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緋色の平穏 Ep6『独善の剣4』

「俺の見立てだと三割ってところかな」
 しかし、それだけあれば脅威と呼べるだろう。
 俺は、スクラップと化したダイセイオーへと赴く。
 本郷が消えた部分である胴体へとかけのぼり、緋色の剣を精製。
 切っ先をダイセイオーへとかざし、警告を開始した。
「おい、意識があるなら大人しく投降しろ。そうすれば、これ以上危害は加えない」
 返事はない。かまわず続ける。
 警告の仕方が管理局のそれと違うのは仕様だ。
「この警告を無視するのなら、装甲を破壊しお前を引きずり出し、抵抗の意思を失うまで戦闘を続行する」
 まだやるかい?
 やるなら、君がッ、泣くまで、殴るのをやめないッ! モードに移行するぞ。と、そういう脅し。
 まだ返事がない。
 ギガントで意識がとんだか、虚勢か、機を伺っているのか、それとも?
「返答がないので、引きずりださせてもらう」
「ままま、待ってくれ!」
 返答あり。虚勢だったか。
 へぇ、絶対絶命のタイミングに、張れるだけの度胸がこいつにあるとは思わなかった。
 たとえそれが、すぐ剥がれるものだとしてもだ。
「で、どうするんだ?」
「出るから抵抗しないから!」
「さっさとしろ。俺は気が短い」
「い、イー!」
 そこで戦闘員化するのか。実はまだ余裕あるをじゃないか、コイツ?
 足元が淡い光に包まれると、しゃがみこみながら両手で頭を庇い、縮こまってるコスプレ男が出現した。
 しかも嗚咽混じりで小刻みに震えているのだから、なんとも痛々しい亀男だ。
 これじゃ自慢の髭が残りわずかな人みたいに、護身開眼もできそうにない。
「お前、まさかずっとコクピットで泣いてたのか?」
「泣いでまぜん」
 泣いてたんだな。装甲破壊して踏み込んだら、漏らされていたかもしれない。
 戦意は最低限の尊厳ごと粉みじんになって、亜空間にばら撒かれたか。
「暴行は加えないが、拘束させてもらう」
「イー!」
 普通に返事しろよ。
 お前にとってその返事は、犬が腹を出して降伏するようなもんなのか?
 俺は軽く溜め息を吐きつつも、拘束用の手錠を精製――
「ガルアァァ!」
 するその前に突如襲いかかってきた、乱入者に殴打された。
 飛行魔法を使ったわけでもないのに、身体が宙を飛ぶ飛ぶ。
 あまり気持ちの良い浮遊感ではないが、自分の意思と関係なくってわけでもない。
「とっさに跳ばなきゃ、ガードした腕がお釈迦だったな」
 完全に無事と言うわけでも、ないんだけどねぇ。
 折れてはないみたいだが、ひびくらいは入っただろうな。
 右手を押さえると鈍痛が走る。しかし守らないわけにも行かないので、そのまま襲撃者を睨みつける。
「グルルルル」
 黄金に煌めく四速歩行の身体。白銀のたてがみからは、常に帯電しているように魔力が弾けている。
 敵対心に満ち満ちている赤い目と唸り声が、これで終わりじゃないことを告げまくりだ。
「ライ……オン?」
 召喚者と思われる男はぽかんと口を開けたまま、呆然としている。
 フェイスガードで表情の細部までは確認できないが、絶対間抜けて炭酸の抜けたコーラ以下の締まらなさを体現していることだろう。
 北極ライオン紛い召喚について、自覚が皆無なのはよぉくわかった。
 主人の性格は反映されず野性味溢れる金属の猛獣は、雄叫びと鋭い爪を俺へとプレゼントしてくる。お手なら主へしてくれればいいのに。
 スピードはあっても軌道は直線的なので退避は難しくない。そう思っていた時期が俺にもありました。
 バックステップを踏んでいたら、空より飛来した火球が俺の数十センチ隣へ落下。
 巻き起こった爆炎に身を焦がされる。
 鋭い翠の双眸で、不死鳥をイメージしたわかりやすい赤き鳥類。そいつが俺を獲物に定めて狩りを始めたようだ。
 いくらバリアジャケットがあるとはいえ、直火焼きはご遠慮願いたいよ。
 それにこの火力はこんがり過ぎる。
 別にステーキの焼き加減にこだわりがあるわけじゃないが、ウェルダンは好きじゃない。
 地面を転がりながらバリアジャケットに付いた火を消して、膝立ちになった。
 追撃があれば、次は魔力を駆使して飛行することも厭わないつもりだ。
 一部焦げたジャケットを再構築する。
 体勢を立て直して仕切り直し……はできなかった。
 新たに降ってきた何かが地面を砕く。
 上から来るぞ! 降ってくる質量が火球じゃなく予想をオーバーしてくれたので、気をつけられなかったけど。
 炎よりずっと硬度と密度のある物体。黒いキングコングが三匹目らしい。
 これでは飛んで逃げることもできん。
 おいおい、本郷よりよっぽどレベルの高い連携攻撃を組んでるんじゃないぞ。
 AIが止まらない。止まっちゃくれない。いや、読んだことないんだけどね?
 落下の衝撃で地面が揺れる。弾けたコンクリートが凶器となり肉を叩く。
 シールドで弾くが立て続けにこいつはキツい。ネタに走る余裕もなくなってきた。
 その場で耐えるだけでも精一杯だというのに、ゴリラが俺の腕を掴み上げた。しかも負傷中の右をだ。
 勢いよく腕を頭上へと導くコング。
 ここまでの慣性だけで、掴まれた俺の腕は悲鳴を上げ、許容範囲を軽く超えて折り曲がっている。
 けれど、もう腕どころじゃない。ここって建物だと何階分だ?
 絶叫マシンは寸止めするから需要があるんだ。
 事故だろうが、故意だろうが、地面と熱いヴェーゼをかます供給なんて――
「がはっ!」
 俺の尊重などあるはずもなく、力任せに地面へと激突。
 クッションを作り直接アスファルトに直撃だけは避けたが、地面にはしっかり何かがめり込んだ窪みができていて、製作協力な俺はその場に捨てられている。
 激痛はもちろん、呼吸ができないし視界も揺らぐ。
 それでも、かろうじて捉えた黒い塊から逃げるため、先も不確かなまま低空を滑るよう飛んだ。
 緊急で装備したウィングでは、たいした浮力は得られないので、すぐ失速して地面に擦りだす。
 着地はできないから、勢いを殺すためまた転がった。
 それでも、そのまま俺自身と変わらないサイズの拳にプレスされるよりは、ずっとマシな有り様だ。
 立ち上がろうとしたが、足元がおぼつかず己を軸として大地さんに直立できない。
 元気に俺と戯れたがる、ライオンの咆哮が鼓膜を刺激した。
 まだじゃれつき足りないのかと思ったが、鈍器で殴られた悲鳴らしい。
 ヴィーやん頑張るな。
「このバカ野郎!」
 ヴィータがこっちに合流して早々、まずは怒鳴られた。
「はい?」
「また無茶苦茶しやがって。腕折れてんじゃねえか!」
 別に自分から弾幕に突っ込んで折ったわけじゃないんだから、怒らなくたっていいじゃない。
「ああこれ? 余裕っスよ。マジ余裕。YO! YOU!」
 自分で言ってて意味わからなくなってきた。
 またお花畑な思考ができるくらいの余裕は出たと、ポジティブシンキングしておこう。
「どこがだよ!」
「それより優先事項があるんじゃないかい?」
 合流していたのは俺達だけじゃないようだ。
 登場していきなり俺をフルボッコにしたダイセイオーより厄介な三匹は、主人である本郷に寄り添っている。
「お前達は……そうか、そうだな。俺がこんなところでくたばってちゃ次元世界がトルバドゥールの魔の手に落ちてしまう」
 本郷は驚いたり、頷いたりしながら一人でぶつぶつ呟いている。
 これは気持ち悪い。そして気持ちわ類。
 家でよく一人言が出るタイプだよ、きっと。
 格闘ゲームで敵を殴って「デュクシ!」とか。
 ちなみにあの擬音はスト二あたりが有名だが、“デュ”はまぁ殴られた音として“クシ”は何の音になるのだろう?
 音としては重たい部類に入りそうだし、払うように発音するのだから余韻が有力か。
 でもそれならそれでどんな余韻になるのか?
 余韻なのだから具体的なものを持ち出すのもどうかとは思うが、イメージはあるはずだ。
 殴った後の風を切る音……それは殴る前だろう。
 仰け反りも、足が地面をする感じじゃないし、違う気がする。
 後は、殴られた相手が肺にたまった空気を吐き出す音。あ、ちょっとこれっぽくない?
「奥深いな、デュクシ」
「お前、頭でも打ったか?」
 いきなりな発言を容赦なく切って落とされた。打ったけど、打ち所は悪くなかったと信じたい。
 俺をおいて攻めに行かなかったあたり、ヴィータの疲弊も小さくはないらしい。
 ライオンが主人を敬うように、本郷の頬へ自分の顔を擦り付けた。
「よし、俺は一人じゃない。皆行こう!」
 その行動が琴線に触れたのか、本郷が覚悟を決めたようにダイセイオーへと乗り込む。
 つくづく主よりできる子達のようだ。
「どうやら、やる気を取り戻したらしいな」
「やらせるかよ! 拓馬、お前はそこで大人しくしてろ」

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