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緋色の平穏 Ep4『タンブリング・ダイス2』

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「クロノ!」

 突如現れた助け船に、フェイトちゃんが嬉しそうな声を上げた

「やっと来てくれた! 遅いですよ輪廻さん!」

 さっそく修一が不平不満を、随分と遅れてやって来た我等がボスにぶちまける。
 同時に登場して声一つでここまでの違いである。

「クロノ君、この人は?」

 なのはちゃんが、黒髪のチビ助に輪廻さんの説明を求めた。

「この人は……」
「それは私自身が説明しよう」

「私の名は黄泉塚輪廻。控えめに言って次元世界でも三本の指に入る天才科学者で、そこの三人の雇い主だ」

 この言葉の信憑性は正直分からないが、これだけは言い切れる。輪廻さんは、天災科学者としてなら間違いなく次元一だ。
 自分の知識欲を満たすためだけに気の向くまま戦争に介入。
 そして降りかかる火の子がウザいと言って、己の知識とコネクションを使い戦争を無理矢理に終わらせる。

 この人はそういう狂人にして暴君にして、なによりも子供。
 欲しいおもちゃがあれば、万引きどころか店ごと買い取る。そういうスケールなのだ、うちのボスは。

「えっと、その助手の黄泉塚美羽です……」

 ラスボス感しかない輪廻さんとは対照的に美羽ちゃんは名乗るや否や輪廻さんの背後に隠れてしまう。
 助手というよりはおっかなびっくりの小動物だった。でも可愛いから許す!

「その天才科学者が、何故あんな真似を?」
「まあ落ち着きたまえ。それは順を追って話そうじゃないか」

 どこまでも敵意剥き出しのシグナムさんに、輪廻さんも少し対応に困っている……というか面倒くさがっているようだ。

「それなら、場所を変えませんか?」

 なのはちゃんが場所の移動を申し出た。
 グッジョブ! これで冷たくて堅い床ともおさらばだ。

「何だ、それでは痴漢三人衆はもう解放かい? つまらないな」

 酷どいよ。あの微上司酷どいよ。
 助けに来たとは思えない態度だ。助けに……来てくださったんですよね?

「輪廻さんが遅いからこんなことになったんじゃないですか!」

 あ、修一が怒った。
 さり気なく自分達の悪ふざけについては棚に上げているのでどっちもどっちだろう。
 というか誰のせいで正座していると思っているんだろうね、あいつ。

 だが輪廻さんがそんな言葉に耳を貸すわけもなく、登場した時と同じ高らかな笑いで軽く受け流す。

「論文の提出期限が迫っていてね。とりあえず完成の目処が立ったら引き取りに行くから、私のことは伏せて彼らを石畳にでも乗せて尋問しておいてくれと、リンディに頼んでおいたんだよ」
「この現状の犯人はあんたかー!」

 というかそれは尋問ではなく拷問だろ。幼女論文の完成に俺らの進退は負けたのか。
 ここは怒らないといけない。人として己の尊厳を護るために! ただしマジ切れしようと輪廻さん相手に効果なんて無いけどな!

「ぶーぶー!」
「そんなドS思考だから行き遅れるんだよー!」
「いい年して実は一番中二病じゃねーか!」

 俺達だって怒る時は怒るのだ。今こそこの理不尽の権化に力を合わせて立ち向かう時。

「私としては勝手に逃げ遅れた無能共は捨て置いて新しい人員を募集しても良かったのだかね」
「輪廻さんらいしゅきー!」
「べ、別にあんたに助けて欲しかったわけじゃ、ないんだからね……!」
「悔しい! でも喜んじゃう! ビクンビクン」

 もはや三人のうち誰が何言ってるかすら意味がない状態だった。これがトカゲの尻尾切りにあいそうな下っ端構成の辛いところである。

「リンディ提督のお知り合いなんですか!?」

 俺らの無駄なリアクションはとりあえず放置され、驚いたフェイちゃんが輪廻さんに問い直す。これは俺も初耳だった。
 それにしてもフェイトちゃん、驚き役が板についてきたなぁ。大部分は俺が原因だけど。
 短期間で変な人にやたらと絡まれるようになった不幸を、彼女の代わりに嘆いておくとしよう。
 それでも俺の言動は自重しないどころか、エスカレートするだろうけど。

「まあね。昔少しばかりの間だが、私の上司だったんだよ彼女は」
「元上司の割にはタメ口なんですね。で、俺達立っていいの?」

 修一は釈然としない様子だ。
 あいつは体育会系の部分があるから、上下関係に思うところがあるのだろう。
 俺からすれば、この理不尽オブ理不尽が誰かに敬語使うことがまず考えられない。

「私の上に立てる人間など、この世に存在しないのだよ!」
「矛盾してる矛盾してる!」
「言えばいいってもんじゃないわよ!」

 じゃあ元上司のリンディ提督は一体何処に立っていたのだろう。風上とか? とはいえ言いたいことは察せる。

「つまり当時からタメ口だったわけですね」
「そう言うわけだ。当時は他にも色々注意されたものだ。クライドに手を出そうとした時は、生命の危機を感じたので流石に引いたがね」

 理由が何であれ、一度だけでもこの人を引かせたリンディさんは偉大だ。
 あの人でも敗北の戦略的撤退があるという事実を教えてくれた。それだけでも俺達にとっては大きな夢と希望だ。

「ホントどこでもフリーダムですね。輪廻さんは」
「はー、ようやっと足だけは自由だぜ」

 いつの間にやら許可を取っていた修一が立ち上がっていた。腕を頭上に伸ばし伸びをしてから俺らを見下ろす。

「お前等も早く立てよ」
「むしろお前は何故立てる?」

 俺でさえ一時間以上正座していたんだ、もっと長く座っていたこいつにはあのイベントが起きて然るべきだろう。
 その証拠に鏡だって正座はしていないが立ち上がってもいない。

「お前等、もしかして足しびれてんのか? たかがこの程度の時間で情けねぇな」
「私らは本来体育会系じゃないのよ馬鹿偽侍」
「というか、そろそろ行くよ君達。時は金なりだ」
「ったく仕方ねぇ」

 輪廻さんとクロノに先導されて、他の皆も移動し始めている。それに遅れないよう修一は俺と鏡の首元を掴んで歩きだした。
 
「おら、移動すんだから、さっさとしやがれ」

 鍛え上げた肉体は、暴れる同世代二人を引き摺りながらも容易く歩行する。

「引き摺るなよ、こっちは重傷人なんだよ! 傷に響くだろ!」
「だったらてめぇで歩けっての、痺れくらい我慢して歩けばすぐ治るだろうが。」

 すぐ歩けるなら苦労はないんだよ!ああこれだから体育会系の人間は嫌なんだ。

「痛いじゃないの。新しい何かに目覚めたらどうするつもりよ!」
「お前はすでにもっと危ないもんに開眼してるじゃねえか!」

 それは同意せざるおえない。
 結局、俺と鏡は自力で立てるようになるまで引き摺られ続けた。

「大丈夫? 痛かったら右手上げてね?」
「ありがとう美羽ちゃん。でも歯医者じゃないんから……」

 結局皆より少しだけ遅れて目的地に着いた俺と鏡は、足が動くようになったところで逆襲に出て叩きのめした修一をそこら辺に投げ捨て席に着いた。
 そして今、俺は美羽ちゃんに治療魔法をかけてもらいながら輪廻さんの話を聞いている。

「つまりあのマシンは元々、最近街を騒がせている連続殺人鬼を捕まえるために開発しものなのだよ。そこ、人が説明している中でにゃんにゃんするのは自重したまえ」
「せめていちゃつくなくらいの表現でお願いします」

 にゃんにゃんってなんだ。
 猫耳と尻尾とグローブを付けたなのはちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃん、美羽ちゃんが並んで踊っている姿を想像してみた。
 これは…………世界を獲れるかわいさだ!

 おっと、ちょいと妄想ワールドに転移してしまい、美羽ちゃんに心配そうな顔された。
 不振がる美羽ちゃんを何でもないよと諭しながら、輪廻さんの話を頭の中で噛み砕く。

 輪廻さんは常々今起きている連続殺人事件に興味、もとい憤りを感じていた。
 しかし、捕まえようにも犯人の魔力を探知できるのは犯行の一瞬だけ。
 そのために、魔力探知機であるあの球が開発されたのだ。

 とりあえず試作型を作成し、人が集まる場所として選んだプールで探知機能の試運転をすることになった。
 ここで予想外の事態が発生してしまう。
 それは、アースラチームがいたこと。

 いた事そのものに問題はないのだが、想定外の魔力量の感知に球太郎が暴走してしまったのだ。
 さらに緊急停止も作動せず、結果大暴れ。

 この異常事態に責任を感じた俺達は、アースラチームと協力して球体を破壊したのだった。
 だがこんな話、アースラ側からすれば子供の言い訳を聞いているような気分だろう。輪廻さんとリンディ提督が知己の仲であるなら尚更だ。

「そんな言い訳が通用すると思ってるの? 『管理局始まって以来の大天才』だった輪廻?」

 実に皮肉めいた言い回しで、輪廻さんの説明を否定したのはリンディさんだった。

「はっはっは。『全次元始まって以来の超天才』の人生にも、一回くらいケアレスミスはあるのだよリンディ」

 二人共綺麗な笑顔とバックの不穏な空気が、見事に噛み合っていない。
 文字に変換するなら、『ドドドドドド』って感じだ。重苦しいことこの上ない。

 どうでもいいことだが、二人の年齢はリンディさんの方がずっと上のはず。
 なのにリンディさんの反則気味な若々しさと輪廻さんのため口で、どちらも同い年くらいに見える。
 輪廻さんも年齢よりは多少若く見られる方なのだが、いやはや恐ろしい人である。

「このお話、本当なんですか?」

 自分の義母が発する空気に耐えかねたフェイトちゃんが、俺に聞いてきた。
 懲りない子だな、おい。

「本当だよ」
「嘘なんですね」
「今、何故聞いた」

 凄い即答だった。十分懲りていたようだ。軽く今までの報復を受けた気がする。

「だって、今までずっと嘘ばかりついてきたじゃないですか」
「今まで行動と言動から考えるなら当然の反応じゃないかしら?」

 ここでフェイトちゃんとリンディさんのツープラトンが来た。
 リンディさんはバックに黒いオーラが見えそうな微笑で、フェイトちゃんは表情を隠すことなく怒っている。
 恐いよ。この親子恐いよ。

「そこの詐欺師ならともかく、今回話したのは私なのだよリンディ。それを疑うとは神に逆らうと同義ではないかな?」
「じゃあ何故、戦闘時シャマルさんが撃墜されるまで静観していたのかしら?」

 リンディさんは視線を俺へ向けたまま質問した。
 俺なの? 輪廻さんが説明するんじゃないの? まさかのリンディさんとの第二ラウンド開始なのか!?

「冗談じゃないよ。何でまた俺が説明しなきゃいけないんだ!」
「司令塔だけでなく、実動隊の話も聞いた方がわかりやすいでしょう?」

 それにしたって急に無茶振りし過ぎだ。
 どう考えても輪廻さんじゃ埒が開かないと判断し、不意を打って俺使おうとしてるようにしか思えない。
 それならそこで欠伸してる二人でいいじゃないか。ああでもあいつらだと余計な爆弾を投下する可能性がある。

『一度は下した相手だろう? 今一度君のペテン力を見せてやるがいい!』

 予想だにしない事態なのに、やたらと輪廻さんがノリノリだ。ペテン力って何だよ! 溜めたらペテン斬りでもできるのか!
 全員の視線が俺に集まっていて、実に嫌な空気だ。もう否応なしに俺がやるしかない。嘘混じりで。

「わかりました。俺達には初め、球太郎が暴走した時点で徹底命令が出ていました。でも微かな罪悪感から逃げ遅れて、結界に閉じ込められたんです」

 ちゃっかり目覚めていた修一が首を縦に激しく振っている。
 このテンションは焦っているわけではなくて、空気に任せて遊んでいる感じだ。ああ殴りたい。

「あら、シグナムさんの裸に見とれてたのかと思ったわ」
「まさか、俺は小さい方が好みです」

 横から剣を抜く音と、スプラッタシーン突入を防止するための声が聞こえる。
 フェイトちゃんは耳まで真っ赤だし、リンディさんのオーラが巨大化した気がする。こっちのがよっぽどオーラ力じゃないですかー。
 こいつは、近年稀にみる失言をした気がするぞ。
 さっさと続けてごまかしてしまうしかない。

「それからも静観を決め込んだのは」
「次の犠牲者に期待したから?」
「管理局の面々で対処できると思ったからです」

 ここのリンディさんの割り込みは否定しておく。だって更に金髪巨乳さんという新たな殺気が増えたんだもん。俺だって腹から腕が生えるのは嫌だ。

「俺達三人は球太郎の戦闘に関する性能を知りませんでした。だから若くして管理局のエースであるこの面々。彼女達なら早々遅れをとるとは思えませんでしたので、様子見することにしました。実際なのはちゃんとフェイトちゃんの戦闘は一度この目で見ていますしね。ただ、今回の相手は相性が悪かった」

 魔力分解なんて彼女達も経験は無かったのだろう。さらに物理的防御にもあそこまでの耐久性を発揮した。

「なのはちゃんの大型砲撃魔法が通用しなかった所で、仲間と相談して作戦を切り替えました」

 そう、強制参戦という名の共闘を戦闘狂二人に強いられたわけだ。

「本当に本当なんですか?」

 フェイトちゃんが念を押してくる。なのはちゃんとはやてちゃんも揃って真剣な表情で俺を見つめており、俺は彼女達から視線を外さずに黙って頷いた。
 この子達は間違いなく、性善説の信奉者だ。育ちの違いとはかくも恐ろしいものなのか!

「フェイトさん」

 リンディさんが愛娘の名前を呼んだ。
 しかしそのたった一言に、どこかたしなめているようなニュアンスが多分に含まれていた。

「人を信じることは決して悪いことではないわ。でもね相手は見極めなければならいけないの」

 状況的にしちゃ駄目なのだが、心の中でリンディさんの言葉に同意してしまった。

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