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緋色の平穏 Ep5『ラヴスネーカー1』

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 生きたいなら僕にあなたを愛させてください。
 死にたいなら僕を責めてください。
 あなたが愛して欲しいのは優しい人じゃなくて、自分に都合がいい人なんだから。

          ●

 犯人探しを開始して早三日。
 手がかりが発見されることもなければ、被害者が増加したわけでもない。

 いわば膠着状態。有効手段は現行犯逮捕のみなのが辛いところだ。
 昨日も数時間の見回りを済ませて、今はマイハウスの布団内部にて休養している。

 今意識があるのはさっきまで日曜の朝アニメ観てたからである。
 青いババアは良い萌えババアだ。

 さて、観るもんみたしもう一眠りしようか。
 布団を被り直して臨戦態勢を整える。

 向かうはドリームワールド、敵は昇り来る朝日。
 この害敵に打ち勝てば、色とりどりの美少女達が俺を暖かく迎えてくれるのさ。

 元々無理に起きたようなものなので、睡魔さんのご到着は早い。
 むにゃむにゃ、僕はりんちゃんのサッカーボールになりたいんだお……。

 そこへ外部から迫りくる足音が聞こえる。こいつは朝日よりずっと凶悪な敵が出現したものだ。
 冗談じゃない。現在は夏休みと呼称される日本では学生のみに許される、長期休暇の最中だ。

 とりわけ今日は日曜日。だのにこのフットサウンドが聞こえるのは不条理ではないか。
 部屋の前で足音は止まる。次に響くのは、ドアに対する打撃音。

「たっ君、朝だよぉー!」

 侵入者はお前の安息の時はここまでだと、警告を発してくる。
 馬鹿な、俺の平穏ver.Dreamはまだまだこれからなのだ!むしろまだ始まってもいない。

 だがしかし、奴は止まらない。数度の呼びかけに俺が応えないとみると強行突破を試みる。
 その破壊力は最後の障壁、鍵付きドアも難なく突破する程だ。

 ええぃ、お隣さんの親友は化け物か!
 掃除するから鍵貸してと言われ、容易く渡したのが大失敗だった。合鍵作成とは卑怯じゃないか。可愛い顔して時折酷いことしやがる。
 足音は遂に俺の目前まで迫ってくる。

「そろそろ起きなさい。最近のたっ君は、毎日お昼までだらだら寝過ぎだよ!」

 やなこったね! と心中で返事しながら、俺は狸寝入りを開始して抵抗を試みる。

「ホントは意識あるのわかってるんだよ。どうせさっきまでアニメ観てたんでしょ」

 俺の身体を揺さぶりながら、妙に的確なことを言ってくる。こいつ、タイミング悪いと思ったら確信犯かよ!
 たっ君マニアですかこの子は。略してターマニ。あらやだ音ゲー略したみたいになっちゃった。

 武力行使だと言わんばかりに布団ごとがくがくと揺さぶってくるが、睡魔と手を組んだ俺には揺り籠を優しく揺すっているのと変わりない。

「もう、知らないから!」

 勝った! 耐え抜いた! 円には悪いが眠いもんは眠い。さあ夢の美少女達はもう目前だ!
 ぬぅ、知らないといいつつ布団をひっぺがしてきやがったが甘い。これぐらいで俺をどうこうできると思っているのか? 冬場ならともかく、夏で布団剥がしたくらいでじゃ俺は気にしない!

 しかし、奴めの攻撃はこれで終わらなかった。
 さらに巨大な異物が侵入し、布団が再びかけられる。背後に柔らかい物質を押し付けられ、生暖かい吐息が首筋にかかった。

「たっ君が起きないから、私も一緒に寝るもん」

 両腕が肩に回され、ぎゅっと抱きつかれる。こいつ俺を抱き枕にするつもりか!?
 ていうか密着しすぎだよ! あててんのよどころか押し付けてるよ!
 女の子特有の甘い匂いが鼻孔までもを刺激する。

「んーっ久しぶりなたっ君の匂いだー」
「うわあああああ!」

 思わず本気で叫んで飛び起きた。
 俺、撃墜。

「寝るもんじゃない! どんな生体兵器だよお前は!」
「その驚かれ方はショックだよ。せめてもっと嬉し恥ずかしな態度とって欲しいな」

 そういう次元の話じゃないだろう。朝から一体どういうテンションしてんだよこの小娘は。

「何故やった」
「うーんとね、起きない子供を起こすには母親が布団に潜りこめばいいって、テレビでやってたから」

 いくらお母さんと呼ばれたからって、同い年の女の子がやると意味合いは全然違うところに行っちゃうよ? これなんてエロゲー展開だよ!
 むしろこの所業は、日頃お母さん扱いされることへの復讐を兼ねているのか?

「とりあえずもうやらないように」
「何で? 効果抜群なのに」
「何でも!」
「それじゃ理由にならないよ!」
「年頃のオンナノコが男の布団に潜り込んじゃいけません!」
「昔は一緒に寝てたじゃない」
「何年前の話だよ! しかもその時は親が留守からってお前が無理矢理上がりこんで、怖い話見て半泣きで布団に乱入してきたんじゃないか!」

 こいつが一番厄介なことって、こういう部分がやけに天然なところだ。
 普段は軽く潔癖症なくらいエロ本やエロゲーを排除したがるくせに、いきなり後ろから抱きついたり、腕を組んでくることがある。しかもたいがい柔らかい物があたっている。

 昔は恥ずかしい程度で済んでいたが、四年間であいつのバストは無視できない成長を遂げた。修一曰く、同学年の中でもトップテンには入る高ランク保持者だそうだ。
 俺は基本的に自己主張が弱い方が好みだが、その感触を味合わされてスルーできるような不能でもない。

 逃げると本気で凹むし、理由を話すと真っ赤になりながら変態扱いされる。
 あれはあれで可愛いとか思ったりもするが、その後飯がなくなる。あまりにも理不尽な仕打ちだ。
 その割には喉元過ぎれば暑さ忘れるのか、しばらくするとまたやってくる。今がその時だ。

「むぅー、わかったよ。じゃ、私はご飯の用意するから顔洗ってね」
「へーい」

 幸い、今回はあまり機嫌を損なっていない方か。
 何だか無駄に疲れた。
 カーテンを開けると空は清々しい青なのに、俺はどんよりと濁ったものが渦巻いている。いや、半分はピンク色だ。

 これがドリームじゃなくてリアルだから処理にも困る。
 このもやもやを解消する手段など決まっているが、それを実行する気は起こらない。
 生理現象だと、男なら当然の行動なんだよと割り切ってしまえばそれまでだが、実行してしまうとあいつを汚しているような気分になって酷い自己嫌悪に陥る。やり場がないとはこのことか。

 うー。このまま倒れ込んで、なんもかんも忘れて二度寝してしまいたい。
 だけどこれ以上怒らすとどうなるかわかったもんじゃないので、我慢して部屋を出た。

 流石過保護なお母さんだ。洗面所に行くと歯ブラシに歯磨き粉がすでに乗っていやがる。
 眠たそうな自分と見つめ合いながら歯ブラシを固いものに上下左右へと這わせていたら、チャイムが鳴った。
 この表現自体さっきの一件を引き摺っている証だろう。

「私手が離せないから、たっ君お願い」
「うーい」

 台所からママンの声が聞こえたので、やる気の感じられない返事をしながら、接客するために玄関を開けた。
 通販もしてないし、どうせ大した客じゃないだろう。

「へーい、どちらさんですかー?」
「あ、おはようございま……」

 まさかのツインテール美少女二名入りましたー。
 俺の現装備。
 くわえ歯ブラシ、大きく倍プッシュと書かれたTシャツ、水色の縦縞トランクス。

 危ない、ブリーフなら即死だった。そもそもブリーフ履かないけど。
 それ以前に、即死でないだけでこの姿も円以外の女子には致死量だ。

「こんな朝早くからどうしたんだい? マイフレンズ達よ」
「フレンズでもう複数系になってるよ」

 先に復活したのは、高町さんちのなのなのちゃんだ。失敗を誤魔化すために別の失敗で気を引く。
 有効な方法だが、これは後のネタが先の失敗よりもインパクト無いと意味はない。
 つまりただの苦し紛れだ。

「とりあえず上がりなよ」
「いえ、また日を改めようかと思います」

 小学生に目を逸らされながら敬語を使われるって、クるものがあるなぁ。
 ここで帰すと絶対2度と来ない確信があるので、逃がすわけにはいかない。

「すいませんすぐ着替えて来ますので、そんな目で見ないで。むしろあからさまに視線を外さないで!」

 とにかく消極的に苦笑いでフェイトの手を引き帰ろうとするなのなのを、半ば無理矢理だけど内部に取り込むことに成功した。
 途中遅れて復活したふぇいふぇいから、玄関の郵便受けに挟まっていた手紙を受け取る。

 真っ赤に染まった顔でそわそわしながらも、両の親指で手紙を挟んで、大きく突き出してくる。
 クラッとするくらいに可愛いんですけど。

 ラブレター渡そうとする女の子ってこんな感じだろうか。受け取る側が倍プッシュTシャツとパンツじゃなければだが。

 手紙は白い封筒で差出人不明だった。何これ、三人一組でチーム戦する格闘大会のお誘いですか?
 中身は少し気になるけど今はそれどころじゃない。

 顔を洗って自部屋に戻り、手紙は机に一時捨て置いてまともな服を引っ張りだす。
 気に入ってるんだけどなー、倍プッシュTシャツ……。

 着替え終えてドアを開けたところで、ちょうど円がやってきた。朝飯もまだなのにお客さんを上げたんだ、怒られて当然だろう。

「たっ君、いくら子供が可愛いからって拐っちゃダメだよ! 私も一緒に行ってあげるから親子さん達に返して自首しに行こう? やっぱりこんな風に育てた私にも責任があるし」

 円に育てられたことは、真っ向から否定できない自分がいるので困ったものだった。

「獲物、自分でやって来て自分でチャイムも鳴らしましたけど」
「じゃああの子達とはどういう関係?」
「友達です」
「こんな小さくて可愛い子供とたっ君が友達なわけないよ!」

 こいつ、たまに素で修一達よりもひどいことを言うよなぁ。悪気がない分、威力はさらに増している。

「なあ、俺の友達ってさ、基本的に俺を信用してくれないよね」
「それは何を今更じゃなかいかな」
「そんな馬鹿な!」
「馬鹿はたっ君!」

 何だか円が冷たいよ。
 やっぱり憤怒してらっしゃる。落ち着いて考えれば、朝飯もまだの家に上がり込むってなのなの達も気まずいだろう。

「わかったよ。二人には悪いけどお引き取り願います」
「どうして? お客さんを早々帰すなんて失礼じゃない」
「ん? それで怒ってたんじゃないのか?」
「そんなことないよ。ただ私に秘密で女の子と仲良くなるってどうなのかなって」

 円は妙にいじけながら俺へ抗議してくる。おいおい、リアル女子小学生でしかも美少女という激レア物件をそんな理由で否定されちゃたまったもんじゃないぞ。

「なんだそりゃ。なんで俺の友達付き合い全部お前に話さにゃならんのさ」
「うっ……それはそうだけどさ」
「それに女の子たって、小学生だぞ?」
「小さい女の子の方が余計心配なの!」

 ああ、それについては納得だ。手を出すつもりはないが、愛でる気は満々だし。

「あの子達と知り合ったのは割と最近で、紹介するタイミングなんてなかったんだよ」
「ホントに?」
「俺が円に嘘ついたことなんてあったか?」
「山ほど」
「修一達に吐いた嘘と比べれば半分以下なんだけどさ」
「ふぅ、もういいよ。今回はそういうことにしておいてあげる。それにお客さん待たすのも駄目だしね。私は朝食仕上げちゃうから」
「ありがとねーよろしくー」

 最低限機嫌が治った円は、台所へと戻っていった。
 やれやれ、あの嫉妬心らしきものはどこから生まれたんだろうか? そういうのが読みきれないのも、あいつの魅力なんだけどさ。
 円の後を追うように居間へ行くとなのフェはテーブルでジュースを飲んでいた。
 さすが円。お客さんのおもてなしにも抜かりはない。

「やあ、お待たせしちゃったね」
「こっちこそ朝早くからごめんね」
「気にしなくていいよなのなの。それで今日はどうしたの?」
「やっぱり、輪廻さんから何も聞いてなかったんだ」

 フェイトが少し肩を落とした。輪廻さんの名前が出た時点でまたやりやがったなと脊椎反射で考えてしまう。どうせそれで当たりだろうし。

「夏休みの宿題でわからないところを教えて欲しくて、見回りの終わった後に予定を聞こうと思ったんだ。けど、たっ君もう帰っちゃってて」
「それで輪廻さんに?」
「うん。メールしようとしたんだけど、輪廻さんが連絡しておくからって」

 輪廻さんのことだ。どうせ連絡無しで二人を突撃させて、後で俺が文句言う様を見て楽しもうってところだろ。
 そういう所は鏡とあまり変わらないな。そこはむしろ鏡が輪廻さんに似たのか。

「家に来た理由はわかったけど、勉強見るなら別に俺じゃなくてもいいんじゃないかい?」

 自慢じゃないが、理数系はフェイトに劣る自信がある。この子、高校生向けの数学を解いたことがあるくらいだし。

「その教えて欲しい教科が国語なんだ」
「なるほどね」

 フェイトは地球に住むようになってからまだ半年だ。
 いくらパーフェクト超人な彼女とて、魔導師の仕事と両立して別の語学をマスターするには時間が足りないだろう。

 そして俺は国語だけ得意なのだ。伊達に様々な本を読み漁ってきたわけじゃないし、話の重要部分や本質を把握するのは人の思考を読み解くそれに共通する部分がある。

「わたしも国語はあまり得意ではないので、便乗して一緒に教えてもらおうかなと」

 なのはは少し恥ずかしそうに微笑んでいる。少し敬語が戻っているのもその影響か。
 だが騙されてはいけない。こいつらはただでさえ私立の学校に通っているんだ。
 なのはの得意でないは、一般の小学生からみれば並以上だろう。本人に自覚がいま一つないが、なのはも十分天才クラスだ。

「そんなことなら御安いご用だよ」
「ホントに? ありがとう!」

 たかだか小学生の国語見るだけで満面の笑みですよ、この金髪美少女は。

「よろしくお願いします!」

 もう一人の栗色ツインテールも、抱きしめたくなるような愛らしさで笑う。
 ここまで得意科目が国語で良かったと思った日は他にない。
 何のために勉強するのかわからない、などとほざく輩には今度から自信満々にこう返してやろう。それは女子小学生に勉強を教えるためだ! と。

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