと思っています。思ってるよ、蝉さん!

というわけのわからない振りを入れたところで、ストーリーの感想に入ろうかと。
序盤のストーリー展開は上の方程式そのもので、現代社会と比較して文化が未成熟な世界に日本料理でアタックかけたら、予想外の美味しさに電流走る人々の様子を描いています。

けれど、それって言ってしまうとリアクション芸人の一発ギャグに近い類なんですよ。「どげせん」みたいな。
土下座一つで読み手を沸かせる発想力は天才的だけど、それだけだとすぐに慣れて飽きられてしまう。

つまり長編一つ作るためのマンネリ回避が必要になるわけです。
そこで料理の次に何を意識するのかというとこの世界に登場するキャラクターです。

のぶで働く日本人二人は、きちんと日本人的なキャラをしていなければこの話は成立しません。
だから、異世界側の人達だからこその価値観・職業・人間性を描くことで話に奥行や展開の広がりを作る必要があります。

それもまた、舞台が完全に「のぶ」に限定されていることを利用しています。
要はさっきもさらっと書いた、居酒屋を利用する異世界の住人達の群像劇を展開していくことです。

ベルトホルトのイカ嫌いを治す話や親方喧嘩なんかがわかりやすい話で、メインが料理そのものから登場人物の性格ややりとりに比重を置くようシフトしているのがわかります。
居酒屋という人と人との繋がりを大事にする場所を上手く使ってグルメ小説と平行して人情ドラマを展開させて読者を飽きないようにしているわけです。

時折話が政治や大事件に結びつくこともありますが、あくまで本筋は居酒屋か伸びてもその近所(鰻買いに行くだけ)で事を納めています。
最後の国家間の会議ですら、真似たのは居酒屋としての接客でありのぶが大舞台で料理をしたわけではないのが、この物語の在り方を示していると言えるかもしれません。

国にちょっとした影響は与えつつも、居酒屋としての領分を越えることもなければ直接世界を救うなんてこともない。
あくまで一軒の居酒屋とそこで出会う人達が少しずつ影響されて生活しているという、異世界交流の物語でありだからこそ魅力ある作品に仕上がったのだと思います。

あ、個人的にこの物語のツッコミというか疑問として、売り上げが順調に伸びているだろう「のぶ」にしょっちゅうこの売上分の金銀を換金させられる質屋の需要と供給バランスは大丈夫なんだろうか。

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