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緋色の平穏 Ep5『ラヴスネーカー4』

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 夢は見なかった……と思う。
 鉛でも詰まっているかのように頭が重い、しかも鈍い痛みが断続的に続いている。

「…………こ…………す」
「……け………じゃ………よ」

 コーヒーの中にミルクが混ざり合っていくような曖昧な意識が、段々と鮮明になっていく。
 目を開けるとそこは雪国だった――という摩訶不思議展開はなく、男物の縦じまトランクスが見えた。なんてことはない、朝なのはとフェイトに晒したやつだ。
 シャツも見える。こちらは無地でお気に入りの一言は入っていない。

 身体は動きがかなり制限されており、どうやら椅子に座った状態で縛りつけられているようだ。
 両手は後ろに回され拘束状態で、軽く引っ張るとすぐ限界が来てそれ以上は動かない。背もたれの一部とくくりつけられているのか。
 足は左右それぞれ椅子の脚部と縄で一体化している。

 念話で相棒を呼んでも応答がなく取り上げられているようで、こののままでだと自力脱出は出来そうもない。

「あか……は私……わか…………た!」
「そんな…………思い…………の!」

 さっきからずっと横と正面で声がしている。
 初めは内容も理解できなかったが、時間の経過と共にこれも少しずつ聞き取れるようになってきた。
 比例するように不快感も芽生えてくる、どうも怒鳴りあっているらしい。

「近くで怒鳴るな。うるさいよ、アリンコ」
「目が覚めたんだね、たっ君!」
「あんたは、起きて早々それなの!?」

 寝ぼけ頭で横向くと、金髪の昆虫とすずかがこっちを見ている。
 片方は安堵したような困ったような笑顔で、もう片方は目覚めの一言でぷんすかしていらっしゃるようだった。

 二人は俺と違いちゃんと服を着ていた……残念だとても残念だ。本当に残念だ。
 しかしなんだろう、この三人揃って捕まってますよ感は。
 いや、記憶も戻ってきているので単に現実と向き合いたくない言い訳だけど。

「暁さんおはようございます」
「おはよう御堂さん。で、これは何事?」

 聞きたくはないが、現状を把握しなければならないので、正面で俺を見下ろす御堂に尋ねる。

「今日、私と暁さんは結ばれることになっているんです」

 よし、当初の嫌な想定通りまず会話が成立しない! ここまでイカれた子だった覚えはないんだがなぁ。

「こんなの愛でもなんでもないって言ってるでしょうが!」
「そんなことありません! 暁さんはきっと理解して私を受け入れてくれます。だってあの時もそうだったんですから。ね、暁さん?」
「あの時って何の話ですか?」

 すずか、それは禁止ワードだ!
 しかし時すでに遅し。御堂は待っていたとしか思えないくらい笑顔になって、天井を見ているようでどこに視線が行ってるかわからない状態で両手の指を絡め合うよう組む。
 そうして昔を語りだすモードへと入っていった。

「暁さんは私の命を救ってくれました」
「救った? 拓馬が? むしろ突き落としそうだけど」
「お前の中にいる俺はどれだけ真っ黒なんだ」

 そのキャラ設定で寸分違わず当たってるんだけどさ。
 だが、完全に美しい想い出に浸っている叶は聞いちゃいない。

「私中学生の頃、いじめにあっていたんです」

 あーあ、これちょい長いんだよ。人の不幸自慢は大嫌いなんだけどなぁ。
 御堂をいじめていたのは同じクラスの女子三人だった。

 初めは容姿の嫉妬からくる嫌がらせだったのだろうと思う。
 内容も上履きを隠すとかそんな程度。

 しかし御堂が大人しくしているのをいいことに、ドンドンいじめはエスカレートしていった。

 体育のライン引く道具ぶちまけて制服ごと粉まみれに。
 ノートや教科書のページを糊付け。
 机の中にゴキブリやネズミの死体を入れる。
 誰かの小便まみれになった弁当など、生々しいラインナップだ。

 ここまでの話だけで、二人は十分悲壮感溢れる表情をしている。
 特にアリサは苦々しげだ。

 だけど、この時の御堂はまだ耐えていた。
 ぼろぼろだったろうが、まだ潰れずに生きようとしていた。

 家族や教師へ相談もしたが、御堂の両親は仕事で忙しく虐めのことを軽く見ており、子供じゃないんだから自分のことは自分でなんとかしなさいと御堂を突き放した。
 教師にいたっては本当にいじめられてるのかとか、御堂に何か問題があるから除け者になるんじゃないかとまともに取り合わなかったらしい。

 当時の御堂は長い髪をストレートに伸ばしていて顔も半分くらい隠れていて、何を考えてるかわからない、地味というよりは暗いイメージの強い奴だった。
 人の輪に入るのが苦手なため自分からも周囲と距離取っているタイプで、当時の御堂に味方なんて一人もいなかったのだ。

 そうして御堂は誰の助けを借りれることなく、女子達のいじめの餌食となっていた。
 ある日、彼女はとうとう最後の気力すら微塵に砕かれる、最悪の仕打ちを受けることとなる。

 いじめていた女子達は散々嬲ってもまだ毎日学校にくる御堂へ身勝手な怒りをぶつけ、さらなる嫌がらせのために男子を投入した。
 学校での素行の悪さが原因でほとんどの生徒から敬遠されていた五人の男共。そんな奴らがやることなど一つしかない。

 御堂はいじめに加わった男子達から性的な暴行、つまりレイプされた。
 これにより御堂の心は壊され、人生を放棄することを決意してしまう。

 もう御堂にはいじめから開放され、かついじめていた連中に復讐する方法がこうしか思いつかなかったのだ。
 ここまでの話に、すずかとアリサはもう御堂に声すらかけられない。

 あまりに悲惨でどこにも救いがない。御堂が地獄の淵へと流されるまでの経緯。
 詰んだとした思えない人生への対抗策として御堂が自らへ死を与える直前、不意にか細い蜘蛛の糸が垂らされることになる。

 御堂が意識薄くもつれる足で屋上へとのぼり、フェンスを飛び越えようとした時、ある男が彼女へ声をかけた。

 ――辞めとけよそんな平穏じゃない行為、と。

 ここからは御堂も知るところではない、ごく個人的なことも含む話。
 俺は屋上のベンチに寝そべり、図書室で借りた本を読んでいた。

 あれは秋頃で風が心地よく、図書室よりものんびりと平穏の中でひと時を過ごせるために選んだ行動だ。
 そこに千鳥足で現れた女生徒。初めは読書に夢中で無視していたが、ちらりと視界に入った彼女は服も半分くらい脱げて下着が見えていた。しかも内腿からは赤い雫が1本の筋となり伝っており、彼女に直前まで何があったかを如実に知らしめていたのだ。

 屋上でこの姿を見せられれば、この後に起こすアクションを想定するのは難しくない。
 このまま放置は、俺の平穏大破炎上じゃないか。

 警察やら教師やらに怒られたり慰められたりなど絶対にごめんだ。
 俺はすぐにベンチでの読書を中止して、平穏クラッシャーの説得を優先した。

 こちらは穏便に済ませたいのに、私の気持ちなんて誰にもわからないと叫ぶ女生徒。わからんから大人しく説明するか話を聞け。
 とはいえ言葉通りの意味だけでなく、ついさっき男数人にレイプされたことで男性不審からくる恐怖もあったのだろう。

 ――死にたいんだろう?
 ――やりきれなくてどうしようもないんだろう?
 ――大丈夫、俺も似たようなもんだから。

 できるだけ刺激しないようになだめながら、俺の手首にある切り傷を見せたところでようやく最低限の冷静さを取り戻してくれた。

 そこからは俺が御堂の話を聞く番だった。
 説得にかけた時間より、御堂の話を聞いてる時間の方が長かったかもしれない。

 顔のほとんどは髪に隠れて、途切れ途切れに語られる御堂の話。それでも俺は御堂が落ち着くまでずっと聞き続けていた。
 御堂には自分の心をぶつける相手が一番必要だったのだ。

 全部吐き出して少しは楽になったのか、御堂はありがとうございます、とか細く呟いていた。
 それでも処女を喪失したショックはかなり大きかったらしく、スカートに視線を落としては、涙を滲ませてしゃくり声をあげる。

 本当は病院に連れていきたが公にしたくないと御堂が拒絶したので、トイレに連れていき自分で処置してもらった。
 再度現実を直視するのは辛かったろうに。

 その後、御堂を家まで送り、明日必ず生きてまた会う約束をして別れた。
 問題を自分の内に抱き続けたりうつ病になる人間は、だいたい真面目な性格をしているから、『約束事』をするのは結構有効なためだ。

 とりあえず難は逃れたしこのまま見捨ててもよかったのだが、彼女を生かしたのは俺なんだから最低限の責任は取るべきだろうと考えていた。
 これが円と出会う前なら人らしい感情など見せることなく、我関せずで確実に見捨ててた確信がある。俺も丸くなったものだ。

 それから次の日、御堂を襲った野郎共は揃って両腕と両足を複雑骨折し入院した。
 さらに数日後、いじめの主犯格である女子達は急に精神を病んで、全員退学もしくは精神病院のお世話になったそうだ。
 泣きながらいじめも自白したとか。

 御堂の方はというと、突然訪れた平和に多少戸惑いながらも、時間をかけ少しずつ回復していった。
 これが御堂と俺にとっての、出会いと救済の顛末だ。

 これはどうでもいい後日談だが、レイプ犯共への襲撃事件と、虐めていた女生徒の精神異常は、俺が最も疑われた。
 被害者全員が犯人の話になると小刻みに震えだし、暗いところで襲われて犯人の姿はよく見えなかったと証言している。

 それに、第一容疑者であろう御堂はずっと一方的にいじめられていたし、腕力にも乏しいため無理だと判断された。
 だから事件の前後に御堂と一緒にいて、よく気にかけていた俺へと容疑が向いたわけだ。

 まぁ素晴らしいタイミングで起きた身体精神共の暴力沙汰に、俺が関わっていないわけなどない。
 だが、御堂に付き添っていた俺が動くと怪しさ爆発もいいところなので、実行犯は別に依頼していた。

 そのため、俺には事件の犯行時に御堂と一緒にいたというアリバイがある。
 しばらくは周りをちょろちょろされて邪魔だったが、警察もいつしか逮捕を諦めた。

 まさしく計画通り。ただ弊害もあった。
 昔学校で死んだ正義の喧嘩番長と呼ばれる幽霊が、悪事を働く生徒を成敗するという噂が広がってしまったのだ。
 さらにどうでもいいことだが、この後も学ランを来た喧嘩番長の幽霊は学校内でいさかいが起きると度々現れて、事件を解決していくことになる。

 名前も不明な喧嘩番長は未だあの中学校では有名な七不思議となっているが、中の人は普段ゴスロリもしくはメイド服を着て暴れている。
 新たな伝説が高校でも生まれないか、少々心配な今日この頃である。
 どうでもいい後日談終わり。

「暁さんは初めて私の話をちゃんと聞いてくれた人でした」
「それで、たっ君のことをそんなに信頼しているんですか?」
「はい、その通りです」

 ほのかに頬を朱に染めた御堂は、嬉しそうにすずかの問いに答える。
 睡眠薬で眠らせて拉致し、下着姿にして身体を縛るのは心から慕う相手にすることだろうか?
 いや愚問か。こいつにとっては全部求愛行動なのだろうから。

「うー、とりあえずは開放してもらってお話がしたいと思うんだけど」
「それはまだ駄目です。暁さんは自由な人だから、きっとまた私を置いて何処かへ行っちゃいます」
「また?」

 俺の記憶上では御堂との約束は全部守っているし、物理的に置いてきぼりにしたこともなかった。他の連中と比べて御堂の扱いは美羽に次いで丁寧だと言っていい。

「いつもそうです。いつも他の人達と楽しそうに笑う暁さんを見ては、私は手を伸ばせずにただ見てるだけ」
「それってあんたが拓馬に声をかける勇気がないだけのじゃない。それで人を拘束するってどういうことよ!」

 こんな目に合いながらもどこかで御堂を気遣っている風に見えるすずかと、対極にばっさりと切って捨てるアリサ。
 俺はというと、真面目に聞くようなそぶりを見せながらも、この後に続く展開を予想して内心げんなりしている。

「そう、私が悪いんです。私に勇気がないから、暁さんを引き止められなかった。でももうそんなのは嫌。だから!」
「ちょ、ちょっと! 御堂さん!」

 御堂は俺に身を乗り出してくる。顔が近いよ!
 もう少し近付けば、唇が触れ合いそうな距離だ。しかも思いつめた表情、決意を秘めた瞳で俺をじっと見つめている。

 手がシャツの上から俺を優しく撫でまわしていて、これからエロっちぃことをおっぱじめるとしか思えない。
 いるよ。ここ女子小学生がいるよ!

「私は今日、いいえ今から暁さんと一つになります! 暁さんならわかってくれますよね?」

 わかるか!
 一言思い切り叫んでやりたいが、何の対抗策もないままにそれをやってしまうと死亡フラグが立ちそうでできない。

「ほら、子供達も見てるんだし、こういうことはもっとちゃんとした場所でさ」
「気持ちさえあれば私はそんなこと気にしませんよ」

 気にしてください。て言うか人並みには俺が気にします。初めてはノーマルにお布団とかベッドの上がいいです。

「そんないきなり……待ってください!」
「ちょっちょっとあんた達何するつもりよ!?」

 すずかとアリサが顔を真っ赤にして言葉で遮りにはいった。ちなみに御堂はナニするつもりだそうです。
 流石にそんな具体的なことはわからなくても、雰囲気で察したらしい。

 すずかは目まできつく閉じちゃって、どっちも純でかわいいなぁ。
 と、現実逃避している場合じゃない。このままじゃ貞操の危機だ、そろそろ本気にならないと。

「やっぱり駄目だよ」
「どうしてですか? 私じゃ駄目なんですか? 私はこんなにも暁さんを愛してるのに!」

 見つめ合う俺と御堂。
 それを見守るアリサとすずか。
 一触即発というべき事態だからこそ、俺はいつも通りの自分になっていく。

「違うんだよ。好きだからこそ、ここじゃ駄目なんだ。俺はもっときちんとしたところで、御堂さんと愛し合いたい」
「暁さん……私、嬉しいです。やっぱり暁さんは私のことを受け入れてくれるですね!」
「当然だろ? 俺が君を拒否したことが一度でもあったかい?」

 御堂はいいえと首を横に振りながら一度俺から離れて、感極まったのか目に涙を浮かべている。

「あんた、それでいいの?」
「いいさ。形はどうあれ、ここまで俺の事を愛してくれているんだから。俺はそれに応えるだけだ」
「たっ君……」

 俺の出した答えに、外野の少女達は納得いってなさそうだった。それでも構わないが、もう少しだけ大人しくしてておくれ。

「わかりました、縄解きますね。ただ、きつく結び過ぎちゃってナイフがいるんです。すぐ取ってきますから、少しだけ我慢していてください」
「ちょっと待って、もう一つお願いがあるんだ」
「はい、なんでしょう?」

 一度部屋を出ようとする御堂を俺は引き止める。自分の願いが叶うと俺に心を許した彼女は態度もかなり軟化していた。

「俺の持ち物にさ、緋色のペンダントがあっただろ?」
「はい、確かにズボンのポケットにありましたけど、それがどうしたんですか?」
「あれは死んだ母さんの形見でね。倒れたときに壊れてないかどうか不安だったんだ。一緒に持ってきてくれないかな?」
「はい、わかりました。それでは行ってきますね」

 御堂はそう微笑んで、扉を開け出て行った。後の展開に期待して急ぎ気味だったので、すぐ戻ってくることだろう。

「あんたのこと見損なったわ」
「何がだね、アリンコ君」

 というか、初期評価で見損なわれていなかったことにビックリなんだがな。
 飄々とした俺の態度が気に食わなかったか、彼女の言葉がより荒くなる。

「あんたが誰を好きになるかはあんたの勝手よ。でも円さんって人の気持ちはどうするの? ずっと一緒にいて面倒見てくれてたんでしょ?」
「円は大事な友達だ。それ以上でも以下でもないさ」
「それじゃ冷たすぎじゃない!」

 よく、会ったこともない人のために、ここまで熱くなれるもんだ。ここら辺は、やたらと勝気な性格でもやはりなのは達の友達と言ったところである。

「たっ君は、本当に御堂さんのこと好きなの? 円さんのことを忘れて一緒になることが出来るの?」
「そんなの、これからわかるだろ?」
「ちゃんと答えなさい!」

 アリサの機嫌が秒単位で喜ばしくない方向へ進んでいる。そもそもなんで俺怒られてるんだろう?
 俺がアリサへの返答を返す前に、部屋の扉がまた開く。本当に早い主のご帰還だ。

「暁さん、持ってきましたよペンダント!」

 ペンダント持ってくるだけで、とてもハイテンションな御堂が逆に恐い。次の工程をさぞ期待してるんだろうなぁ。

「ありがとう、御堂さん。首にかけてくれるかい?」
「はい、わかりました」

 これからベッドインするのに身に付ける必要があるわけないのだが、彼女は何の疑問も持たず二つ返事で聞き入れた御堂は、丁寧に俺の首へスウィンダラーをかけてくれる。

「ごめんなさい、お母さんの形見を乱暴に扱ってしまいまして。私これがそんなに大事なものだとは知らなくて」
「気にすること無いさ。どうせ嘘だし、今から俺もけっこう君のことを乱暴に扱うから」
「え? それってどういう……げほっ!」

 俺の蹴りが御堂の腹部へとめり込み、前のめりのままに跳んで床を転がった。

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