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緋色の平穏 Ep4『タンブリング・ダイス1』

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 走りだした霧の中、信じられるのは己の感覚。

 ●

 なんだかすごく懐かしい夢を見た。俺がまだ色々と厨二病だった頃の夢である。
 『あいつら』に飼われてからもう10年以上経つのか。などと思ってみても感慨深い気持ちにはならないが、あの頃から今までずっと悪行三昧だったな。

 殺人なんて呼吸するのと変わらないくらい自然に実行できるし、欲にまみれたおっさん共から金品強奪した回数は数えもきれない。
 まともな思考の人間なら、見ただけで胃の中のもの全部吐き出すだろう拷問を行ったこともある。
 逆に捕まって、筋骨隆々の男に後ろの貞操を奪われそうになんてこともあった。残念ながら俺はノンケなので、ウホっとはいかなかったけど。

 それでも、こんな様々な犯罪に手を染めてきた悪党でも、『痴漢』の罪で捕まったのはこれが初めてだ。
 床のひんやりとした感触が、心地……よくは全然無い。
 だって鉄製だもん。
 そもそも俺は何で正座を強いられているのだろう? これは不平不満を漏らしてもいいレベルのはずだ。

「弁護士だ。弁護士を要求する!」
「黙れ。貴様らには弁解の余地など一切ない」
「シグナム、少し落ち着いて!」

 今にも斬りかかって来そうな、さっきを放つシグナムをフェイトちゃんが宥める。

「こんなボロ雑巾の少年捕まえて、人権侵害とは思わないのか管理局!」

 全身包帯だらけの少年だぞ! この姿、誰が見ても絶対安静じゃないか。
 今何とか動けているのは、さま……シャマルさんにうってもらった痛み止めが効いているからにすぎない。

「そうだそうだ! 美少女に責め苦を与えてはぁはぁしていいのはエロゲーだけよ!」
「わかったならすぐに俺たちを解放して、ポニテの剣士さんと、金髪のお姉さんと、長髪で犬耳さんのスリーサイズ教えるんだ!」
「お前らは少し黙ってろ」

 俺が一番左で順番に鏡と修一が並んで正座している。そして余計なことを喚いている。
 対面するように、向うにはなのはちゃん、フェイトちゃんとその使い魔、十代後半くらいでオレンジの長髪に犬耳と尻尾を持つ女性アルフさん。
 他にも八神一家のはやてちゃん、シグナムちゃん、ヴィータちゃん、シャマルさん、そして初めて見る銀髪でがたいが良く、アルフさんと同じように青い耳と尻尾を持っている男。ザフィーラさんだろう。
 後は、金髪で緑の瞳を持つなのはやフェイトと同じ年くらいの少年、ユーノ・スクライア。

 ユーノを見た鏡が念話で「女装させてみたい」と呟いていた。変なフラグが立っちゃったよ。
 取調べにしてはえらい大所帯だが、もし俺達が暴れた時のためらしい。じゃあ、そもそももう少し待遇をさ……。

「黙られても困るねんけどなぁ……」

 はやての一言に正座していない人達が全員頭をかかえる。いやまぁ、気持ちは分からなくもない。だってずっとこの調子らしいから。

 俺は球太郎との戦いの後気絶し丸一日は寝ていたため、まだ正座を開始して数分程度である。
 しかし、他の人達は今日だけでも既に数時間、その上昨日もやっていたらしい。

 つまりこの不毛な行為も昨日から延々と続けているわけだ。
 こっちサイドにもアースラサイドにも、精神的ダメージは大きいだろう。いつ終わるかわからない戦いとは、通常よりも精神力を削るものだ

 さっき念話で聞きだした鏡の証言はこうだった。

 遊ぶだけ遊んだし、満足したから拓馬を囮もとい尊い犠牲にして逃げようとしたんだけど、その前にバインドで二人揃って捕獲されちゃったのよ。
 しかもあのおっぱい剣士は私があの球体を投げるのを見てたらしくて、現行犯逮捕されちゃった。てへ。
 その後拓馬は治療のために別室に連れて行かれて、私達は取調室らしきところに連行されたわ。

 そう、初めはちゃんと椅子と机があったのだ! カツ丼はなかったけどね。
 それに聞き取りを行っていたのもおっぱい剣士とおっぱい金髪美女。後は大して魔力も感じない弱そうな男の局員。

 取調べが始まって早々、あの馬鹿修一がおっぱい剣士とおっぱい金髪美女のおっぱいサイズを聞きだそうとしてね。それが直接の痴漢被害者であるおっぱいズの逆鱗に触れたのよ。
 おっぱい剣士が一度取調べ室から出て行って暫くして帰ってきたかと思ったら、今いるトレーニングルームに移動させられてこの状態。もう最悪よ!

 ……とりあえず、こいつらを信じた俺が馬鹿だった。つか置いていこうとしたことを堂々と暴露してるんじゃない!
 この二人は全くもってアテにならない。どうにかして、こっから脱出する策を練らないと。

 しかし、この状況でどうしろってんだ。
 デバイスを没収されているから、下手に暴れるのは逆に自分の首を絞めるだけの駄作だ。

 それをわかっているから二人も物理的な抵抗はしていないのだろう。
 かと言ってここまで不利だと話し合いも無理。一方的な敗北しか待っていない。

 嘘をつくにも現行犯じゃここから出れるレベルのペテンはやりようがないし、交渉にしたってお互いの状況の差がありすぎて結べるのは不平等条約のみだ。
 なんという無理ゲー!

 だとしたら、残された手は一つしかない。
 まぁ多分この二人もそれに賭けているのだろうから、この調子なのだろう。とは言えこの作戦、人任せ過ぎて個人的にあまりやりたくはないんだけどなぁ。

「さっさと吐いて楽になりなよ。お腹空いてきたし」

 俺達より飯っすかアルフさん……。とは言え、こうまでわけわかんない状態じゃ不満が出るのも当然か。

「だってー、ここで冤罪だといっても信じやしないでしょう?」
「この状況じゃ、流石に信じようがないわ」
「言い訳など出来る状況ですらなかっただろう。諦めろ」

 諦めたらそこで終わりなんだよこん畜生!

「目に見えるものだけが、真実とは限らないんですよ?」
「それって、どういう意味ですか?」

 よし、なのはちゃんが食いついた! ここから話を広げて突破口を開けるのだ。俺のドリルが天を衝く!

「信じるな高町。それがそいつの手だ」
「は、はい!」
「子ども達を利用しようとする態度、ますます気に入らないな」

 ……わけなかった。警戒されまくりだ。これじゃ取り付く島もない。

「失礼ですね。あなたと話すのは初めてのはずですが?」
「テスタロッサからお前の話は聞いている。この詐欺師め」

 凄い軽蔑の眼差しだ。マゾヒストなら逆に燃え上がるに違いない。
 曲がったことが大嫌いな人種から見れば、俺みたいな人間はまさしく天敵なのだろう。

「ああもう! 詐欺師とか魔法を使って戦ってるのに魔導師じゃないとか。そもそもお前らいったい何者なんだよ!」

 あーあ、ヴィータちゃんったら、その台詞はろくな結果を生まないのに。しかもそれ全部俺にしか当てはまらないぞ。

「僕の名はエイジ。地球は、狙われている」
「情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース、それがわたし」
「わたしの名は『ヌ・ミキタカゾ・ンシ』といいます。年齢は216歳です」

 三者三様。それぞれの好みが浮き彫りになるネタのチョイスである。

「鏡お前ネタ古過ぎ」
「何言ってんの修一! あんたこそ新しけりゃ良いってもんじゃないのよ! あんたのハルヒネタは別の意味でもう使い古されてるじゃない!」
「おいおい、拓馬の分かる人間がいるのかまず怪しいくらいのマイナーネタよりはマシだろ」
「ああ? 貴様、ジョジョを愚弄する気か!」

 ぎゃあぎゃあと正座しながら喚き散らす三人組。これをアースラチームが許容するわけも無い。

「貴様ら……真面目に答えろ!」

 おっぱい剣士さんの怒りの叫び声が、トレーニングルームに木霊した。
 しかしそりゃ無理な話だ。だって俺達三人の作戦は、とにかく時間を稼ぐことなんだから。
 一点突破が無理ならマシンガンのようにネタという弾丸をばらまきまくるのだ。

「さっき真面目に答えようとしたのに、聞こうともしなかったじゃないですか!」

 吐けといったり、吐こうとしたら信じるなといったり、支離滅裂じゃあないか。それが俺らに対応するには模範的で正しい選択なんだけれども。

「確かにそれは一理あるなぁ」
「しかし主はやて、この男に好きに話させると、虚言に乗せられてしまう可能性があります。ここは聞きたいことだけを簡潔に聞き出すべきだと、私は思います」
「せやかて、聞き出そうにも拓馬さん達が話してくれへんかったら意味ないやん。それに拓馬さん達はそないに悪い人やないと思う」

 どうやら状況が少しだけこっちに傾いてきた。これでなんとかこの最悪な状況だけでも、自力で脱出してみせる。

「しかし、実際に一度ハラオウン提督を相手に偽証をしているような者です。とてもじゃないですが私はこの男が本当のことを言うとは思えません!」
「あの時と今とじゃ、状況が違うんです。今更嘘をついたってしょうがないでしょう?」

 なーに、2割くらいは真実ですよと軽口たたきそうになるのをこらえて、何とか話を出来る状態に持っていく。
 女性としてもはやてを護る騎士としても、到底許せるものではない屈辱を与えた連中。そりゃ信じられる道理がない。
 しかし、自身の主であるはやてが話を聞いていいと言っている。いくらゴネたところで、いずれははやての意見が優先されるはずだ。
 もう少し、もう少しで突破口が作れる。

「やれやれ、胸ばっかりに栄養いってるからそんなに短気なんですよ」

 修一ィィィィィ! おいおいおいおいあくまでも胸にこだわるのかよ! そんなにシグナムさんの裸を見損ねたのが悔しいのか?

「お前は頼むから少しは空気を読めえぇ!」

 殴りたい。このままマウントポジションを取って顔の原形が分からなくなるまで殴り続けたい。

「主はやて……。どうやらこれがやつらの本音のようです。こいつらにまっとうな話し合いを行う気など毛頭ありません」
「そうやなぁ。流石に今のはなぁ……」
「デカけりゃいいってもんじゃないわよ。コンチキショー!」

 お前は悔しがるんじゃない。駄目雄め。状況説明のおっぱいラッシュは嫉妬心からだったのか!

「ま、胸に栄養行き過ぎってのだけは言えてるかもな」

 ヴィータちゃんがさり気なく、ぷぷっと吹き出す。

「ヴィータ貴様、まずお前から斬られたいのか?」
「もう二人共、そんなことしてる場合じゃないでしょう!」

 シグナムさんの殺気は予想外の方へ向いてくれたが、すぐに何やってんだとシャマルさんが止めに入った。

「頼りになる仲間をお持ちだね」
「拓馬さん達が素直に白状してくれないからです」

 皮肉っぽく言うと、なのはちゃんから溜め息混じりの返答が来た。修一のおかげで、俺の計画は御破算だ。
 だから悪いけど、まだまだ尋問は終われないし終わっちゃいけないのさ。目的が達成されるまではね。
 
 のらりくらりな押し問答はその後も続いた。俺が正座してから、既に一時間は経過している。

「ええ加減、吐いてくれへんかなあ……?」
「だから引き換えに俺が指定した人達の胸のサイズを教えてください」

 未だ……というか、ひたすらにこればっかりな修一。流石にしつこいしそのネタも飽きてきた。
 こいつが胸の話題を持ち出すたびに、ヴォルケンリッター二名から黒い殺気が放たれる。
 誰のおかげで床の上だと思ってんだ、時間稼ぎにしても話題を選べよ!

「俺から下ネタ捨てたら何も残らねーからな!」
「……サイテー」

 女性陣から浴びせられる避難。こいつもう本当に斬られてもいいんじゃないか?

 しかも修一の場合、バストサイズさえ分かればホントに全部白状しそうで恐い。
 彼女達からもう何度目かも分からない溜め息が出た。

「証拠は充分なんですから、このままだと痴漢と殺人未遂の罪で確定しまうんですよ?」

 フェイトちゃんから最後通告とも取れる言葉が出た。それでも心配げなのは、何故こうなったのか理由が不明で腑に落ちないためだろう。
 命懸けであの球体を倒した効果はここでも出ている。

「殺人じゃなくて自殺未遂じゃないかい?」
「あそこにあたし達が居なきゃ、一般客に被害が出ていた可能性もあっただろうが」
「そりゃそうだね」

 ヴィータちゃんの言葉に普通に納得してしまった。
 そう、彼女達はあそこに偶然居合わせたことになっているんだった。そうじゃない想定くらいはされているだろうが、そっちには証拠がないのだ。

「なあ、シグナムとシャマルのバストサイズ教えたら事件のこと教えてくれますか?」
「な、主!?」
「はやてちゃん! 何を言ってるの!」

 十歳の少女からまさかの妥協案が出た。修一が眼の色変えてて鬱陶しい。

「それは冗談やけど、だってきり無いやん? 今日かて見回りはせなあかんし、ずっとここでこうしてるわけにはいかへんよ?」
「じゃあせめて、そこの犬耳の女の子と、ここまで来る途中で会った茶髪の通信士さんのサイズをお願いします!」

 妥協になってない妥協案をだしやがった! 必死過ぎてなんかもう痛々しい!

「うーん、二人なら前に計った事あるさかい知っとるやけど、アルフは本人の許可がいるし、エイミィさんまではちょうわからんなあ」
「えー。それじゃ教えらんねぇな」

 ホント自重しないよ、この馬鹿。
 それでも、成立すわけない交渉だから一応これも時間稼ぎではある。
 本当のことを吐いた場合、一応この場は切り抜けられるだろう。だが別件というか余罪がざくざく出てくること間違いなしだ。

 うっかり爪の先程でも有力な情報を彼女達に流せば、それだけでアウトの可能性もある。
 それだけ彼女達アースラの人員は優秀なのだ。
 なんて色々窮地に陥ってはいるのだけど、未だにあの人は登場しない。だから人頼みは嫌なんだ。

「ああもう、どうしたもんやら」
「あなた『お前』『貴様』が言わないでください『うな』!」
「うわお、スッゴいハモり」

 鏡が口笛吹きながらそう茶化した。向こうさん方の心が、怒りで一つになったみたいだ。

「もういいでしょう、こいつらには何を言っても無駄です」
「それに拓馬さんは怪我の関係上、あまり無茶は出来ません」

 じゃあせめて普通の部屋でやろうよ。修一はこの部屋に置いていってもいいからさ。

「はぁ……ホントにどうしたらいいのかな」

 なのはちゃんに本日八回目の溜め息が入った、その時だった。

「はっはっはっはっはっは!」

 急に部屋の入口が開くと同時に、高らかな笑い声が室内に響きわたる。このやたら滅多に自分がこの場の主人公であるみたいに主張している笑い声は!

「お困りのようだね少年少女諸君!」

 そこにはこの事件の黒幕が小学生くらいの男女に挟まれる形で立っていた。

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