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緋色の平穏 Ep5『ラヴスネーカー5』

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 こいつは御堂も完全に予想外だったろう。
 スウィンダラーの物質精製で体内の血液を一部刃物に変え、腕と足から『生やして』縄を切った。

 刃が皮膚を突き破るわけだから、当然かなり痛い。できればやりたくない戦法の一つだ。
 薬盛られた時もこれを使えばどうにか意識くらい保てたかもしれないが、眠気で落ちた思考がとっさに使い慣れた懐のナイフを選択してしまった。
 直感で動くと弱いという自覚はあったのだが、反射行動に頼ってしまうとはまったくもって情けない話である。

「悪いけど、人を拉致って既成事実作っちゃおうって子は、俺の好みじゃないんでね」
「こんな、げほっ……酷い……!」

 どうやら当たり所がよろしくなかったらしく、かなり苦しそうだ。まぁ俺の知ったこっちゃないが。

 むしろ苦しんで復帰が遅れるほうが好ましい。右腕から突き出る刃物を一本の手持ちナイフへと精製し直して、残りは解除する。
 そしてアリサとすずかのロープを切り裂いて、二人を解放。

「ありがとう、でもあれはちょっとやり過ぎじゃない?」
「御堂さんに言ったこと、全部嘘だったんだ……」

 助けてもどこか非難めいた言葉をかけられる。小狡い大人と純真な子供にある溝は中々に埋め難いものだった。

「文句はこの家から脱出してからゆっくり聞くよ」

 二人を引き連れて部屋から脱出する。兎にも角にもまずは出口を探さないといけない。
 幸いにも廊下に出てすぐ、俺達を外界へと導く玄関は見つかった。
 この家から出たら、まず警察に連絡して誘拐と拉致監禁犯を拘束してもらおう。

≪使用者、魔力反応を感知した。お前が今しがた出てきた部屋からだ≫
「何だと?」

 相棒の警告からわずか数秒の内に、家の中に数々の異変が起きる。
 まずは後数歩というところで、いきなり現れた無数の触手が玄関にまとわりついて、脱出への道が閉ざされた。

 触手はよく見ると薄く透けており、スウィンダラーも魔力を検地している。
 どうやら触手そのものが魔力によって構成されているのらしい。

「これって私とアリサちゃんの首を絞めた!」
「おいおい、聞いてないよそんなイベント、お兄さんに要点を説明って、危ないっ!」

 新たに現れた触手達が次々と廊下を占領していく。壁を這い、縦へ横へと伸びて通路も塞がれてしまった。
 危険物の源泉はスウィンダラーの示す通り、俺達を拉致していた部屋から出てきている。
 話を続けようにも、触手共はすぐに俺達のいるところまで伸びてきて、避けるのに精一杯だ。

「まさかこうくるとはな……セットアップ。続けてスカーレットウィング」

 触手に触れないように、二人を抱えての浮遊した。
 一度廊下中に張り巡らされた触手は、一旦速度を落としてもぞもぞと何かを探すように蠢き続けている。

 俺は微妙に浮かぶ位置を変え続け、触手に触れないよう慎重に動く。
 発生源はほぼ確定しているとして、経験則から主が見えない状態のこいつに触れるのはたとえ攻撃でもよろしくないと判断した。

 一人ならリスク折り込んだ上であえてちょっかいかけて検証するという手もあるが、美少女二人まで危険に巻き込むわけにはいかない。

「あのね、わたしとアリサちゃんは、図書室からたっ君をすぐに見なくなったからどうしたのかと思って探したの」
「そしたら休憩所であんたが倒れてて、具合でも悪くなったのかと思って駆けつけたのよ。そしたら一緒にあの女がいて。何があったのか聞くために話しかけようとしたら急に周りが灰色なって、この触手が襲ってきて首を絞められたってわけ」

 魔法とか夜の一族、古流剣術。エロゲーにも転用できそうな中二病要素が詰まった町だと思っていたが、まさかエロ代表格の触手までお目見えするとは。

「で、気が付いたらあの部屋で捕まってたと」
「そういうことよ」
「つまり俺がいきなり消えたから心配して探してくれたところで巻き込まれたってわけか。ありがとう、それとごめんね」

 なるほど、どうやって誰にも見つからずにここまで俺達を運んだのかが謎だったのだけどこれで合点がいった。
 御堂が魔導師の資質を持っているなら、俺達と一緒に転移することも可能だろう。

 それに御堂の張った封鎖結界になのは達が気付かなかったというのなら、こいつの魔法は町で起きてる殺人事件関連の可能性が高い。嫌なタイミングで嫌なものが繋がってくれたもんだ。

「べ、別にそれは私達が勝手にやったことだから、あんたが気にする必要はないわよ!」

 おぉ、ちょっとデレた! お兄ちゃんちょっとやる気アップしたよ!

「それで、これからどうするのよ?」
「どうすると言ってもねぇ」

 何とかしたいところだが、これじゃ動きようがない。
 この触手がどういうものか判別するまでは下手に動くことはできないし、とはいえずっとこのままなんてのも下策だ。

「あら? 何処にも暁さんの反応が無いと思ったら、暁さんも私と同じ様な力を持っていたのですね。なんて運命的なんでしょう!」

 やれやれ、こちらからは何もアクションがとれないうちに、復活した御堂が部屋から出てきてしまった。

「嘘……」
「何よあれ、一体何なのよ!」

 表現ミスだ。出てきたよりも、這い出てきたと言った方が相応しい。
 御堂の下半身はびっしりと鱗に覆われ、爬虫類の尾へと変わっていた。

 上半身も部分的に鱗に侵食され、衣服は着ていない。
 大事な部分はしっかり鱗で隠されているのはお約束って奴かと、場違いなことを考える余裕はまだ残されているようだ。

 肌は冷えきったように青白く、人間味を喪失している。
 背から何本もの触手が伸びており、部屋中に広がるこいつらは全て御堂の一部のようだ。

 黒から紅へと変色した瞳。
 ここまで人からかけ離れた容姿となっても美しさを一切損ねていない美貌。

 浮かべる妖しい微笑みは、見るものに安らぎではなく悪寒を与える。
 粘着質な愛が、その姿を相応しい形に変貌でもさせようだ。
 醜悪で妖艶な一匹の蛇女が、そこにいた。

「変身願望の強いことで。見違えたじゃないか」
「暁さんこそ、そのお洋服とてもお似合いですよ」
「ふふ、そりゃどうも」

 異空間と化した家の中で、俺と御堂は微笑みあう。御堂は心から笑い、俺は心から騙すように笑った。

「なんであんたはそんなに冷静なのよ」
「予想外は予想外だが、対応可能内には変わりないからな」

 伊達に修羅場をくぐってきてないさ。さっきの失態もあるし、これ以上冷静さを欠くような真似はしない。

「私の姿を見ても暁さんだけは全然動揺していませんね。やっぱり暁さんは、他の人達と違います」
「対応可能内って何処にそんな保証があるっていうのよ! 下手したらあたし達はここで!」
「安心しろよ。ここに俺がいる限り、お前達に手出しはさせない」

 俺だっていつまでもヤンデレなんていう精神薄弱者を相手に押されてるつもりはない。

「スウィンダラー」
≪スカーレットスラッシュ≫

 平穏な日常に噛付いて来る毒蛇の存在は害悪でしかないのだから、まずは適切な駆除からはじめよう。

        ●

 女の子達がとても驚いた顔で私を見ています。
 それはきっとそうでしょう。私だって初めてこの姿の自分を見た時は信じられませんでしたから。

 私は変わりました。
 シンデレラのようにドレスではないけれど、私にとってはそれ以上に美しい体、新しい私を手に入れたのです。
 この姿を初めて私以外の人に見せたけど、やっぱり暁さんは受けれいてくれました。私達は結ばれる運命だから。

 暁さんの声に応えるように、赤い石が光ります。
 そして赤いマントがはためいて暁さん達を包み込んだかと思うと、その場で激しく回転を始めます。
 風まで切り裂く轟音を上げて、マントに触れる周りの触手達を薙ぎ払ってしまいました。

 切り飛ばされた触手達は、自分を維持する力を失い霧散してしまいます。
 凄い迫力! アクション映画のワンシーンを見てる気分です。

 優しいだけでなく、とても強い人。
 また一つ、暁さんの事が好きになりました。

「な、問題無いだろ? お前達はしばらく俺から離れてろ」

 マントが元に戻り、着地した暁さんは少女達を降ろして頭を撫でています。
 二人だけずるいです。私だってあんなことしてもらったことないのに。私だってたくさん撫でて欲しいのに。

「でも、相手はあんな化け物なのよ?」

 アリサさんという子が、さっきまで一番生意気だったのに、今では一番私に怯えています。
 それにしたって化け物なんて酷いです。私はただ、暁さんと一つになることで、これはそのために必要な力なのです。

 私が求めた身体。
 私が求めた力。
 私が求めた幸せ。

 私が望んだ私が、今ここに在るの。

「アリサちゃん、たっ君を信じよう?」
「すずか……」
「大丈夫だよ。たっ君はとっても強い人だから、ね?」

 もう一人のすずかさんという女の子が、アリサさんの両肩へ手を置き優しく語りかけています。あの子には、暁さんだけでなく、友達もいるのですね。

 だったら、暁さんだけでも私にくれていいじゃないですか。私には暁さんしかいないんです。暁さんさえいてくれれば幸せなんです。

「絶対、無事に終わらせなさいよ」

 アリサさんは少し逡巡しましたが暁さんを信じることにしたようで、ニ人は彼から少し離れました。
 このために暁さんは周りの触手を切り裂いたのですね。
 それが暁さんの要望なら、私は受け入れましょう。

「ああ。まぁ見てなって」

 暁さんも自信ありげに短く答えます。そして子供達が距離をとったことを確認してから、私の方へと視線を向けました。

「また私だけ除け者でした」
「そう言う状況を作ったのはお前だろう?」
「暁さんが私のお腹を蹴ったからです。とても痛かったんですよ」

 女の子の日も来ているから、余計に苦しかったのに。
 何より暁さんに暴力を振るわれたことが一番悲しくて、心が痛いです。
 絶対に暁さんの子供を授かるために、この日を待っていたんですよ?

「監禁した奴の言うことじゃなかろうに」
「それは暁さんなら話せばきっと理解してくれると思って……」
「できるかよ。狂人が」
「……え?」

 暁さんは今なんて言いましたか? よく、聞こえませんでした。

「狂った化物のことなんて、理解できるわけがないって言ったのさ」

 暁さんが私を拒絶した。
 暁さんが私を否定した。
 私は暁さんに××された。暁さんが私を私を暁さんが私に暁さんを暁さんへ暁さんに暁さん!

「嘘ですこんなの、私の暁さんが私を否定するわけ無いんです。訂正してください!」

 そうです、暁さんは世界でたった一人だけ、私を受け入れてくれる人なんです。だから私にそんな酷いことを言うわけがない!

「俺は初めからお前のことは面倒で大嫌いだし、お前の物になった覚えもないよ」

 嫌い?
 きらい?
 キライ?
 キライって何ですか?
 キライはスキじゃないこと。
 スキは受け入れてくれること。
 じゃあ
 キライは――存在を拒否されること。

「嘘だ……」
「本当だよ」

 嘘だ。そんなの嘘に決まってます!

「嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ」
「ククク、受け入れろよ狂人。いや受け入れられないからこその狂人か?」

 頬に熱いものが伝ってる。泣いているんですね、私。
 こんなのあるはずないのに、あってはならないのに。だからきっと、どこかで私が勘違いしちゃったんでよね?

「だって、私が自殺しそうになったところを救ってくれたじゃないですか」
「そうしなきゃ世間体が悪いからな。目の前で自殺されるってどれだけ迷惑だと思ってる」

 震えた声で話しながら涙が止まりません。

 あの日があったから、私は幸せと思える日々に帰ってこれた。
 あの日があったから、その後にまた辛いことがあっても生きてこれた。
 あの日があったから、今の私があるんです。
 あの日の出来事まで嘘にされてしまったら、私はどうすればいいんですか?

「自分も同じって言ってくれたじゃないですか!」
「ああ、ありゃ嘘だ。手首傷はこのジャケットを起動する時の血液採取でよく切るんだ」

 壊れていく。私の暁さんが急速に壊れていきます。私の暁さんじゃなくなっていきます。

「私の暁さんじゃない暁さんなんて暁さんじゃない!」
「お前の俺じゃあなくとも、俺は俺さ」

 違う、こんな冷徹な人は暁さんじゃないんです。
 私の暁さんはもっと優しくて、芯まで冷えきった心を包みこんで温めてくれる人です。
 違う。違う違う。この人は、この人は違う。

「そっか。偽物です。貴方は偽物」
「なら俺はドッペルゲンガーとでも言うつもりか?」

 何者かと言うなら、この人は私と暁さんが結ばれることを妨害する邪魔者。
 偽物で邪魔者。
 この人は私が本物の暁さんと結ばれるための試練なんだ、なら――――

「貴方を殺せば、暁さんは私の物になる!」
「ふふ……クククク! 妄想に逃げて現実を破壊しにきたか。なら御堂、お前も俺の平穏の礎になってもらう」

 偽物が笑います。
 まるで厭らしく、私をいじめてた人達のよう。
 いいえ、あの人達と同じ。私から暁さんを奪ってこれから虐めようとしているのですから。
 それも、暁さんの……私が愛する人の姿で。

「暁さんの声で喋るな!」

 触手達の先端を刃に変えて、偽物に切りかからせます。
 これが私の持つ、蛇の牙。
 毒は持っていません。その代わり人間を切り刻むくらいは容易いです!

「暁さんの顔で笑うな!」

 後ろへ一歩退いたところに、別の触手が偽物の足に絡みついて動きを封じます。
 逃がさない。
 暁さんを侮辱する偽者め、私が必ず殺してやる。

「暁さんの姿で生きるなぁ!」
「やなこった」
≪スカーレットスラッシュ≫

 止まることなく襲いかかる触手達。
 偽物はさっきと同じマントで自分を包み、その場で回転して足を掴んでいる触手達ごと全てを切り刻みます。
 けれど、

「そんなの、大した抵抗ではありませんよ?」

 回転が停止したところで、新たに武装化した触手達でマントに刺突。
 マントは何の抵抗もなく貫かれました。

 中身の偽物は使用不可能になったマントの下に左膝をついて着地しています。
 触手を察知し、マントを捨てて脱出したのでしょう。

 偽物は体勢を低く屈み込んで、両手の指を床に。
 右足の膝を立てながら、左足の後ろへ伸ばし膝をつけます。
 これは主に短距離走で使用するスタート法。

「っふ!」

 偽者は鋭い呼気と共にクラウチングスタースタート姿勢から、私へと走りだします。

「そんな小細工で!」

 近接される前に叩き落そうとするも、予想以上の加速に追撃させた触手達は狙いを外してしまいました。
 あっという間に急遽接近した偽物は、そのまま勢いに任せて右拳を私に。
「効きませんよ、その程度」

 私はその鉄拳を防御することなく受け入れます。蛇の身体と化している部分で。

 めちりとも、ぐちりとも聞き取れる、私の身体に響く鈍い打撃音。
 ですが人の肉体よりずっと強靭な蛇の身体に、こんな程度の攻撃は通用しません。
 拳を無視して力強く尾を払い、その際に生まれた慣性で偽物を壁へと叩きつけます。

「かはっ」

 衝撃で壁にヒビが入り、細かい粒子が床へ散らばりました。
 反動で返ってきた偽物に、再度尻尾による打撃。
 やりかえすどころか防御もできないまま、偽者はまた壁へと激突して顔を歪めます。

「ぐぉ!」

 ちょっとしたピンボール気分でいつまで続くか試してみたかったのですが、二度目で壁が壊れてしまいました、残念。
 偽物は壁の残骸と一緒に倒れ込んでいます。

「うふふ、あっさりとダウンですね。ですが、まだまだこれからですよ?」
「当たり前だろ?」

 偽者は片膝をついて立ち上がろうとしています。まだ戦意は失われていないようですね。
 それでいいのです。暁さんを騙って私を貶めた罪はこれくらいじゃ赦されません。

「なら、今度こそ細切れに――」

 突如偽者が座っている体勢から、飛び込むように接近。
 クラウチングスタートに比べると加速力はありませんが、そもそもそんなことが必要な距離でもありません。

「しゃあ!」

 奇襲からの真っ直ぐな正拳。

 その打撃が囮なことはわかっています。
 偽者はここまでずっと私を欺いてきました。

 そんな貴方が今さっき通用しなかったばかりなのに、同じことを連続でするわけないでしょう?
 ほらやっぱり。打ち込むと思われた攻撃は当たる直前に中断、続けざまのアッパーカットが私の顎へ狙いを定めています。

「残念。蛇でない部分なら通用すると思いましたか?」

 拳が私の顔を打ち上げる前に、触手達が偽者の腕にまとわりついて停止させました。
 フェイントをしくじった偽者は無防備です。その身体に今度は触手でなく、私自身が迫撃。
 私の尻尾は偽者の胴体を包み込み、私を見上げるところまで軽々と持ち上げます。
 捕まった偽者は浮いた足をバタつかせますが、もう手遅れです。

「今度は私の番ですね」
「ぐうぅっ」

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