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緋色の平穏 Ep6『独善の剣9』

 上乗せされるダメージを、回復速度が凌駕する。
 まともに逃げられたら倒しきれないのか。
「動きがさっきと全然違う」
「うん、何だか操縦する人が変わったみたいだね」
 フェイトとなのはも、あからさまな様子の変化を察している。
 一番驚いているのはヴィータだが。
「拓馬、あいつは……」
「ヴィータも気付いたか」
 もう間違いない。
 ダイセイオーはここにきて一番手痛い枷を失い、己の持つスペックを最大限に生かし始めた。
「鏡、一度退け。こっちも体勢を立て直す」
「ざっけんじゃないわよ。ようやく面白くなってきたのに!」
 あの刹那的快楽主義者がノーダメージで指示を聞くわけないよな。
 かと言ってあいつとの戦闘で戦力として球太郎を失うのも困る。
 協力しない、退かない、しかも押され気味。どんなけめんどくさいんだよ、こいつ。
「どういうことなんヴィータ?」
「あいつたぶん、AIが操縦してるよ。はやて」
「AI? 何だか弱くなりそうなイメージがあるんだけど」
 なのはのイメージはアニメか何かだろう。まさしくアニメから直に召喚しましたって説明されても、納得できそうな物体だし。
 敵の人工知能で動くロボットが、主人公の乗るメカに次々と倒されるシーンなんて珍しくない。
 それに該当しないのが、ダイセイオーなのだけどな。
「あいつは反対だ。パイロットが人間よりAIの方が遥かに強い」
 俺とヴィータが唯一形勢を返されたのは、一場面だけ。ライオン達がでしゃばったタイミングだ。
 けど合体してからはこっちのペースに引き戻せた。あのままバラバラで戦っていたら俺達が負けていたかもしれない。
「おそらくは、さっきの砲撃でパイロットである本郷が気絶した。それにより緊急装置らしき機能が働き、コントロールがAIに切り替わったんだろうな」
「つまり暴走でしょ? ますます燃えるわ」
 こっちの音声を拾っていたらしい鏡が、生き生きと声を弾ませる。
 ちょっぴり危機感も上乗せして欲しかったのだが、戦闘本能のみが倍プッシュされてしまったようだ。
「まさしくエヴァ的展開!」
「スーパーロボット的にマジンカイザーじゃないんだ」
「あんたのネタは妙にマイナーなのよ」
「知ってるお前もお前だろ」
 無駄口叩きながらも鏡は攻撃の手を休めてはいない。
 果敢にシューティングに興じているが、スコアは芳しくなく、戦いは振り出しに戻されそうだ。
≪Seitei Braid≫
「鬼ごっこは終わりかし――」
 ダイセイオーが生み出した剣を握った刹那、球太郎に肉薄。そして、そのままの速度で一閃。
 球太郎の左腕が途中で切断された。主とコントロールを失った腕は重力に引かれて地面へと落下する。
「あら、やるじゃないっ!」
 鏡の言葉尻に、気合が混じる。
 鏡はダイセイオーの秘められていた性能を讃えるが、それで終わるわけもない。
 追撃をかけるダイセイオーに右腕で振り払うようカウンターをしかけた。
≪Leo bite≫
 直撃に見えた腕はしかし、胸部のライオンの牙に噛みつかれ、金属を軋ませながら砕かれる。
「あたしは餌じゃないのよ」
 鏡が怯まず胸から生えたキャノン砲を放とうとするが、わずかに先手を打ち反応したダイセイオーがロケットパチンを叩きこんだ。「ぐがっ」
 巨拳をもろに食らった球太郎は胴体の球を歪に窪ませ大きく退行する。
 無理な体勢から発射された砲弾は、闇夜へと消えた。
 球太郎はバーニアを噴射し、急停止。
 ダイセイオーはその場から動こうともせず、様子見しているようだ。
 この行為が、鏡の怒りを誘い、戦闘本能を加速させる。
「ぶち抜けぇ!」
 鏡が野獣の如く吠え、怒りを発散するように下部の魔力を撃ち放った。
≪Seitei Knuckle≫
 想定……もとい計算していたケースに当てはまるのか、ダイセイオーは予定調和と言わんばかりに両腕の指を絡めて発射。
 莫大な魔力に正面から挑むが、数秒拮抗した後に、蒸発させられた。
「無駄無駄無駄無駄ぁ!」
 自分の拳が魔力砲へ果敢に挑んでいる間、ダイセイオーは手首から先に新たなアタッチメントを召喚。
 まず青く光る枠が形作り、腕の端から順に具現化していく。
 作り出されたそいつは巨大なドリル。
 二つの腕を、一つの大型螺旋と組み合わせたのだ。
≪Seitei Spin≫
 そのドリルが回転を開始。蒼い雷鳴を巻き起こしながら、ダイセイオーは生み出された螺旋の旋風に身を任せ、迫る魔力へ突進。
 あいつ、球太郎の最大出力砲と真正面からぶつかる気だ。
「かかってこいやぁ!」
「鏡さん、逃げて!」
 フェイトが警告するが、もう遅い。
 ドリルの切っ先が収束された魔力を削り分解していく
 加速魔法のフラッシュムーブを起動させ、駆け寄ろうとするなのはの肩を、一足先に掴んで止める。
「あのドリルを止めないと鏡さんが!」
「どうやって止める気だ? お前でもあれだけの魔力は受け止め切れないだろ」
「でも!」
「それより次の手を練るぞ。球太郎は、もう使えない」
 なのはに睨まれる。このままじゃ見殺しだ、それはわかっていても離すわけにはいかない。
 すぐにダイセイオーのドリルは魔力砲を抜けて、球太郎へと到達する。
「馬鹿な、この鏡がああああぁぁぁ」
 切り札を力で突破された球太郎は、なお勢いの収まらない螺旋の嵐に胴体を抉られ風穴が開けられる。
 いくつか火花が散るや否や、破片を撒き散らして球太郎は爆発。
「鏡さぁぁん!」
「鏡さんが墜とされるやなんて……」
 鏡が、墜とされた。
 なのはが感情に任せて叫ぶ。はやての声には力がこもっていない。
 あの爆発だ。生きていたとしても、安いダメージではないだろう。
「たっ……君?」
 フェイトが俺の顔を伺う。
 同僚で、いつもつるんでいた仲間がやられた俺を気遣い、心中を察しようとしているようだ。俺相手じゃ、あまり意味はないけど。
「鏡の安否確認は後回しだ。戦いながら逃げて時間を稼ぐ」
 鏡の撃墜そのものはさほど驚く事象ではない。
 生きてる可能性が残っている以上救助してやるべきであるが、それより時間はない。
 重ねてあいつの敗北は自業自得だ。自分の失敗は自分で尻拭ってもらおうか。
「なんでや? 今ならまだ助けられるかもしれへん!」
「そうだよ、鏡さんを助けないと!」
 何馬鹿を言ってるんだと、なのは達が俺に詰め寄る。
 鏡を助けたとしても、戦力外じゃただでさえ不利な状況に加えて、荷物抱えて戦闘する羽目になる。
 なのは達にもそれがわからないわけじゃない。それでも救助を優先しているのだから、優しさがそのまま甘さとなっている。
「そんな暇はない」
≪Seitei Knuckle≫
 破損した腕の修復を終えたダイセイオーが、新たな標的を定めた。もう壊せる建物も無い。逃げ隠れは大きく限定される。
 それに、ダイセイオー相手にまとまっているのは自殺行為だ。
「このままやったら皆まとめてやれてまう!」
 俺達は一旦散開。ヴィータははやてとユーノが支えている。ダ
 イセイオーの拳が、クレーターを作り上げていく。
「鏡を探してれば、次は誰かがあの穴の中で潰れるかもしれない。鏡の捜索に割ける戦力はないんだよ。なのは、フェイト、はやてがデカブツのデコイ。ユーノは俺とダイセイオーの調査をして、ヴィータは少しでも回復に専念しろ」
「でも……」
 なお、フェイトが難色を示してきた。その想いは他の連中にも伝播して、反発は強まる。
 やれやれだ。こうしている間にも、ダイセイオーの肩が開き、魔力砲撃が開始される。
「あたしが捜索する」
「お前の残りライフじゃミイラ発掘する前に死体になるだろ。大人しくしてろ」
「じゃあ私がダイセイオーを引きつけるから、フェイトちゃんとはやてちゃんが鏡さんを捜索して」
「なのは、引きつけるのは私の方がいい」
 ダイセイオーの手数を考慮するなら、中途半端に戦力を小分けしてはいけない。
 人工知能だと、敵をコントロールしての回避も難しくなる。
 わざわざ説得している時間だってないってのに。負けてからも迷惑かけるとは、これだから男の娘は。

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