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緋色の平穏 Ep10『極彩の殉教者6』

 円が作った朝食を摂取して、俺はいつものバイトに行ってくると家を出た。今日のバイト現場はフェイトの家である。
 というか昨日の疲労が残っているだろうから、今日は家で大人しくしていろと連絡が来ていたが無視して外出だ。要は独断専行であって、バイトですらない。
 それでもフェイトの家に赴くのは確かめたい事実があるからと、加えてベッドを買うためだ。生足と添い寝が俺の精神に思いもよらぬ大ダメージを与えたため、火急的速やかに足の付いた寝台が必要と判断する。これなら、いくら夏でも無理に寝床への不法侵入は行えまい。
 しかし、外に出たまでは良かったが、そこからが試練だった。身体のダルさ再発である。円と過ごしていた間は大分緩和されたと思っていたのだが、一人になって暫くすると自覚症状は大きくなり無視できないレベルになってきた。
 それでもやはり動く障害になるレベルでもないので、少し早足で移動し、テスタロッサ家に到着する。
 インターホンを鳴らして出てきたのはアルフだった。俺より消耗しているフェイトは、アルフと二人でハラオウン家にてお留守番らしい。
「何であんたは彷徨いてるのさ」
「六身上の都合でね」
 もう一身増えたら、たとえ親戚でも結婚できてしまう遠さだ。俺は血縁はおろか家族すらいないから、一身上しかあり得ないのだけど。
「平穏に暮らしたいとか言いながら、休める時に動いてるじゃないか」
「俺の平穏と休む時は、俺が決めるよ」
 本当に自分の意志のみで決められたら、閏年並の確率でしか頑張らないだろう。俺の怠惰っぷりは、お隣さんにも定評があるのだよ。
「上がりなよ。どうせ目的はフェイトだろ?」
「わーい、ふぇいふぇーい!」
「それがジョークってのはわかってるけどさ、もうちょっとどうにかならないかい?」
 やれやれと困った顔でたしなめられた。もっと普通に怒られると思っていたのに。
「昨日はあんなことがあったんだ。明るく振る舞ってはいるけど、内心はすごくショックを受けてると思う」
「わかってるよ。そのために俺は来たみたいなもんだからな」
「そうか。あんたもフェイト一緒にあの犯人を追ってたんだったね」
 あんたが一番フェイトの気持ちをわかってやれるのか、と何かを託されてしまった気がする。
「俺よりお前はどうなんだよ?」
「あたし? あたしは元気に決まってるだろ」
 明朗快活にアルフは笑みを見せる。肉とか頬張ってたら、さらにそれっぽくなるだろう。
「お前はフェイトを一番に守らなくちゃいけない立場だからな。辛いなんて言ってられないってかい?」
「それもあるけど、あたしはなんともないよ。昨日はせいぜい、かすり傷くらいだったしね」
 ふーん。さて、ならば次は本丸のフェイトを攻めようか。仮に攻め落としてもフラグは立たないだろうけど。俺の人生一体どれだけアップデートを繰り返せば、フェイトルートが実装されるかな。
 そんな二次元と三次元の境界曖昧ごっこな妄想しながらアルフの後を付いて行ったら、リビングのソファーにフェイトが座っていた。
 相変わらず非実在性なんたらにしか見えない美少女だね!
「いらっしゃい、たっ君」
「お邪魔しております」
 特に驚きもないまま挨拶されたので、アルフから念話の根回しがあったのだろう。前もってそっちに行くと連絡したら、リンディさんかクロノに大人しく寝てろと却下されそうだと思っただけで、別にフェイトのびっくりしてる顔見たかった訳じゃない。ないんだからね!
「すぐお茶煎れてくるから少し待ってて」
「いいよ、あたしが煎れるから、フェイトはゆっくりしてなって」
 俺は調子よろしくないし、まだベッド探しもあるから長居するつもりはないのだけど、止める前にアルフは行ってしまった。いいか、道中で喉は渇いたし。
「どうして家に来たの? 母さん達は皆管理局だよ?」
「ちょっとフェイトの様子を見にね」
 フェイトエンドに必要なイベントをこなしに来たのさ。とは言わない。どうせ全部こなしても、いいとこノーマルエンド止まりが目に見えてるし。
「やっぱり。ごめんね、心配かけて」
 というか、体調不良によりネタどころか駆け引きする余裕があんまり残ってないので、いきなりストレートを投げてしまった。それでも、俺の考えが正しいなら今回はいけるはずだ。
「あんなの誰だってショックだろうさ」
 なのはとはやても、昨日は管理局でメンタル面のケアを受けてるはずだ。美濃家の結末は、普通ならそれだけ精神に支障をきたす一件だった。
「だけど、あれは私の責任だと思うから」
「そうやってすぐ自分で背負い込むのは」
「私の悪い癖、だよね」
 俺の言葉を遮って、フェイトは自分の想いを続けていく。
「わかってる。現在の後悔と弱さは、未来へ繋げる強さにしなくちゃ」
「そうだな」
 それは前に俺がフェイトに語った彼女の在り方について、その一つだ。
「私は大丈夫だよ。何とも思ってないと言えば嘘になるけど、あの時に感じたから」
「あの時?」
「耶徒音と戦って負けそうになった時に、私が立ち上がれたのは皆がいたからなんだよ」
「なのはやはやて達か」
「皆だよ。なのはもはやても、アルフもリンディ母さんもクロノも、もちろんたっ君も。私の命は皆に支えられているんだ。離れていても感じられる力を絆と呼ぶんだって、心で理解できた」
「その“考え方”は正しいと思うよ」
 気持ちってのは伝えなければその発揮しないし、伝えたとしてもそれに感じ入るものがなければ共感は抱けない。そn思想や思考に間違いはないと思う。
「フェイトぉぉう!」
 お盆に三人分の飲み物置き運んできたアルフが、何やら激しく感動している。その手に持った余計な荷物をそそくさとテーブルにおいやり、感情任せてフェイトにダイブした。
「どうしたのアルフ?」
「嬉しいんだよ。だってあんな事件があったばかりなのに、そんな気丈に前を見てるなんて、フェイトは強くなったね!」
「ありがとうアルフ。でもそれだって皆のお陰なんだよ」
 フェイトはよしよしとアルフの長い髪を撫でてつつ、優しい口調で宥めている。心優しく思い遣りの人一倍強い、いつものフェイトだ。
 その微笑ましい光景を見守る俺の気分は、すこぶる悪い。軽く目眩までして、短時間でここまで体調が悪化するなんて思いもよらなかった。これで俺がここへ来た目的は果たしたし、速やかに撤退しよう。
「フェイトは大丈夫そうだし、俺はおいとましましょうかね」
 だが俺がこんな状態だと悟られるわけにはいかない。駆け引きはしないが、強がりはする。アルフの持ってきてくれたアイスティーを手に取って軽く揺らし、氷が踊る涼やかな透明感のある茜色を視覚で楽しむ振りをしてから、ストローごしに口を付けた。
「あ、ちょっと待ってたっ君」
「何? フェイトも俺に用事があった?」
「私じゃなくて」
『用事があるのは僕だよ拓馬。内容は説教だけどな』
「密告したな、裏切り者!」
 突如目の前に出現したモニターには険しい顔をした執務官が映し出されていた。わー。フェイトったら抜け目なーい。わーわー、やばーい。
「どうしたいクロりん?」
『今日は大人しくしてろと言っておいたはずだろ』
 ボケもスルーされて怒られた。これだから真面目美少年キャラは困る。ボケは殺さずに生かして光らせるべきなのだ。PTO? そんなつまらないもの滅んでしまえ。
「いやほらクロりんの顔見て元気を貰おうと来たのだけど、クロりん居なくて今から帰ろうと」
『目的はフェイトか』
「何故わかったー!」
『というか、それ以外に何があるんだ』
 クロりんめ、俺のネタは全部殺す方針できたな。なんて冷徹な子でしょう。親の顔は、今見たらもっと凄惨なフルボッコを受けるから、相手するのは息子だけにしておこう。
「だってー、ずっと家に引きこもりは退屈だもーん」
 円ママンにも、外を出歩く余裕があるとアピールせねばならないし。積んでるエロゲーでもあれば話は別だが。
『そうして好きに出歩いて、いざと言う時に体調不良で戦えなかったらどうするつもりだ?』
「家の子に限ってそんなこと!」
『お前の話をしている!』
「わークロりんが怒ったー」
 意外と容易く、その冷静な上っ面はひっぺがせる子だ。まだまだ若いな。通信相手がリンディさんじゃないのは不幸中の幸いだった。
『はぁ、あんなことがあった直ぐだ。君の気持ちもわからなくはないが、あまり長居はせず帰るように』
 んー、わかりにくいけど、“これも”かな。この際だ、得られる毒は皿ごと行っときますか。支払いは鰹節みたいに削られる自分の意識だ。
「ところで、そっちの美少女二人は? あの子達だって、療養のために管理局行ってるようなもんだろう」
 ちなみに俺には後で美羽が治療の続きをするために外来する予定だ。それまでにやるべきは済ませておくつもりである。
『あの二人は今朝目覚めたシグナムや修一と模擬戦をやってる』
「起きたんだ、シグナム。ユーノとヴィータは? というか、あの子ら、めちゃアグレッシブだなあ」
『もう全員目覚めてるが、修一はスルーするんだな』
「だってどうでもいいし」
 どーせ体育会系な修一は、シグナムと一緒に本格的に身体を目覚めさせているのだろう。むしろ模擬戦に鏡の名前がない方が気になる。
『なのは達模擬戦組は、今回の反省を踏まえて、次の戦闘に備えているといったところだ』
「俺は休むべきだと思うがな」
『どの口がそれを言う』
 この口は何でも吐きだしてしまうのさ。吸ってコピーもできたら便利なのに。
「舌は沢山あるとたまに言われるよ」
『それは同感だな』
「ふん、それはともかく、今は特にオーバーワークさせるなよ」
 動いてる内は、目先を追って細かい思案はしないものだ。だから不安から逃げるためにくたくたになるまで動いてしまうのは、そんなに珍しくない。特に普段から身体を動かす者の方がその傾向は強くなる。修一はあれで落ち込んでるだろうから、その心配は小さくない。
『それはわかってる。なのはとはやてが適度に休憩を挟むようにしてるようだから、あまり心配はしてないが』
「へえ。ならいいけど」
 あー、あったま痛いなあ。引き上げたいけど、もう一歩だけ踏み込もう。
『他のメンバーは自己判断で療養だ』
「鏡も?」
『そうだな。何か思うことでもあったんじゃないか?』
「その辺氷漬けになってないといいけどな」
『それならこっちで異常を検知できるだろ。もう少し仲間を信用したらどうだ』
 おいつが溜まったフラストレーション発散するために、八つ当たりで暴れるのはたまにあるのだ。あいつらの行動パターンはしっかりと把握している。
「さて、そっちの雰囲気はだいたい把握したよ。俺は行かないから安心してくれ」
『来たら追い返すだけだ』
「もっと丁重に扱えよ。怪我人だぞ」
『君の使い方が一番荒いのは、使用している本人だと思うがな』
 誰がそんな正論を申せと言ったよ。反論ができないじゃないか。する必要もないから終わらせるけどな。
「じゃあ大切に扱うために帰るよ」
『ちゃんと寄り道せずに帰るように』
「俺は小学生かよ!」
『お前の隣に座ってる小学生は、とても聞き分けがいいけどな』
「ぼくあかつきたくま、ことしで五ちゃいです」
『さっさと帰れ!』
 怒って話をたたっきるみたいに、通信が終わったというか、終わらされてしまった。投げやりだなあ、俺が。
「たっ君と話をするクロノは楽しそうで、ちょっと羨ましいかな」
「あれがか?」
 俺とクロノの会話を邪魔しないように大人しくしていたフェイトは、開口一番予想だにしない感想を言ってくれた。一年程もクロノと仕事したならば、あいつの胃に暗く深い穴を開けてやれる自信があるぞ。
「あんな調子でクロノが話をするの、他にエイミィとユーノくらいだよ」
「その特別枠は光栄と言うべきなのか?」
 しかもその二人とも、俺の扱いはまた微妙にズレている気がするぞ。俺は的確に逆鱗を撫でまくっているだけであり、親愛は有りそうでないし、ないものはない。
「そうかな」
「俺はそう思うよ」
 フェイトがどうでもいい話を振ってくれたから、ちょっとでも気分は安らいだ。この内だな、と俺は残ったアイスティーを飲み干して、膝を手で押さえながら席を立つ。
「じゃあ俺は行くよ。お茶、ご馳走様」
「ごめんね、帰ろうとしてたのに呼び止めちゃって」
「気にしないでいいよ。管理局の様子も知れたしね」
 どちらかというと、呼び止められたことじゃなくてクロノに売られていたのがショックだったよ。自業自得と言われればそれまでだけどね。次はチクらねぬよう、きちんと先手を打って根回しをしておかねば。
「じゃあ、また明日かな」
「気を付けてなー」
「うん、お邪魔しました」
 気を付けてがとても滑稽に聞こえる。誰に対してもね。
 こうして俺は、フェイトとその使い魔に見張られるよう見送られて、ハラオウン家を後にしたのだった。

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