Previous Image
Next Image

info heading

info content


ヘッドライン



緋色の平穏 Ep10『極彩の殉教者11』

 あたしの目が醒めた時には、もう全てが失敗になった後だった。クロノから話を聞いて胸に残ったのは自分に対する無力さと後悔だけ。
 なす術もなくあの花びらに敗れたことへの悔しさが。ひたすら胸に残っている。
 もっと警戒していればとか、シグナムが前衛に立った時にあたしは援護へ回るべきだったんだ、なんてもう全部手遅れなのに。
 それでも頭はああしてればという気持ちばかりが巡って、その度に何でもいいから当たり散らしたくなる。まるではやてに出会う前の自分に戻った気分だった。
 けど、はやて達はあたしよりもっともっと辛いはずだ。どんな理由があったって、ここまで町を壊してきた犯人を許そうとは思えねえが、はやての前で人を殺した黒幕野郎はさらに許せない。
 あたしは何もできなかったけど、せめてはやての傍にいたい。はやては、あたしとシグナムの目が醒めたと知って、急いで走ってきてくれた。
 でもその時のあたしはまだ今の状況をまるで知らなくて、涙目であたしを抱き締めるはやてにされるがままだった。
 その時は正直嬉しいのと悔しいのがない混ぜだったな。それもこれも全ての話を聞き終えて全部吹っ飛んだ。そして、またはやての所に行こうと会議室を出たタイミングで、あたしはそいつと出会った。
「よう」
 まるで待ち伏せていたかのようだと思ったけど、実際待ち伏せてたんだろう。だってこいつはあたしとシグナムより一足早く目覚めて、ここで同じ話を聞いたはずなんだから。
「えーと……ひまやなんとか、だっけか。いや、ひらやま?」
「檜山修一だよ!」
 高い身長と茶色に染めた髪に、この軽薄な騒がしさ。結構特徴的な奴なんだが、どういうわけだかトルバドゥールの三人組だと一番記憶が薄い。残りが拓馬とあのゴスロリ男のせいか?
「修一か、どうした?」
 あたしの後ろに続いて部屋を出ようとしてたシグナムは修一の名前を憶えていたようだ。そういやあたしが拓馬と揉めたみたいに、シグナムは修一と一悶着あったんだっけか。
「ああ、トレーニングのお誘いに来たのさ」
 修一が白い歯を見せ格好付けて笑う。ドヤ顔とかいうんだったか、これ? あたしは、だからどうしたとしか思えねーけど。
「悪いがそんな気分じゃねえよ」
 そんなことより、早くはやてに会いたい。こんな起きて早々トレーニングなんて考えてる戦闘狂(バトルマニア)には、到底付き合おうとは思えない。
「そうだな、悪くない提案だ。ずっと眠っていて、身体が鈍っている。だが主はやての様子を見るのが先だ」
 あたしと違ってこっちの戦闘狂(バトルマニア)はやる気満々みてえだ。でもはやてが心配なのは共通の想いらしい。別に意外でもなんでもねえけどな。
「そのはやても、トレーニングルームだぜ?」
「なんだって?」
 二度目のドヤ顔は少しムカついた。狙ってやってるのかこれ。結局あたしも、シグナムと一緒にトレーニングルームへ向かうことになってしまったのだから、その表情は正しいのかもしれないけれど。
 修一の言う通りトレーニングルームには、はやてがいた。他にもなのはが、あたし達の姿を見つけるなりこっちへ駆けだしてくる。
「ヴィータちゃんに、シグナムさん!」
「いきなりこっち来るなよ。さっきも医務室で会ったばかりだろ」
「だってー」
 二人ともあたし達を待ってたんだろう。既にバリアジャケットに着替えていて、準備は万端だった。
「はいはい、なのはちゃん落ち着いて。二名様ご案なーい」
「あたしは、はやてに会いに来ただけだからな」
「へいへい、わーってますよ」
 どことなく軽い調子な修一の態度が、あたしには気にくわない。拓馬の腹に何かを隠した嘘っぽさとはまた違う、へらへらしたチャラさがどうも好きになれねえ。
 シグナムはこういうタイプが一番嫌いだと思っていたが、修一のことは警戒もしてるがそれなりに気に入ってるらしい。同じ剣士として通じ合うものでもあるのか?
「二人共、もう動いても大丈夫なんか?」
「ええ。身体に起きていた障害は、もう全て除去されましたので」
「せやけど、まだ病み上がりやねんから、あんま無理したらあかんで」
 優しいはやては、やっぱりあたしとヴィータを労ってくれる。自分だって本当は精神的に辛いはずなのに、それをおくびにも出さない。
 その見せない辛さから支えるために、あたしはここに来たんだ。
「はい、ですが……」
「身体動かしてりゃ、ぐだぐだ思考せずに済むもんさ。そうでしょ、シグナムさん?」
「そういうことだ」
 あたしらは敵を捕らえようとして返り討ちにされ、肝心のはやてを守るという役目さえ果たせなかった。しかも失敗の積み重ねた結果として、真犯人にはまんまと逃げられ証拠さえ抹消されたらしい。
 何がヴォルケンリッターだ。何が鉄槌の騎士だ。あたしは自分で自分が赦せない。
 そしてその悔しさは、精神リンクがされているシグナムからも流れ込んできている。
 次に負けないためには、負けた時より強くなるしかない。だったら余計なことは考えず鍛練しようってんだろう。シグナムらしい考えだ。
「ヴィータちゃんは参加しないの?」
「あたしはいいよ、そんな気分じゃねえ」
 けどあたしはそんな単純に割りきれなかった。
 強くなりたい。けど今はどうしても心が身体についていかねえ。この半端な気持ちのまま模擬戦なんてやっても、他の連中に迷惑をかけるのは目に見えてる。邪魔になるくらいなら、大人しくしていた方がまだマシだ。
「だったら暫く見学だけでもどうだ? 見てる内に身体動かしたくなるかもしれねえしさ」
「……そうしておいてやる」
「ありがとよ」
 今のあたしができんのは、皆が訓練に熱を入れすぎないように見張っておくぐらいだろう。
 そうしてあたしをメンバーが話し合い、模擬戦の組み合わせが決まる。案の定、シグナムの模擬戦相手は修一だった。
 二人は剣の種類や戦術こそ異なるが、戦闘ではよく噛み合う。
 そう言えば、修一から誰かを訓練に誘っている姿は初めて見た。普段トルバドゥールが模擬戦とか訓練している姿を見るのはあまりないが、中でも修一はシグナムに挑まれ模擬戦させられている以外目撃したことがない。
 しかしそれにしては、シグナムのハイペースに付き合わされていても、疲れた様子は見せてないのが少し意外だ。
「はあ!」
「っせい」
 あいつら、二人してクロスレンジで剣を交え続けているが、どちらの打ち筋にも乱れはまだ現れない。
「相変わらずのスタミナだな」
「シグナムさんこそ、こりゃ剣道部の連中はしこたま鍛えられてそうっすね!」
 しごかれて、じゃねえの? 口にはしねえけど。
 修一の奴、普段はちゃらんぽらんだが、訓練時はスポコンみたいになるな。似合わないのか、剣士らしいのかは、あたしにはよくわからない。
「ん?」
 二人の打ち合いは一太刀ごとに速度と激しさを増していくが、お互い全て捌き合っているし、鍔迫り合いすらならない。
 手数はシグナムが多く模擬戦のペースを握っていて、修一は受けに回っている。シグナムらしい、芯の入った打ち込みだった。
 ただ、時折放つ、修一の一閃が速い。
 魔力の多くは刀に集中されているので、ほとんど肉体を行使した技術であの速度を生み出していることになる。
「シグナムが気に入るわけだな」
 あいつは根っからの剣士だ。
 しかし、あいつらいきなり飛ばしすぎじゃねえか? あの二人はホント、根っからの戦闘狂(バトルマニア)だな。
「おいおいお前ら……」
「シグナム、ちょう力入りすぎや。修一さんも起きたばっかりでまだ本調子やないんですから、力は抑えといてくださいね」
 加熱していく二人に、はやてが念話でやんわりと割り込んだ。はやては自分の訓練をしながら、二人のこともしっかりと気を配っていたみたいだ。
「ご配慮ありがとうございます、主はやて。少々肩に力が入ってしまっていたようです」
「悪い悪い。ちいっとばかし、盛り上がり過ぎたな」
 あいつらいきなり周りが見えなくなる程、真剣勝負になってやがたったな。よっぽど二人して戦闘の相性が良いのと、やっぱ悔しいんだな。
 修一だってあたしらと似たような境遇なんだ。何も思わないわけがないだろう。
「ほんなら、わたしとシグナム、なのはちゃんと修一さんの二対二で模擬戦をいこか」
「それ、わたしもさんせー!」
 はやての提案になのはが同意した。二人がマジになり過ぎないよう、調整するつもりなんだろう。
 シグナムと修一も反対の意はないようだ。
 特にシグナムは、はやてにこれ以上の心労はかけたくないだろうしな。
 そして四人は適宜休憩を挟みながらの模擬戦を続けていく。はやてとなのはいつも通りのペースで調子も良さそうだ。
 休憩中に、修一が何度か鏡に連絡を入れていた。どうやらトレーニングの誘いみたいだが、鏡が乗り気じゃないらしい。昼休みで昼食を食べ終えてから、修一は鏡を連れてくると、一度アースラから抜けて地球に戻った。
 あいつらは仕事が絡むと互いの私生活にまで干渉し合うことはなかったんだが……ま、あたしには関係ないか。
 休憩を挟んでまた軽いトレーニングを始める。
 なのはとはやてはやっぱりいつも通りだ。あたしが起きて、模擬戦をして、一緒に昼飯を食べて。
 だからこそ、あたしはおかしさを感じた。
 どこがおかしいのかを具体的に説明しろと言われたら、言葉に詰まるようなもんなのに。
 小さな、でもしっかりと残り続ける違和感は、あたしを不安にさせる。
 わからない。違わないけど何かが違う。
 ふとシグナムと目が合った。念話をしたわけじゃねえけど、それだけで十分だった。
 確かめよう。そして方法は、きっとこれが一番のはずだ。
「おい、なのは」
「あたしと模擬戦すっぞ」
「え?」
 あたしから出した突然の申し出に、なのはは目が点になっている。そんなのあたしの知ったことじゃねえ。
「いいからやるぞっつってんだ」
「でも、ヴィータちゃんさっきまで、あたしはやらないって」
「気が変わったんだよ。嫌とは言わせねーぞ。そのためにあたしを見学させてたんだからな」
「けど……」
 なのははあたしの心変わりを不審がり、どうしたらいいのかとはやてをチラチラ見ている。
「ヴィータ、やる気になったんは嬉しいねんけど、いきなり過ぎひん? 無理はせんでええねんで」
「大丈夫だって、はやて」
 普段なら心配してもらえるのは嬉しい。けどこの時だけはそれをもどかしく感じた。
 あたしも気が急いているんだろう。このモヤモヤした気持ちは、ちょっとずつ焦りになっているようだ。
「主はやて。実は参加しようか迷っていたのを昼食中に私が聞いていたんです。それなら踏ん切りが付いたら自分から志願しろと、そう助言していました」
 あたしの意図を汲んだシグナムが、そう言ってはやてを説得してくれた。
 あたしらがこういう風に連携するのはあまり多くないので、はやては意外そうな顔をしている。
「せやったらええねんけど……。無茶したらあかんで?」
 シグナムの説明で納得はしきれないまでも理解はしてくれたらしい。消極的ではあるけど模擬戦を認めてくれた。
 これでなのはも断る動機を失って後は流れるままだ。あたし達は正面から見つめ、構え合う。
 さあ、行くぜ。

[カテゴリ単位の記事]

コメントを残す

サブコンテンツ

このページの先頭へ