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緋色の平穏 Ep6『独善の剣14』

 本郷雄介の尋問内容を聞いたあたしの反応は、きっと冷静ではなかったと思う。
 でも結果を淡々と語る輪廻にくってかかるあたしを、はやて達は止めなかった。止められなかったの方が正しいか。それくらい皆、輪廻のとんちんかんな話に狼狽していた。
 こいつの白衣はただ着ているだけでホントは科学者でもなんでもないんじゃねぇのかと思ったし、まだその疑心は浮かんでる。
 本郷があたし達を知っていたのは簡単な理由だった。
 あいつもあたし達と同じ管理局員だったから。
 本当の名前はジョン・ブライアント。極度のヒーローオタク……なのはもうよく知っている。
 犯行動機は連続殺人犯をトルバドゥールだと思ったから。これも堂々と叫んでいたからわかってるよ。
 疑いならあたしだってかけているのだから、その部分で本郷を責めるつもりはない。
 だけどやり方が強行過ぎる。疑わしきは罰せよじゃ、怪しい奴は皆殺人鬼に早変わりだ。
 それに殺人鬼だからって易々と殺していいはずかないだろ。
 これまでの被害者がどうして殺されなきゃなかったのか知ることも、犯した罪を償う機会も、永遠に失うんだから。
 何の根拠も無いまま、自分が正しいと思い込んで人を殺す。善悪の判別の付かない子供じゃない、率先して秩序を守るべき組織に所属している奴がやったんだ。狂ってやがる、そうとしか言えない。
 拓馬がこれまで戦った相手は真犯人に狂気を植えつけられていると推測していたが、本郷のせいで納得してしまった。まともな思考でできる行動じゃない。
 ここまではいい。話を聞いていて理解できていた。問題はこの先、ダイセイオーについてだ。
 輪廻はあの巨大ロボをレアスキルの一種だと判断した。ロストロギアならともかく、あれのどこがスキルなんだ。
 これも言い出したのは拓馬らしい。鵜呑みした輪廻も馬鹿かとは思うが、最大の問題はやはり電波の発信者だ。
 あいつはすでに治療を終えて、輪廻の家で休んでいると聞き直行した。すぐに襟首つかんで真相を聞きだしてやる。
 情報通りに拓馬はいた。呑気にテーブルで食事なぞしてやがる。
 左肩に巻かれた包帯が袖のない服の合間から覗く。かなり深かったらしく美羽でもまだ治しきれていないようだ。
 そう、ダイセイオーの力をその身で一番思い知ったのはあいつなんだよ。
「はい、拓馬さんお口を開けてください」
 御堂は肩が動かせない拓馬の腕代わりとなって、口元にスプーンを差しだしている。
「いや……」
「あーん」
「左腕を動かしちゃいけないだけだから」
「あーん!」
「あーん……」
 拓馬は御堂に多少抵抗していたが、御堂の放つ刺々しい雰囲気に押しきられ口を開けた。その情けない姿には、さっきまで本郷を翻弄していた面影も見られない。
「美味しいですか?」
「うん」
「それは良かったです」
 頷く拓馬に御堂は、自分が食べているように喜んだ。
 見方によればバカップルに見える。拓馬は認めないだろうが。
「オムライス作ったの私なんだから、私もあーんするー!」
 拓馬を挟み御堂とは反対側に座っている美羽が、ウサギ柄の小柄なスプーン(たぶん美羽専用なのだろう)でオムライスを掬い上げ、「あーん」を強要した。
 美羽の差し出すオムライスを食べると、飲み込む前に御堂が再来。こいつらオムライスがなくなるまでループするつもりか。
「見てないで救助してくれないか、ヴィーやん」
「ダイセイオーがレアスキルだと? おめぇは何を考えてやがる」
 見世物としては面白いが、終わりそうにないので話を切り出した。
「それを聞きにここまで来たのか」
「寝惚けんじゃねえ! あんな巨大機動兵器がスキルなわけねーだろ」
「そう思うよなあ、普通。でも逆なんだよ、あいつはレアスキルとしてしか存在しえない」
 存在しえない、つまりそれなりの検証はしたらしい。どう調べればそうなるかはさっぱりだが。
「もし他にダイセイオーが製造できる可能性があるとすれば、どういう手法がある?」
「ミッドチルダの科学力や、古代ベルカの兵器を現代風に改造したのかもしれねえ。どっちもレアスキルよりは現実的だろ」
 あたしは真っ先に思いついた可能性を挙げた。
 しかしこんなの当然拓馬だって考えただろう。軽く首を横に振り否定した。
「ダイセイオーの動力部はミッドチルダの現代科学力より遥かに上をいっている。あんなのはもう永久機関の錬金術だよ。輪廻さんにも理解不能だったってさ」
「なのはのスターライトブレイカーだって同じだろ」
 あのロボは大気中の魔力素だけでなく、1度使った魔力を再回収で補っていた。
 Sランク以上の高等技術だが、確立された技術のはずだ。
「規模と収束力が違う。なのはは自分の魔力に関しては回収しやすいように工夫しているが、ダイセイオーはそのまままるまる吸収してたんだよ。完全回収なんて物理的に不可能だろ? あいつの炉心はかなりの高温で発熱していた。これだけでも魔力は熱エネルギーとして消費しているはず、つまり」
 矛盾が起きてる。
 どこかで減っているはずのエネルギーが減らずに使われて、初めより増えてないか。
「計算の合わない魔力はどうなってんだ」
「増幅装置でもついてるのかもな」
 だから永久機関と錬金術ってわけか。だがこれだけじゃ引かない。可能性はまだある。
「古代兵器もあるだろ。未知の技術ならどうだ? ダイセイオーが聖王の模造品なら何らかの文献があるはずだろ。たとえ伝説レベルの話としてでも」
「兵器としてのレベルもかなりのものだったしな」
「で、どうなんだよ」
 この言い方なら調べた後か。そして見つからなかった。それでも確認のため答えは聞いておく。
「輪廻さんの所有する聖王関連の資料にはなかった」
「この短時間で調べた程度だろ? ユーノの奴に無限書庫で調べさせれば」
「ダイセイオーは無かったが、ダイセイオーがいると噛み合わなくなる史実ならいくつか出てきたよ」
「見違いはないのか」
 輪廻の家には拓馬を除けば、美羽と御堂だけ。調べたのは三人でだとしても旧暦の出来事を判別できるのは、せいぜい拓馬だけのはずだ。
「一応後でもっかい洗い直して明日聖王協会にも連絡をとるそうだが、歴史をなぞった程度の俺でも判別できたレベルの矛盾だと言っておく」
「ふざけろよ。お前はそんなの認められるのか。一緒に見たんだろ、あのアニメにでも出てきそうなロボットを!」
「むしろあんなものが現実に造られて、都合よく本郷みたいな性格の男が手に入れたと思うのか?」
「そんなの……」
 できすぎた偶然、そんなのはわかってる。
 わかっていてもダイセイオーも本郷も現実に存在しているなら受け入れるしかないだろ。
「だから俺はこう思うようにした。ダイセイオーは本郷のためだけに生まれるべくして生まれた。そしてそいつを可能にするのは、レアスキルだけだ」
「逆説かよ。じゃあなんで本郷で、どうしてダイセイオーなんだよ」
 偶然じゃないなら必然だと?
 ただでさえ連続殺人事件からこんなのに派生までして混乱中なのに、そこへ本郷は現れるべくして現れたと言いたいのか?
「正しくは本郷は偶然。ダイセイオーは必然だ」
「……説明しろ」
 こうなったら拓馬の解説を聞くしかない。
 完全に拓馬のペースだが、あたしにはない発想力を拓馬は持っている。
 そいつが導き出した、馬鹿みたいな回答の理由。
「本郷は御堂と同じ、真犯人に能力を植え付けられたと予想している」
「そいつは知ってる。そのスキルがダイセイオーだってのか」
「本郷の奴はたまに仕事抜け出して夜までやってる本屋とかDVDのレンタル店へ行っていたらしい。タイミング的にはそこだろうな」
 これはさっき輪廻に聞いた事実だが、改めて聞くとむかむかしてくるな。
「あいつなんであたし達が夜に見回りしてたのかわかってるのか?」
「俺に言われてもなぁ」
「でも私のラヴスネーカーとは全然能力が違いますよ?」
 割り込んだのは御堂だった。ラヴスネーカーって、あいつのスキル名か?
 なんかスゲェ微妙なネーミングセンスだな、おい。だけど話が進まないからそれについては置いとく。
「良い着眼点だよ叶。そう、それぞれに与えられているスキルが全然違うのさ」
「えへへ、誉められました」
「それぞれってメガネとかいう奴を含めた三人か」
 照れている御堂を無視して、話を続ける。
 メガネはなのはがボコボコにした奴だったよな。名前は憶ぼえてないが、鴉の羽から化け物鴉を作り出すスキルを持っていたんだけっか。

「データが三人しかいないのは少々心許ないが、これはしょうがないと思ってくれ。俺の予想が正しければどうせまだ出るだろうし」
「それは……ハズレてくれた方が嬉しいかな」
「そもそもこれ以上の犠牲者が出ないように戦ってんだろ」
 拓馬は「違いない」と、小さく苦笑して話を続けた。
「で、そのメガネだがあいつは家族や学校のクラスメートの証言によると、犯罪に手を染める前は虫1匹殺せないどころか、ビビって触れない大人しい少年だったらしい」
「ニュースとかでよく聞く話だな」
 でも実際大人しい人間が爆発するケースなんて稀だ。たいがいは起爆する根性もない。
 どいつもこいつもそんな破裂していたら、もっと社会は荒れているだろ。
「少なくとも俺の持つ印象では、喜び勇んで蟻は踏みつぶして蜂は逃げてそうな奴だった」
 ろくな奴じゃないヘタレだというのはよくわかる喩えだ。人質なんてとる奴だし、それが妥当なんだろう。
「それとメガネは一時期虐められていたらしい、俺が襲われた廃ビルでな。どうもメガネによる最初の犠牲者は虐めていた奴だったようだ」
 虐めと聞いて御堂の顔がこわばった。こいつが暴走した原因にも虐めが含まれているんだたったか。
 御堂には悪いが、この共通点には何らかの意味がありそうだ。
「叶、あーん」
「はい?」
「あーん」
「は、はい!」
 話の腰を折り、拓馬がオムライスを要求した。
 御堂は初めこそ何のことかわからず、戸惑ったがすぐスプーンにチキンライスと卵を盛りつけて拓馬の口元へ持っていく。どういう励まし方ただよ。それでも叶は嬉しそうだからいいのか。
 美羽はちょっと頬を膨らませているが、意図はわかっているらしく大人しい。

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