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緋色の平穏 Ep5『ラヴスネーカー3』

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「やっほー!」
「2人共待たせちゃった?」

 両端を短く赤いバンドでくくる金髪ロングの少女が活発な第一声を上げた。
 続くように車椅子を押しながら軽くウェーブがかかっている紫の艶やかな髪を、白いヘアバンドで留める少女がなのフェに声をかけた。どちらも年齢は彼女達と同じくらいだ。

「ううん、そんなことないよ。わたしもフェイトちゃんもさっき来たばかりだから」
「あれ、たっ君も来てたんや」
「こんにちは、はやはや」
「なのは、この人は?」

 全員でカウンターに並びつつ、二人目の金髪少女が異物の説明をなのはに求める。
 そりゃ小学生女子の集まりにいきなり高校生男子が混ざったら異様でしかないものな。

「うん、紹介するね。この人は」
「拓馬……さん?」

 なのはが俺を紹介する前に、紫少女もとい月村すずかが恐る恐る俺の名を告げた。俺はにこやかに彼女の質問に答える。

「すずかも、久しぶりだね。いやぁ、しばらく見ないうちに大きくなったもんだ」
「数年ぶりなんですから当然ですよ、成長期ですから。それに拓馬さんも全然雰囲気が変わってて、初め知らない人かと思いました」
「ちょっと、すずかも知り合いなの?」
「ふぇぇ!? たっ君すずかちゃんのこと知ってたの?」

 金髪となのはがほぼ同時に、別の人間へ質問するという器用な連携技をみせた。

「俺が海鳴に引っ越してすぐの時、ちょっとね」

 そもそも俺達がここにやって来た理由は、俺の要望も兼ねていたがすずかに関する案件も含まれていた。
 どうでもいいことだが、その任務が終わった後日本が誇る最大最高の文化MOEに触れた三人が駄々をこねたため、そのまま地球残留が決定することになったのである。

「じゃあすずかはわたし達よりずっと前からたっ君と知り合いだったんだ。わたし達がたっ君と知り合ったのは最近だから」

 フェイトは驚いた表情のまま俺とすずかを見比べている。まぁ、組み合わせ的にも俺とすずかじゃ予想しにくいものな。

「そうなんだ、すごい偶然! 拓馬さん今はたっ君て呼ばれてるんですか?」
「なぜだかね」

 積極的に賛同できないがあっという間に定着してしまい、否定のしようもなかった。
 そのまますずかは笑顔のままじーっと俺を見つめる。

「なんだい?」
「えっと、そのぅ。わたしもたっ君て呼んでも」
「いいよ。ついでに敬語もいらない。皆そうしてるから。代わりに俺もすずかって呼ぶね」
「うん、そうするね。ありがとう、たっ君」

 うむ、子供らしい良い笑顔だ。当時はかなり物静かな子だったが、今は少し明るくなったように思う。

「ちょっと! わたしだけおいてけぼりじゃない!」

 ロングパツキンが一人話についていけないため憤怒している。なんというか、弄りがいのありそうな奴だ。

「はじめまして、暁拓馬です。お嬢さん」
「アリサ・バニングスよ。よろしく『たっ君』」
「こっちこそ、アリンコちゃん」

 キンパツンデレ(予想)もといアリサが俺のあだ名を妙に強調して呼んだので、対抗してみた。
 決して処女を失うと特殊な力を失う少女とは関係ない。

「誰がアリンコよ!」
「だってアリアリじゃ、早々にお別れしちゃいそうじゃないか」
「意味わかんないわよ! 普通に呼びなさいよ! アリサよア・リ・サ!」
「しからば大尉」
「もっと意味不明よ! なのは、この人ムカつくわ!」

 こっちからしてみればお約束である。むしろ一度も大尉と呼ばない方がどうかしている。

「たっ君、あんまりアリサちゃんをいじめちゃだめだよ」
「ごめんごめん。ついね」

 名前だけでここまで遊べるとは。しかも初対面で年上が相手でも堂々と噛みついてくるので実にやりやすい。

「一体なんなのよ、こいつ」
「たっ君は魔法関係で知り合った友達だよ」

 フェイトが代わりに俺のことを説明してくれた。下手に険悪なムードにならないよう、早々に流れを変えたいのもあるのだろう。
 女子小学生に気を使わせている高校生がここにいた。

「じゃああんたも魔導師の一人ってわけ?」
「んーん、ペテン師」
「ペテンて詐欺師? どーりで食えないわけね」

 わたし上手いこと言った! ってドヤ顔で見られた。大人の俺は涼しい顔して流してあげるさ。ああ、お兄さんとしては当然だとも。

「カニバリズムの趣味をお持ちでしたか」

 おっとわざと口が滑った。

「そっちの意味じゃないわよ!」
「早くも第二ラウンド開始やね」
「たっ君ホントに変わったね。昔はあまり話さないし、もっと物静かな人だったのに」
「嘘でしょ!?」

 おい、待てアリンコ。出会ってまだ数分しか経ってない小娘の反応じゃないだろ、それ。

「普段から物静かなたっ君はちょっと想像できひんなあ」
「わたしも、ちょっと思い浮かばないかも」
「少女達よ、人は変わっていくものなのです」

 両腕を広げて宣教師のように語りかける。
 うわ、少女達全員のその誤魔化し方は無理があるよな視線が痛い! でも理由を話したら絶対弄られる。特にアリンコ。

「ほら、お昼ご飯できたわよー」

 助かった。絶妙なタイミングで出てきてくれたのは、なのはの母であり料理長でもある桃子さんである・
 彼女は色とりどりの料理がのせられた皿を並べていく。
 俺達も無駄ないさかいは一時中断して、大人しく食事を優先した。

「いただきまーす」

 少女達と共に手を合わせて昼食にありつく。
 思わず「美味い……」と、そう呟いてしまうほど、目前の料理はハイレベルだ。

 その料理は自分が作ったと照れる桃子さんに、そんなの当然よと一緒に胸を張るアリサ。後者はツッコミ待ちだろうか?
 あらかた食べ終わり、雑談の方がメインになってきた辺りで店長さんに声をかけられた。

「今日は娘が朝からお世話になったそうだね」
「いえ、こちらこそお昼ご馳走になりましたし」

 昼御飯のお題はこちらから言い出す前にいらないと言われてしまっている。

「ついでにこれも彼女と食べてくださいね」

 そう言って、お土産まで渡された。中身はケーキやシュークリームが綺麗に区分けされ入っている。

「いや、あの、宿題見ただけでここまでは」

 一応はこう返しておくが、内心はもらう気満々だった。
 こういう厚意は適度に遠慮しつつ、素直に甘えておく方が関係は良好に保てるものだ。

「いいからいいから、彼女さん、このケーキ好きだったでしょう?」
「だから円は彼女じゃ……いただきます」

 円との関係に対する誤解は、翠屋の人達についてはもはや修正不可能な領域に突入している。お似合いと言われて円がすぐその気になるから解けようはずもない。

「そうそう、子供は素直が一番」

 その台詞を俺にだと! と驚いてみても、店長さん達から見れば俺はあくまで高校生のガキでしかないのだ。その特権は使えるうちに使っておくべきだろう。
 おみやまでいただいた俺は、できるだけ丁寧にお礼を言って翠屋を後にした。

 翠屋から図書館までは徒歩で問題無い距離だ。
 気のせいだろうか、道中時々アリサの視線がケーキの入った袋に向いてくる。
 まあ、スルーしたのだけど。可愛い姫への献上物を餓えた狼にくれてやるわけにはいかん。

「わたしとはやてちゃんが初めて会ったのは図書館なんだ」
「わたしが取ろうとした本を代わりに取ってくれたんがきっかけやったんよ」
「へぇ。じゃあ一人にとっては思い出の場所なんだ」

 図書館に到着し、入口の付近でアリサが声をかけてきた。

「あんたはこれからどうすんの?」
「読みたい本を探して、見付けたらそのまま帰るつもりだけど?」
「ふーん、あたし達は自由研究を終わらせたらあたしの家でお茶を飲みながら遊ぶつもりなんだけど。あんたも来る?」
「遠慮しとくよ。お茶受けのお菓子係は他に用意してくれ」
「うっ!?」

 図星かよ。さらっと人の食料を狙いにくるとか、どれだけ食い意地がはってるんだか。
 ていうか、流石に高校生男子の身でそこまでは入りにくい。

「昼飯食べたばかりでその発想はないだろ」
「うるさいわね、甘いものは別腹って言うでしょ!」
「アリサちゃんそれはたっ君が彼女と食べるためのやから、取ったらあかんよ」

 ああそうだ、もう一人未説明者がいた。そしてそれは一瞬にして三人に増殖する。

「あんた、彼女いんの!?」
「たっ君の彼女ってどんな人?」
「今日、その話もう三度目なんだけど」

 また説明に少し無駄な時間と手間を使うはめになる。歩きながら話していたので、三人を説得したころには、内部に侵入して本がひしめく素敵空間の中にいた。

 そして別離。あの子達は調べ物の確認などを行っているが、俺は手紙の主を探さないといけない。
 呼び出すならもう少し場所を限定していただきたいな。俺をすぐに発見する自信でも――

「暁さん」

 急遽後ろから声をかけられた。俺を名字で呼ぶ奴は少ない。円、鏡、修一が本名で呼ぶのでそれが定着したからだ。
 振り返るとそこには女の子が一人、涼やかな微笑を浮かべ佇んでいた。

「御堂さん?」

 長い髪を緑のリボンを使いうなじ辺りでくくり、全体的に華奢な印象をあたえる全体像。それにしたがってか、胸も円に比べると華奢である。
 現在、細い身体には学校の制服でコーティングされている。
 顔の造形は、修一が彼女と初めて会った時、なぜ今の今まで紹介しなかったと俺にラリアットかましてきたレベルだ。

 御堂叶(みどう かなえ)。俺が中学時代に偶然知り合った子で、高校でも時々だが顔を会わせるとこくらいはある。

「はい。お久しぶりです」
「あぁ、うん。久しぶり」
「何をそんなに驚かれてるんですか?」

 元々本が好きな子なので、ここにいたとしても別に驚きはしない。
 問題は服装だ。学生なのだから学校の制服は見慣れているはず、なのにすごい違和感と懐かしさがある。だって……。

「何で中学の制服着てるの?」
「わかりました? 懐かしいですよね、これ」
「そりゃあね」

 注意力や観察眼以前の問題だ。気付かない方がどうかしている。
 御堂は両指でスカートの横端をつまみ上げ、楽しそうに一回転した。どうにも少しはしゃいでるらしい。

「もしかしたら小さくて入らないかなと少し心配したんですが、ちゃんと入りました」
「いやそうじゃなくてだね。何でわざわざ引っ張り出したの?」
「今日はわたしにとってとても大事な日だから。暁さんと初めて会った時の服を選びました。そうじゃなかったらわざわざ暁さんにお手紙書いたりもしませんよ」

 君だったのか、とは言わない。会話の主導権を握られたくないためだ。
 しかし、顔見た瞬間もしやとは思ったが、この子だったか。確かに彼女にはとある前科がある。それでもここまでするとは。

 それに彼女が二重の意味で『ホンモノ』だとするなら、このままここで会話を続けるのは危険だ。ホンモノなら大事な部分で会話が噛み合わず、いきなり感情的に暴れだす可能性もあるだろう。
 そういう時は、男という性別だけで不利になるかならな・

「あの日があったから、今の私があるんです」
「このまま立ち話もなんだから、ちょっと場所変えようか」

 考えるべきことは沢山あるが、ここで立ち話をするような話題ではないだろう。

「それならそこの自動販売機に行きませんか? 少し喉が乾いてて。ベンチもありますし」
「わかった。行こうか」

 これは困った。ベンチに座りながら、これからの展開を思案する。
 すぐ横では御堂が自販機で何を買うか選んでいるようだ。

 まず悪戯じゃなかったことに驚きだし、しかも相手がこの子とは。
 ずっと見ていましたで、知り合いの可能性は考慮していた。知らない相手なら覗きが趣味のストーカーということになる。

 さて、どう対処するか。バグを内包した少女ではあるが、ある理由から不安定な部分があるのは知っているし俺の知る限りでなら話せばわかる類の子だ。
 戦闘狂二人と違って、俺はできるだけ穏便にことを解決し平穏に生きたい。

「暁さん」
「なんだい?」
「よければどうぞ」

 御堂は俺に近寄り、両手に持った紙コップの左側を差し出してきた。

「暁さんはオレンジジュースをよく飲まれてましたよね?」
「あぁ、ありがとう」

 目の前でコップに口をつけ、上品な微笑みを浮かべる少女には自殺未遂歴がある。
 三年前、この子は危うく屋上ダイバーになるところだった。それを止めるはめになったのが俺なわけだが。

「飲まれないんですか?」

 御堂が心配そうな表情で此方を伺っている。

「いや、ちょっと考え事しててね。いただきます」

 口内にみかんの風味が広がる。ちょと薄い、果汁3%ってところか。

「美味しいよ」

 そう笑顔で返すと、御堂は安心したのか元の笑顔に戻る。少し対人面で臆病なところがあるだけで、根は良い子なのだ。

 だが同時にこの子はニトロでもある。ちょっとしたことで起爆する、取り扱いには注意が必要だ。
 ここで飛び降りされたらヤバい。知らぬぞんぜぬで逃げようにもあの手紙のテンションなら、部屋一面に俺の写真が貼り付けられているなんてことも考えられる。

 そうなれば学校にも情報が回り、俺は同級生を自殺させた奴というレッテルが貼られ平穏が終わる。
 やはりここは時間をかけても説得し、和解するのが次善の策だ。

「ねぇ、御堂さ……え……?」

 視界がブレる。
 朝の心地 い眠気とは違 暴力て な睡魔 押し寄 てくる。
 してやら た。不覚に て屈じ くだ。
 思考がと れ、あ まが回ら い。
 ナイフ 突き刺  気を保た いと。

「駄目ですよ。そんな危ないの出しちゃ」
「お前が、言うな……」

 ナ フが掴ま  。ね わで     を――――

「お休みなさい。運命の愛しい人」

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