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緋色の平穏 Ep4『タンブリング・ダイス7』

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「……って、んな言葉くらいで止まるわけもないか」
「それでも教えて欲しい。たっ君が嫌じゃないなら、だけど」

 なのはの願いを聞き入れるという意思表示で、たっ君は一度縦に振る。

「オッケー、ここからはもう一々確認はとらないよ。実験はほとんどが失敗だった。中には死んだ奴や重い障害が残った奴も少なからずいる。使い物にならなくなった奴は処分されるから、まぁどっちでも結局は同じだ。俺も延々と失敗し続けた一人だけど、生きてるだけマシな方だと言えるね」

 そしてたっ君は笑った。どこか軽薄に感じる微笑み。
 どうしてだろうか、今生きている自分自身に向けて自嘲しているように思えた。

「良くなかんかないよ。そんなに酷いことされたんだから生きてれば良いなんて、絶対おかしいよ」

 たっ君の笑みに、なのはも感じるものがあったらしい。

「そうだね。それでも、あの時は生き残ることだ何より最優先だった。死の心配もそれだけじゃあなかったし」
「実験以外にもまだ何か課せられていたことがあっやんやね?」
「キマイラは俺達を兵士として使いたかったのさ。その為に色々と訓練もさせられた。そして実験の成功体をリーダーとして、小隊規模から中隊のチームを組ませて任務を与えた」

 たっ君の戦闘スキルはそこからきたものだったんだ。だとしたら、望まない環境で得た力を使ってたっ君は今日まで戦い続けてきたことになる。

「中身はどれも汚れ仕事さ。要人の暗殺だったり戦場に送られたり、他にも色々とね」

 兵士としてのデータをとることも目的の一つと考えられるけど、それはつまり人を使い捨ての玩具の様に扱っているのと同じだ。
 きっとそれで死んでも問題ない。実験が上手くいかない補充員は特に……新しく用意すればいいと、冷酷に考えてるからできる発想だった。
 許せない。さっき怒ったなのはだってきっと同じ気持ちだったんだと思う。

「そんな感じで何も知らない一桁のガキが生き残るには中々に過酷な状況だったよ。任務で人を殺すことも珍しくなかった」
「でも……それはそうせんと生きられへんかったからで、たっ君が自分の意識でやったことやないやろ?」
「まあね。元より、拉致されたのはほとんどが何も知らない一般人だ。実験に耐えきれずに発狂した奴、殺人の呵責で壊れた奴、心そのものを失い何も感じなくなった奴なんてのもよくある話だった。俺もその一人、どちらかというと最後に近かった」

 逆らうと酷い目にあわされて、最悪殺されるかもしれない。
 誰も助けてくれず、その中で人殺しを強制させられ続ける。そうして心が壊れてしまった人はきっとたくさんいたはずだ。

 他人の命を奪う選択をしたって、そのことを責めるなんてわたしにはできない。
 自分を守るためにキマイラ機関の言う事を聞くロボットになってしまったとしても、それは決してたっ君が悪いんじゃない。

「それでずっとキマイラ機関の指令を聞いて生き延びてきたの?」
「なのは、それは少し違う。俺はただ壊れたわけじゃないし、命令聞くだけの機械にはならなかった」

 言うことを素直に聞くのはそれが一番怒られないし、何も考えなくていい。わたしもプレシア母さんの言葉に従っていた時は少しそう思っていた。
 母さんは忙しいから、わたしが頑張って母さんを助けなくちゃ。それだけがわたしの全てだった。
 本当は愛されてないかもしれないなんて、考えることすら不安で恐かったかたから。

 何も感じなくなるのも、理由は同じことじゃないのかな?

「どれだけ従順に言うこと聞いてたって、見捨てられる時はあっさりさ。あそこでロボットになれば余計な不安と恐怖を抱え込まなくていいから楽だろうけど、生き残ることを優先に考えるなら下策だ」

 思考停止が人を殺す。だからわたしもあの時、プレシア母さんに稲妻を落とされて……。

「死に怯えることも同じこと。あいつらにとって服従は隷属の証明に他ならない」

 わたしがどれだけプレシア母さんのため頑張っても、それを認めてもらえることはなかった。
 逆に、母さんを納得させられなかった時のおしおきはどんどん痛くて辛いものに変わっていった。

「生きたいが故に殺されるのはごめんだ。あそこで生き残るために必要なセンスは死を恐れないこと」
「死を恐れない……」
「そして服従していると見せかけて命に関わる重要な部分では上手く逃げること。そのバランスが大事だった」

 死を恐れない。
 そのフレーズがプールでの戦闘にぴたりとあてはまった。
 この感性なんだ。この独特な感性がたっ君をたっ君としてたらしめている、核の部分。

「生きたいのに死を恐れないって、矛盾してるように思うよ」

 ここをもう少し掘りわかるかもしれない。たっ君の本質が。

「そうでもないさ。人は生きたいと念じ過ぎると逆に歪むんだ」
「歪む?」

 人が歪む。段々たっ君の表現が独特なものになってきている気がする。
 これもたっ君の中にある難しい何かに近付いているからなんだろうか?

「ああ。テレビゲームなんかでさ、重要なところでライフが少なくなると焦ってしまい却って失敗しちゃうことってあるだろ?」

 窮地に陥った人は焦りやすいという喩えなんだろう。
 わかりやすい。わかりやすいけど、この話の内容で人生をゲームに例えるあたり、さりげなくたっ君の危険性を感じる。
 絶対他にも比喩はあったと思うけど。

「そういう窮地に立った時人は歪む。そうなったら最後。幾ら冷静になろうとしても、なろうと足掻いた分だけ余計に思考はイビツになっていく。漬け込まれるだけさ、そんな虚弱な精神じゃね。特に生死の狭間ではそれが顕著になる。言葉だけの偽りから生まれた誇りや覚悟など、原始から根付く恐怖の前には紙同然だ」

 心は壊れても服従はしなかった。
 自分を守るからこそ、服従はしない。
 生きるために死を恐れない。
 そんな無茶を年齢で言えば小学生に上がったばかり位の少年が選んだ。
 死の間際でそこまで冷静に自分の状況を判断し、実行したんだ。

 まさしく異端の存在。
 高い魔力を持った人は探せば見つかるかもしれないけれど、こんな精神を持った人は次元世界中探したって他にいるかどうかわからない。

「自分の心を捨てて辛くない? 辛くなかった?」
「フェイト……」

 恐怖なんて捨てようとして捨てられるものじゃない。
 それを本当に捨てさるとしたら、捨てたまま生きるとしたら、一体どれだけの苦痛が付きまとうのだろう?

 わたしにはとてもじゃないけど想像できない。

「何も感じないよ。それが『俺』だ」

 たっ君は笑っている。
 捨て去れるから異端なんだね。
 拾いなおそうとなんて考えないからこその狂気なんだね。

 理解はできたけど、納得はできない回答(こたえ)だった。
 でもそれでいいんだと思う。
 誰の声も届かない断崖絶壁を一人歩き続ける。
 それがたっ君なのだから。

「で、そんな風に生きてたら、ある日もっと大変なイベントが起きたんだ。ある意味俺の存在を揺るがす程の大事が」
「あははは……」

 ずっと聞くだけに徹していた美羽が苦笑した。
 これ以上何があったと言うのだろう?

「とある任務の途中、輪廻さんにヘッドハンティングされた」

 キマイラからの開放。それは間違いなくたっ君にとって人生の分岐点の一つだったはず。

「それってたっ君にとっては良いことじゃないの?」
「キマイラ連中は俺をただの根暗なガキと思っていたが、輪廻さんは違う。あの人は俺の本質をわかった上でスカウトした。結果、与えられる任務の難易度がさらに上がったんだよ」

 よくよく考えるとプールでも、たっ君はもう少しで命を落とすかもしれなかったのだし、多分事実。
 それでも雇われてからずっとそこにいついているということは、きっと今の居場所を気に入ってるんだと思う。
 何というか、今までとは別の意味でとてもコメントし辛いよたっ君。

「おかげで一年も経てば、キマイラに関することは半分以上忘れてた。まさしくあそこのことなんてどうでもよくなってたよ」
「もしかして、それが時空管理局を恨んでへん理由なん?」
「うん、そうだよ」

 今までなら説明しながらの回答だったのに、あまりにあっさりとした返事に変化した。
 キマイラに関する話し方の軽さは気を使っていたわけでなく、本当によく憶えていなかったからなのかも。
 それにしても輪廻さんが関わったとたんに、話が軽いのか重いのかよくわからない流れになってきたような。

「何度、輪廻さんのせいで棺桶に片足突っ込んだのかわかったもんじゃないからねぇ」
「たっ君は修兄ぃや鏡お姉ちゃんより怪我多いもんね」
「さらっと言ってるけど、すごく重要なことじゃないのかな、それ……」
「俺があいつらより弱いんじゃないんだよなのなの? 技能の種類と戦い方の違いなんだよ?」

 どう見ても話し方がさっきより必死になって、言葉尻が上がってる。
 たっ君達は思っているよりチーム内でのライバル意識が強いらしい。
 さっきの取調べの時でも協力どころか足の引っ張り合いみたいなことになっていたし。

 ここからは空気も完全に変わって、雑談みたいな質問大会になっていった。
 これでたっ君が自分の事を全部話してくれたとは思えないし、この人はそう簡単に自分の手の内を全部晒す人じゃないのはもうわかる。

 それでも、過去の事を話くれただけでもとても大きい。
 これ以上は、これから一緒に戦ったり笑いあったりして知っていけばいいと思う。

 ここまででたっ君についてわかったことは、結局わからないということ。
 たっ君は自分の都合で嘘を吐く。善い人とは言えない。
 だけど、それは哀しい生い立ちも深く関係していて、悪い人と言い切ることもできなかった。

 見かけはちょっと変わってるけど親しみやすいお兄さん。
 その奥はすごく複雑で、常人の理解を遥かに超える思考と感性の持ち主。
 わたしはこの人に惹かれている。
 恋とかそういうのじゃなくて、たっ君という数奇な精神の持ち主が、これから事件を追うのか。それを見届けたい。
 できるだけ近くで、暁拓馬という人の物語を見てみたなって思った。

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