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緋色の平穏 Ep8『道歩む者、術(すべ)操る者5』

 藤堂との接触から二日後。俺は美女で微妙な上司様に、頼みたい仕事があると呼び出されて、ただいま輪廻ハウスの前にいる。
 仕事と銘打たれて良い予感などしないが、行かないとその後のお咎めで、何をされるか分かったものじゃない。
 そんなネガティブ精神を、トランクに大量の荷物詰め込むくらい力尽くで押し込み、輪廻さんの根城へと参上した次第だ。
 俺この仕事を終えたら、帰りにフェイトを誘って翠屋でコーヒー飲んで心を癒すんだ。微妙な条件だけど、これも死亡フラグになるのだろうか?
『お呼び出しの部下が参りましたよー』
 勝って知ったるボスの家てなわけで、合鍵を使用して侵入。靴を脱ぎながら念話にて輪廻さんの所在を探る。
 行動が手馴れて自動化しているなぁと自笑しながら、輪廻さんの返事を待った。
『やぁ来てくれたかい。すぐに向かうから、居間でくつろいでいてくれたまえ』
 輪廻さんの返事は数秒で返ってきた。本人が現れないってことは、すぐと言っても別の用事をしているのだろう。そう呼び出しパターン用に最適化されている思考は、アンサーを弾き出す。
『わかりました。てきとーに冷蔵庫の中漁りますよ』
『かまわんよ、好きにすると良い』
 許可も下りたのでテーブルのすぐ近くに備え付けられた冷蔵庫を開けて、無造作に物色を開始。相変わらず卵とケチャップの比率が高い保存庫だ。
 そこで飲み物棚に置かれたコーヒー牛乳のビンを発見する。家庭の冷蔵庫ではあまり見かけない物体のためか、妙に心惹かれたので迷わず取り出した。
「できれば風呂上りに飲みたいな」
 そんな呟きをしながらも即飲む気満々だ。懐かしさをを覚えつつも、飲み口を包むビニールを剥がしてキャップを取ると、丁度家主が登場した。
「ほほぅ。私のためにそいつを出してくれるとは、気が効くじゃないか。ありがたいよ」
 あんたのじゃないですよ、と言いたくて声の主に振り向いたら、やたら輪廻さんの肌色が占める面積が多い。
 胸部と局部が黒い他、残りは人肌の色そのものだ。ごまかすの辞めると輪廻さんは下着姿で家をうろついている。俺が来る前に、他の客とか来たらどうするつもりだったのだろうか、この人。
「あ、どうぞ」
「ありがとう」
 左手にタオルを持って髪を拭きながら、さぁ渡したまえと言わんばかりに右手を突き出していたので、思わずツッコミさえ入れずにコーヒー牛乳を手渡してしまった。
 受け取った輪廻さんはタオルを肩に、腰に手を当てて一気飲み。格好も相まって何この男らしさ! 何とは言わないないが、ナニが上半身を反らしてちょっと揺れたし。
 自分で美上司と言うだけはあって、輪廻さんはプロポーションにも隙がない。
 かのおっぱい魔神シグナムとも張り合えるだろうサイズのバスト。ボディラインも時折運動不足だよと愚痴るのが嘘みたいに整っている。女性の理想体系を現実化させると、まさしく輪廻さんそのものになるのではないだろうか?
 その肉体を黒と真紅の薄い布地で飾り付ける御姿は、いつぞやの騎士達ともまた違うアダルティな雰囲気を醸し出しており、十七歳の少年には青い春的に毒でしかない。
「やはり風呂上りはこれだと思わないかい?」
「別段飲みの物の趣味を否定する気はありませんが、服装にはなはだ疑問を感じます。と言うか服を着ろ」
「熱ければ薄着なるのは、人として当然だと思うのだがね?」
「年頃の多感な少年がいるのに、下着姿でうろつかないでください」
 輪廻さんは口をへの字に曲げるが、それだけだ。飲み終えたビンをテーブルに置くとその場で髪を拭く作業に戻る。
「また小言かね。薄着なると君はいつもそうだな。もっと素直に喜びたまえよ。滅多に見られるものじゃないぞ?」
「夏場と冬場の遭遇率はそうでもないよ! そもそも自分を安売りなんて、輪廻さんらしくないです」
「安価なつもりはないよ、君達には命がけの任務をしょっちゅう与えているからね。釣り合い的には丁度良かろう」
「命の代償なのか!? むしろ超高い!」
 俺の働きで剥がせるものは服だけなのか。むしろ君の労働価値はこんなものでしかないのだよ。と言われている気分だ。
「残念ながら、これ以上の露出は君の命では贖えないな」
「俺の命は輪廻さんの裸より安いんだ! でも、昔は艦内で平然と全裸だったような」
「空調が壊れた時だね、また懐かしい記憶を掘り出したものだ。すっかり忘れていたよ」
「手前勝手なストリップを、懐かしいだけで済ませたよ!」
 あの頃まだ十歳くらいだったから、記憶としても古いことは古い。だけど記憶の補完位置はかなり重要な層にあるようで、輪廻さんが脱ぐ度に忌まわしい該当記憶は浮上してくる。
 悲しいかな、俺が初めて輪廻さんにした頼み事は「お願いしますから服を着てください」だった。
「いいじゃないか、減るものでもなし」
「そいつは女性の台詞じゃない! だいたい増減は何基準だ!」
「私の美しさに決まっているだろう。君の記憶にある私の美は、現実においても損なわれていないのさ」
「己の露出プレイを自慢の種にするとは……。流石に子供過ぎて、自分を拾った人間がとんでもない露出狂でビビっただけの記憶ですから、照合はできません」
 いくら忘れられない記憶でも、そんなディティールまでは刻み込まれていない。かつてはそこまで人生をエロスに捧げる少年ではなかったし。
「なんだと? 私のだらしがない肉体など、容易く忘れる水準でしかないと言うのかね? 宜しい。ならば二度と忘れたなどほざけないよう、私の完全美をその思春期真っ只中の脳髄に刻み込んであげよう!」
 タオルを投げすてた輪廻さんは、腕を後ろに回しブラのホックへと手をかける。
 DVD! DVD! なんて近似の場面を思い出したが、エロより焦燥が湧き上がった。
「あんた本当にただ人前で脱ぎたいだけだろ!」
「ここに至っては、重要なのは羞恥などより女としてのプライドなのだよ」
「バカにしか見えないけど台詞はちょっと格好良い!」
「ふふん、いつの時代も新時代を開拓するのはそういうバカであるべきなのさ」
「格好良いけど、話題ズレてきた!」
 そして止めるどころか、くだらない話で丸め込まれている! エロ談義で俺が負けたと言うのか!?
「さぁ見るが良い、黄泉塚輪廻という次元最高峰の芸術品を。まずはその上半身からだ!」
 露出狂の上司様は、本当にたった一つしかない上半身の装備を脱ぎ去ってしまった。
 俺はとっさに回れ右して、直視を拒否する。暁拓馬という一人の人間として、目の前の露出狂を受け入れてはいけないと、身体が反応したのだ。
 だけどどうしたものか、ここから前門の変態をスルーして逃避行するのも容易では……え、何この布切れ?
「うおわああ!」
 脱出計画を練る俺の頭上へ黒い布が降ってきた。人肌くらいの温もりをもったそれは、カップ状の底部が鼻先に触れて女性の香りがががががが!?
 パニックになりつつも、ブラジャーを剥がす。これもう、羞恥プレイを味わっているのは輪廻さんではなく俺だよ!
 純情な少年には変態の行動は読めないね! とりあえずブラを投げ捨てようと手に意識を回した時だった。
 輪廻さんの手を両肩に置かれ、ぐるんと半回転。自慢げにシニカルな笑みを浮かべる輪廻さんと、輪廻さんのスイカオパーイが視覚を占拠した。
 あれからどのくらい時間が経過しただろう? 十分くらいか、もしかすれば一時間以上かもしれない。
 時間の感覚が消えうせるくらいに俺は茫然自失。椅子の上で体育座りしながら、言語になっていない何かを呪詛として吐き出し続けていた。
「すまないすまない。どうにも拓馬君の反応が初々しかったものだから、つい悪戯心が芽生えてしまってね」
「……悪戯ですみません」
「君の女性に対する苦手感を少しでも減らすために、文字通り一肌脱いだという目的もあったのだよ。後付だが」
「苦手意識増し増しだよ! そして堂々後付けと宣言するなよ、全然フォローする気ないだろう!」
 また俺の女性に対する不信感というか、トラウマが一つ増えたよ。
 俺が基本的に女の人苦手なのは、人生の半分近くを使用して潜在的な恐怖心を輪廻さんに植え付けられたからだ!
 それにしても輪廻さんといい叶といい、何故人前で脱ぎたがるのだろうか? 円まで張り合おうとしていたし。
 絶望した! 痴女だらけの人間関係に絶望した!
「脱ぎがいのないの部下を持つと、上司は苦労するよ」
「脱ぎがいのある部下ってどんなだ。で、いい加減本題に入りましょうよ。どうして俺を呼んだのですか?」
 許す気は無いが、一応尊敬する上司が虐めのためとはいえ自分にオパーイ晒したなんて記憶は、早いとこ穴掘ってきのこと一緒に埋めてしまいたい。
 だから組んでいた足を戻して、テーブルに頬杖を突きながら輪廻さんに向き合う。相変わらずの下着姿だが、最低限上半身にも黒いものが巻かれている。
「はて、何の話だったかな。そう言えば、どのような理由で拓馬君が家に?」
「本気で忘れている!?」
「いや失敬。君を弄るのが楽しくて、失念していたよ」
「理由が嫌過ぎですよ!」
「部下とのスキンシップも、私にとっては大事な仕事なのだよ拓馬君」
 パワーハラスメントが上司の業務なんて初耳だけどな。とんだブラック企業あったもんだよ。
「セクハラ上司として出るとこ出ますよ」
「もう出したじゃないか。やっぱり下も見たいのかね?」
「出すべきは部位じゃない!」
「私もまさか、部下におっぱい見せるのが仕事になるなんて思わなかったよ。世の中とは不条理なものだ」
「ホントに不条理だよ!」
 輪廻さんの話だけ切り取ると、痴女上司が部下にエロい誘惑してるように聞こえるから性質が悪いよな。
 実際は嫌がる部下に現在進行形で逆セクハラをしかけている。さり気なく胸の下に腕置いて、扇情的なポーズをとるな!
「ふぅ、上司の仕事も楽じゃないね。部下のために身を粉にする、なんて偉大な上司なんだ。略して大上司」
「大変に変態な上司を持つと部下が苦労します。略して大上司」
「それは少し苦しいな」
「そこだけ冷静な駄目出しをされた!」
「なればこれはどうだろう。これからの会話で上手いこと言った方が一枚ずつ脱いでいくと」
「誰得だよそれ!?」
 おかしい、おかしいぞ! 何故また話が脱ぐ方向に進んでいる。
 エロネタはもういいよ。このままグダグダやっていると、出かけているらしい美羽が帰ってくるまで続きそうだし。
「自分の仕事だけじゃなくて、次は俺の仕事をどうにかしてください」
 もうここから逃げられるのなら、いっそ労働も悪くないと思えてきた。真面目に飛んだり跳ねたりしてれば、こんなエロ話やちょっと悶々とした気分なんてすぐに忘れるはずだ。
 ひょっとして、仕事に打ち込ませるための、遠まわしな洗脳なのだろうかこれ?
「ちょっとそこら辺で使い捨てライター買ってきてくれないかい? 美羽が花火をやりたいと言い出してね、さっき買ってきたのだが、うっかり火を点けるものを忘れてしまったのだよ」
「仕事軽っ!」
 仕事と言うよりもパシリだった。
 俺はそんな雑務やらされるために呼ばれて、ここまで残酷な仕打ちていたのか!
「それくらいわざわざ呼ばなくても、自分で行けばいいでしょうが」
「それではせっかくシャワーを浴びて汗を流したのに、また汗をかいてしまうじゃないか。美羽も花火に友達を誘うついでに遊びに行ってしまったしね。
 ああそうだ、幾らなんでも拓馬君に悪いと思って、せめてもと下着姿を披露してあげたのだったよ。コーヒー牛乳に目が行ったあたりから、元の理由が飛んでしまっていたようだ」
「余計な発想だ! それに脱衣は命の代償じゃなかったんですか?」
「あんなものはその場のノリだよ」
 うおおい、とても嫌な感じに話が繋がっちゃったぞぅ!
 わかったから、もういいから。ライターでもいいから、お外へ行きたい。そもそもライターのせいで羞恥プレイさせられたのだけども。
「さっさと行ってきますけど、それって美羽に帰り道で買ってきてもらうように、メールしておけば良かったんじゃないですか?」
「…………。それは拓馬君に下着を見せれると思ったら、もういてもたってもいられなくなってだね」
「オチまで露出を持ってくるのかよ!」
 素直に思いつかなかったと言うくらいならば、痴女を選んでしまうのか、この人は。どう考えても脱ぐ方が恥ずかしいと思うのだけど。
「ふふ、何を言いたいかはわかっているよ。自分自身が恥ずかしい理由を選んでしまう私は、案外ドMなのかもしれないね」
「自分が恥ずかしいはずのネタでも、相手を辱めまくる輪廻さんは生粋のドSです」
 そして虐められてもネタに付き合ってしまう俺こそ、真のドMなのかもしれないなぁ。

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