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緋色の平穏 Ep8『道歩む者、術(すべ)操る者2』

「実は私にもよくわかってないんだ。私は罪を犯して、だけど今は管理局にいる。一人でも悲しむ人が少なくなって欲しいと思うから……」
「それで良いと思うよ」
「え?」
「だって、それがフェイトのやりたいことなんだろう? ならフェイトはフェイトを通せばいい」
 誰かに自分と同じ悲しみを背負わせたくない。フェイトはそのために傷つくことを躊躇わないだろう。
 だが人によってはそれが理解できない者もいる。人を助けるために自分を犠牲にするという精神。それは俺と対極にあり、英雄的とも呼べるだろう行為だろう。
 しかし誰かを守る行為は同時に自己犠牲という側面も持ち、言葉ほど簡単な話ではない。奇麗事を並べる奴らの中で、いざという時に迷わず行動を起こせる人間は一体どれくらいいるだろうか?
 フェイトはその中の貴重な本物で、自分を身投げしてまで人を救おうとできる覚悟を持っている。
 何故ならば、それこそフェイトがなりたい自分であり、フェイト・T・ハラオウンという魔導師の本質だからだ。
「でも、時々思うんだ。これでいいのかなって。もっと誰も傷つかない方法があるかもしれないのに、私はそれを見つけられていないだけなんじゃないかって」
「そう言うと?」
「どんなに人を救いたい気持ちがあっても、言葉が届かなければ結局戦うしかない。闇の書事件もそうだった。あの時は精一杯戦ったつもりだったけど、今になって思うと結局戦うことしかできなかったんだ。戦って、はやてを助けることはできたよ。けど……リインフォースは、消えてしまった」
 祝福の風、リインフォース。はやてとなのは達を繋いだロストロギアである“闇の書”の官制人格だ。
 はやてからその名を貰い受け、はやてを守るためにその命を散らしたと聞いている。
「もっと私が上手く動けていれば、別の終わりもあったんじゃないかと思う。もう済んだことだって、前を向かなきゃいけないって頭ではわかってるんだ。それでも私は弱いから時々考えて、未だに後ろを向いてしまってる」
「難しい話だね」
 フェイトは強い。力だけじゃなく、心も。それこそ同年代の子供から比べれば、冗談みたいな精神力だろう。
 しかし彼女はまだ十歳程度の少女で、悲しみと犠牲を全て飲み込むんで進むにはあまりに幼過ぎる。
 それに、これはフェイトだけでなくなのは達にも言えることなのだが、彼女達はなまじ優秀な分、何でも一人で抱え込んでしまう悪癖があるようだ。
 チームワークができてないわけじゃなくて、むしろこの子達の連係能力もそこらの魔導師と比べてずいぶんと高い。
 ただ、必要以上に誰かの力を借りようとしないのだ。言い換えるなら誰かに迷惑をかけたくないと考えている。
 自立心が高い子供も考えものだなぁ。悪く言うなら意固地であり、無茶をしやすい。
 だからこそ、フェイトが今しているこの類の話は珍しい。なんせ少々内向的な部分のありつつ我慢強さに定評があるフェイトが、自分から具体的な弱音を吐いているのだから。
「ごめんね。こんな話をするつもりなんて、なかったんだけど」
 別に自分の弱さをいきなりどうにかできるなんて、フェイトにも思っていないだろう。だからこれは、言ってしまえばフェイトの愚痴なのだ。
 それも感情の吹き溜まりが限界を超えて爆発したものではなく、常々考えている悩みが少々こぼれたぐらいでしかない。
 聞いてあげるだけでも少しはフェイトの気は楽になるだろう程度の、小さいわだかまりだ。
「でもさ、それがフェイトの選んだ道なんだろ?」
 たぶん、相手が俺だから出たのだと思う。
 俺は当時のことを知らない年上の人間だから、ついこぼれてしまった。
 なのはやはやてには今更漏らせない。どちらかと言えばあの事件で一番ショックの大きいだろう、はやてを支える側に回らないといけないから。
「道……」
「相手が間違っていると思うなら、たとえ戦ってでも相手と話をする。それが君やなのは達が選んだ、魔導師としての道じゃないのかな?」
「私はあの時、シグナム達に話を聞かかせてもらって、話を聞いてもらうために戦った」
 フェイトは一人で呟くように言った。自分の戦ってきた理由を復唱するように。
 フェイトが抱える後悔は、これから取り戻せる。
 もちろん死者が帰ってくるわけはないが、フェイトの苦悩は自分の力足らずにより救えなかった命に対するものだ。ならば、
「フェイトは人としても、魔導師としてもまだまだこれからだろう?
 これからもっと強くなって、救くうべき命を救っていくことがフェイトの歩むべき道だと、俺は思う」
 それが、フェイト自身を救う方法でもある――と、最後だけは言わずに伏せた。
 道は歩くもので、すがるものではないだろうから。
 フェイトは黙考する。まだ自分の中で明確な答えが出ていないのだろう。
 それでいい、考えているのは歩いている証拠だ。止まらなければ彼女はきっといつか答えを見つける。彼女は自分が思っているよりもずっと強いから。
「ここまで来るのに必死で、道なんて意識したことなかったな」
 長い間、自分の道を自分で選べず生きてきた少女。
 プレシアから解放された後は様々なものを自分で選べるようになったろうが、それは彼女からすれば新たな生活という壁とのぶつかりでもあっただろう。
 そのどれもこれもが、フェイトにとっては新鮮で、全力を出せねばならない乗り越えられないことでもある。
 殺人事件が落ち着けば、執務官試験の勉強も始めるらしいし、ノンストップな子だ。そんな目まぐるしく変わる人生の中で、彼女は精一杯やってきて、結果ここにいると言った感じなのだろう。
「別に恥じる話でもないし、そもそもフェイトくらいの年でそこまで考えて生きてる子なんて普通いないから。大人でも進むべき道が見えてない奴なんていくらでもいるよ」
「そうなのかな?」
「そういうものさ」
 フェイトにとって、具体的な目的を持たずだらだら生きてる人間は大人の中に数えられそうもないな。この子の中にある大人像は、きっとものすごく急斜面な坂の上に立っているのだろうなぁと、想像してしまう。
「たっくんにとっての魔法も、その“道”なのかな?」
 来たな、と思う。フェイトが計りたい俺の実体という名の虚像。だから考える、俺が出すべき答えを。
 暁拓馬にとっての魔法。それは、到底道と呼んでいいものではない。
「術(すべ)だよ」
「術?」
「分かりやすく言い換えるなら、道具かな」
 小動物みたいに小首を傾げるフェイトが見たくて、わざと難解な言い方したのは秘密だ。
 ついでにここまで良いお兄さん過ぎたから、ちょっと悪ぶってみることにしよう。
「俺にとって魔法は戦うための道具でしかないってことさ」
 力は力。そこに感動は必要はなく、絶対に魔法である必要さえない。もっと効率の良い力があるなら俺はそれを使用する。
 銃で撃つ方が楽なら、引き金を引いて鉛玉を撃ち込めばいい。そういう単純な話だ。
「それは少し寂しいよ。魔法は戦うためにあるんじゃない。魔法は人を救うことだってできるんだ」
「そいつは見解の相違だよフェイト」
 フェイトの言わんとしている意味はわかる。それにきっと正しい答えだ。
 だけどその解は意外に、俺の考えとそう外れるものでもない。
「魔法は応用性が高いから、使い方一つで導かれる結果も大きく変わる。魔法を使用し何を成すかは魔法の使用者次第だと、フェイトは言いたいんだろう?」
「そうだよ、私はそうやって、なのはにも手を差し伸べてもらった」
 フェイトにとっての魔法は救うためもの。それは、フェイトの根幹に根付いた確固たる信念とさえ言える。だから、その部分まで否定しきってはいけない。
「俺は魔法を純粋に武器としている。結果的に人を救うことだってあるとしても、武器である自覚を捨てたくはない。いたずらに魔法を使用して必要以上に人を傷けたくはないから、そう考えることにしてるのさ」
 武器を武器として認識しないのは危険だ。人を撃てば怪我をしてそのまま死ぬかもしれないし、そもそもそんなものは当たり前と言っていい。だがその当たり前を自覚できない奴が、そのリスクも理解しないまま安易に人の人生を奪う。
 たとえ殺人鬼であれ、奪うべき人の命は重いのだ。それを自覚しない者は、いつか自分が奪ってきたものを奪われて破滅するしかない。
「それはそれで、たっくんらしいのかな……?」
「俺がそう考えてるのだから、きっと俺らしいのさ」
 少し俯き考えるようなしぐさをしてから、フェイトが一度だけ頷いた。この話で、ちょっとはフェイトなりの考えがまとまったのならばそれで良いと思う。
 そしてフェイトは両手でグラスを包むように持って、ジュースの残りをすする。
 いつの間にか、皿のケーキは消えていた。思っていたよりも無駄に長く話していたようだ。
「まだ私は道の意味を良くわかってないかもしれないけど、それでもしばらくはこのまま進んでみようと思う。だって拓馬さんの言う道が私の軌跡なら、なのは達と友達になれたのは私が選んだ“道”の大事な結果だと思うから」
「ああ、きっとそうだよ」
 フェイトの道は、ただ戦って排除するだけのものではない。
 彼女の戦いの本質は、何よりも――
「たっ君、おまたせー」
 肩まで伸びる黒髪の少女で俺の親友、円が勢いよく店へと入ってきた。
 ここまでけっこう急いで来たのだろう、少し息が乱れている。
「ごめんね、遅くなっちゃって」
「俺が予定より早かっただけなんだから、気にしなくて良いよ」
 円は桃子さん達店の人に軽く会釈だけして、すぐに俺の元へとやってきた。
 少し休ませてやるため、奥に詰めて円に隣を譲ると彼女は素直に「ありがとう」とはにかむ。その笑顔にフェイトと同様の癒しを少しでも感じた俺が、ちょっと嫌だった。
「こんにちは」
 円が席に着いたところで、フェイトがにこやかに挨拶する。お互いの会話相手が変わり、これを機に俺とフェイトの話は終わりとなった。
「こんにちは。フェイトちゃんがたっ君の相手してくれたんだ、ありがとねー。でも、何か変なことされたり言われたりしなかった?」
「お前はどれだけ俺を信用してないんだよ」
「私が相談に乗ってもらってたんです」
 俺がフェイトと話をするのはイコールセクハラですか? そのままそっくりと変態行為ですか?
 イエスロリータ、ノータッチ! が、俺の基本方針だというのに。何故こんな性犯罪者のような扱いされなくてはいけないのだろうか。全くもって腹立たしい。
「だって、この前フェイトちゃんを膝に乗せたんだって、すごくはしゃいでたじゃない」
「うぐっ」
 してたな、ロリータにタッチしてたよ自分。余計な話を円にしたがために、その後俺は正座で小学生に変な悪戯をしちゃいけませんと小一時間説教されたんだった。
「フェイトちゃん、たっ君に虐められたらすぐ私に言うんだよ」
「あはは、そうします……」
 円の勢いにフェイトは苦笑いで返す。あなた得意の心配性で、小学生が軽く引いてるよママン。
「それじゃたっ君、私はそろそろ帰るね」
「うん、またな」
 フェイトはナプキンで口を拭って席を立つ。円が来るまでの約束だったから、こうなるは自然の流れだろう。
 口にクリーム付いてるよとか言って俺がフェイトの口元を拭いてあげる予定だったのだが、円の目が光っていてはそれもできない。 しょうがないから素直にフェイトへ別れを告げる。
「もう帰っちゃうの?」
「はい、宿題もしないといけないから」
 フェイトは出来るだけ円に気を使わせたくないのだろう、俺達の邪魔をしたくないという本音を隠して理由を見繕った。
 俺が同じ理由を出すと絶対嘘だと言われるのだろうな。勉強を理由に出来るフェイトは偉大だ。
「今日はありがとう。それにケーキもごちそうさま」
「こんな程度で良いなら、いつでも歓迎するよ」
 会釈して去っていくフェイトを、俺は右手を振りながら笑顔で見送る。
 そしてそんな俺の様子を、隣でじーっと見つめている者がいる。ええ、もちろん円さんですよ。
「へぇ~、“こんな程度”なんだぁ」
 わぁ、黒いよママン。こんな程度を毎回割り勘しているからって、そんな下から覗き込むようにしなくていいじゃない。
 ちょっとだけ目以外のものが覗いているからなお困る。具体的にはオパーイが。オパーイの谷間が!
「お好きな商品をお頼みください……」
 ブラックママンの視線とオパーイに負けて、目を逸らしながらメニューを渡す。目だけならともかくオパーイは卑怯だよと、俺は何度オパーイを連呼すれば気が済むのだろう。
 円はそれで満足したように頷き、俺の隣から対面の席へと座り直した。
「冗談だよ。でもごちそうしてくれるって行ってくれたのは嬉しいな! あ、すみませんアイスコーヒーくださーい」
 気持ちだけで十分という円の無欲な笑み。それが即座に財布の中身計算していた俺にはとても眩しかった。俺の周りってフラッシュたいてる女の子多過ぎだよな。
 それにしても誰ですか、この良い子に俺の世話なんぞをさせている奴は。俺だけど。
 きっと円は俺という人間に対して最大の被害者となるべく産まれてきたんだと、勝手に思ったのでしたとさ。

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