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緋色の平穏 Ep5『ラヴスネーカー7』

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 疲れた。血が足りん。
 俺が吸血鬼なら、アリンコに献血を依頼している。

 すずかは頼むと容易く引き受けそうでできない。だって目的は血を貰うことではなく、嫌がらせして気を紛らわすことだから。

 けどアリンコも良い子だから、ふらふらの状態で頼みこむと、ちょっとだけなんだからね! と赤い皮した果物の如き顔でデレるのだろう。
 それならそれで俺に良しお前に良し。

「お前って誰だよ?」
「何座り込んでぶつくさ言ってんのよ。気持ち悪いわね」
「気にするな、ちょっと幻覚と世間話してただけだ」
「ちょっと、ホントに大丈夫?」

 うお、ガチで心配して駆け寄ってきたよ。純真な子だとブラックジョークも思うように上手く機能しないようだ。

「冗談だよ。ねぇ、斎藤さんも何か言ってやってくださいよ」
「なっ! 心配した私が馬鹿だったって、斎藤さんて誰よ!」
「だから斎藤さんは斎藤さんだよ、いつまでもベンチで奥さんの作った弁当食べてるだけだと思うなよ。来年には一緒にメジャーデビューだ」
「すずか、どうしよう、拓馬がおかしくなっちゃった!」
「どんなけ反応が素直で可愛いんだよ、お前は」

 裏で俺がからかわれてるんじゃなかろうな。
 俺らの様子を一歩引いたところで観察しながらクスクスと笑みを零すすずかに癒やされているので、まぁどっちでもいいかと思った。

「大丈夫だよ、アリサちゃん。たっ君は無茶ばかりするけど、ちゃんと全部計算してるから」
「だそうですよ、奥さん」
「誰が奥さんよ!」
「俺の」
「な、ななななんでわたしがあんたと結婚しなきゃいけないのよ! わたしは誰がと聞いたの! 誰のじゃないわ!」

 噛みまくりの顔真っ赤ですよ。かっわいい! これがツンデレの魅力というやつか。

「なんでもいいから養ってください」
「この駄目夫!」

 そりゃ社長令嬢が相手ならこういう展開だろう。こんなクソ野郎が婿入りすることを父親が許すはずもないが。

「浮気だけはしないから」
「当たり前よ! そもそもあんたにそんな甲斐性無いでしょうが」
「何故にばれた?」
「あんたのことは全部お見通しなのよ」

 まるっとなのか。

「流石俺のお嫁さんだな」
「当然よ!」
「アリサちゃん……乗せられてるよ」
「え? あーもう!」
「まぁまぁそう怒るなよ。鉄分不足だぞ」
「足りないと怒りやすくなるのはカルシウムだし、鉄分足りないのはたっ君だからね?」

 あのまま戦い続けていたら黄色い血液流して死んでた可能性もなくはないが。

 ひとまず、アリンコではなくすずかが突っ込んだところでバカ話にも一度オチがついた。
 なんでこんなノリノリで、幼子よろしく昆虫弄りに精を出してるかと言うと、他にやることがないのだ。

 戦後処理はもう終わっている。
 俺の攻撃で気絶、真っ裸になった御堂には、家を漁って見つけた布団をかけてある。

 その時に俺の服も見つけたので、もう趣味の悪い緋色の服でもなければ、露出狂として補導されそうな下着姿でもい。

 泣き別れになった腕さんはスウィンダラーでくっつけた。
 ただし神経までは繋げないので、ただ接着剤でぺたりとしたのと大差ないが、アリンコとすずかの泣きそうな面をいくらか緩和させることには成功した。

 よし後は仲間を呼ぶだけ! だったはずなのだけれども、家から出れない。ついで念話も届かない。
 なんと御堂の封鎖結界は発動すれば術者から切り離されるタイプだったのだ。

 力で破壊しようにも、これ以上の血液消費は危険値に達する可能性がある。
 とはいえ時間をかければ外部からの解析は可能だろうし、大人しく救援を待つことにした。

「ねぇ、拓馬」
「あんだ?」
「本当の本当に大丈夫なの?」

 大雑把過ぎてどれについての話かわからん。
 アリンコの顔色見て思考を読めばいいだけの話だけど、疲れためどい働きたくないでござる。

「御堂はあれだけ魔力ダメージで叩きのめしたんだ。すぐには起きやしないよ」
「そっちじゃなくて、あんたよ」

 見事に外した。けれど会話は成立してるので問題はない。そう、決して俺のトークスキルが残念なわけじゃないのだ。

「すずかも言ってたろ、予定調和だ。御堂は俺に死線すら与えられやしなかった。楽勝楽勝」
「それは流石に少し言い過ぎじゃないかな。わたしにはすごくふらふらに見えるけど」
「戦闘後にこうなることも計算のうちさ。つまり不条理が入らない、理詰めだけで勝てる戦いだったんだよ」

 ボコボコにさたのも、腕スパーンってされたのも、全部計算の範疇内だった。必要なことをするのに相応のリスクを支払ったに過ぎない。

「よくわかんないわ。だけどさ、あんたならもっと簡単に勝てたんじゃないの?」

 わからないという割に要点はしっかり押さえているあたり聡い子だ。これなら説明が楽に済む。

「お前の言う通り、ただ勝つだけなら他にやりようはいくらでもあったさ。だけどさっきの戦いには他に条件を付けてたんでね」
「条件? 命がけだったのにそんなのつけてたの、あんた」
「むしろ条件付けたから命がけになったというべきだがな。内容は全部あいつについてだ」

 と、俺は布団の下、裸で眠る美少女を親指でさす。
 もし修一がいれば生唾ものの光景だろうなと不必要な想像しながらだが、俺も平常時ならもっとテンション高かったろうなぁ。

「そんなに脱がしたかったの……?」
「あれはどう倒しても脱いでるだろうが」

 なんて失礼な子虫でしょう! どうやらあいつは変身が解けても服は戻らないらしい。人外的な容姿だったし、実はデビルマンか何かだろうか。

「一つは御堂を無傷で倒すこと」
「非殺傷設定だっけ?」
「ああそうだ。敵とはいえ女の子だし、時空管理局と共闘中だからな。逮捕するならできるだけ無傷でだ」

 得意分野が暗殺の身としては非常にやり辛い業務提携である。
 即死技はもちろんのこと、いつもなら使えるえげつない技の数々が封印されてしまっているのだ。

「ふーん、あんたにもそれくらいの優しさはあるんだ」
「たっ君はなのはちゃん達以上に無理するけど、ホントは優しい人なんだよ?」
「失礼なちみっ子め。俺は心が清らかでないと乗れない雲に乗れるレベルの善人さ!」

 まあ、本音は君らにそういうイメージを俺に関わる者達に植え付けるためなんだがね。

「あはは……」

 うわ、すずかったらなんて心に響く愛想笑いなんだ! 普段大人しい子にこれやれると心に響く。こういう時は流すに限るよね。

「さっきの戦闘結果だけで見れば最後は一方的な展開だったが、俺と御堂の実力にそれほど差はない。基本スペックだけを見るなら、御堂の方が上なくらいだ」
「それでまともに戦えばどちらも無事じゃ済まないから、自分が不利なように見せかけたってわけ?」
「そういうこと」

 俺にとっては、実力で勝っていようと真正面から挑むのは駄策。常に勝てる可能性を上げるよう策を練り続けるのは基本だ。

「でも大怪我するまで演技しなくてもいいんじゃ……」
「それがもう一つの条件、御堂の心を折ることだ」
「心を折るってどういう意味なのよ」

 俺にとっての勝利とは、相手を殺すこと、もしくは精神的に再起不能にすること。
 どんな強敵だろうが、精神的な柱を叩き折れば脅威ではなくなる。

「平たく言うと、戦う相手にこいつは絶対に勝てない、もう二度と戦いたくないと思わせることさ」
「それとあのやられた振りとどう繋がるんですか?」

 これだけでは、二人にはいまいちピンとこないらしい。戦闘経験がない子達なら仕方のないことか。

「御堂を力で圧倒できるんならそれでいいんだが、そうもいかない。なら俺が圧倒しているように御堂を勘違いさせる必要がある」

 そのためにとった手段が、やられている振りだった。振りな割に締め付けれた身体は、あちこち亀裂骨折になっているようだけど。
 途中、スウィンダラーで骨を補強しなければ、ぐっしゃぐしゃになって死んでいたろうな。

「弱いと思っていた敵が実は凄く強かったと思わせて、勝てないと思わせる作戦だったのかな?」
「人間てのはね、有利な状況を一気に覆されると精神に甚大なダメージを負うんだよ。そのショックから立ち直る前に畳み掛ければ、焦りはじきに敗北の恐怖へと変わる。みっともなく命乞いしたのがいい証拠さ」
「性格悪っ!」
「なんとでも言え。わざわざ挑発したのも冷静さを奪うため。故意じゃない限り戦闘中の俺はポーカーフェイスだ」

 俺はあくまでも、勝てばよかろうなのだの精神で戦うのさ。正義を示せるのは勝者だけだ。往々にして歴史とは勝者の日記帳みたいなものなんだから。

「そこまで考えて戦ってたんだ」
「弱いからこそ考えて、相手を読む。俺の基本だ」
「なのは達から聞いてた魔導師の戦闘とずいぶん違うわね」
「俺は血を減らさなきゃ、魔法を使うこともできない出来損ないだからね」

 才能の無さと自分の特性に対して自虐気に笑ってやると、二人は複雑そうな顔をする。

「だからこんな無茶するってわけ?」
「無茶じゃなくて計算だと言ってるだろうが」
「たっ君はすごく強いと思うよ」
「すずか?」
「強いけど、すごく心配になる強さなの」

 心配になる強さ、ね。そいつは美羽にもよく言われことで、いつだってこう返している。

「心配するな、俺が戦うのは死なないためだ」
「たっ君……」
「そうよすずか。こいつは心配するだけ無駄よ。こいつがちょっとやそっとじゃどうにもならないってことはさっきので嫌というほど感じたわ」
「そっか、そうだね。どうせ言ってもやめてくれそうにはないし」

 とりあえずはすずかも納得まではいかなくとも、追求するのは諦めてくれたらしい。
 まぁ説明はこんなところだろう。
 暴れたし喋ったしでエネルギーが枯渇しそうだ。
 そうして減ったら増やすは人の道理。

「ところで話は変わるが、喰うか」

 ここで俺が取り出したるは拉致されていらい行方不明となっていた、翠屋のケーキだ。
 服同様、全裸少女をどうにかするために動いてた時見つけたのだ。

「なんでこのタイミングでケーキを出すのよ! 空気を読みなさい」

 だって中身がぐちゃぐちゃになってて、もうお土産として機能しなくなったんだもん。こうなりゃ証拠隠滅だ。

「図書館入る前は狙ってたくせに」
「だからってこんな殺人現場みたいなところで食べたかないわよ」
「まあまあ、きっとたっ君なりにわたし達のことを気遣ってくれてるんだよ」
「全然そうは思えないけど」

 そりゃ思ってないもの。

「わたし、お皿と飲み物探してくるね」
「う…………ん」
 そう告げてすずかが立ち上がりかけた時、別方向からもっと空気を読まない声が聞えた。
 もぞりと、布団の中にいる全裸が動いたのだ。

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