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緋色の平穏 Ep9『偶像崇拝シンメトリー25』

 しかし耶徒音は私の飛行するスピードに付いてこれない。そのため先回るように花びらを広げ包み込もうとする。
「それじゃ、私は止められない!」
 もうさっきまでの私とは違うんだよ。スピードは落とさないで、このまま突き進む!
「ファイア!」
 プラズマランサーを集中放火し、花びらの包囲網に穴を開ける。広いってことは、薄いってことだから!
 私一人がギリギリで通れる隙間を、それが塞がれてしまうより速く、私はさらなる加速を入れて突破した。
 破られた包囲に残るのは、私が駆けた魔力光の残滓だけ。私はもっとその先へ。ここまま結界の端から端までを翔破してしまえ。
 そして、
「もっとだ」
 もっと速く。
 決して、耶徒音の追い付けない速度で。
 まだまだ叩きつけられたダメージは残っているけど、私は決して留まらず、スピードを落とさない。
 耶徒音が攻め寄っても戦術は高速戦を貫いた。
 来るなら来ればいい。私は怯まずに、花びらを駆逐していく。
 時に応射し、それだけで足りないなら、ハーケンフォームで一気に薙ぎ払う。
 その度に私は、現状速度を維持して迎撃して花びらを黒く大気に還し、切り抜ける。
 次を。次。次。次。次。
「はわわわわ、フェイトちゃんが速すぎて、全然見えないよ!?」
 そうだよ、それが狙いなんだから。
 早く動いて、鋭く撃墜させる。それがリニスから教わって、なのはやシグナムとの実戦で伸ばしてきた、私の戦術だ。ずっと一方的に相手を襲うだけだった、耶徒音には届かせないし、触れさせない。
 今出せる全力全開の速度を維持し続けて、私は囲われた空間を駆け抜ける。これこそ、たっ君が耶徒音を任せてくれた戦いだと、胸を張れる私であるんだ。
 そのために私は飛ぶ。逃げるためでなく、勝つために。決着を付けるための戦いは、ここからだ。
 この状態で不利なのは、私でなく耶徒音。そして私のスピードを打開するために、耶徒音は次の策を練ってくるだろう。
 そう予測したところで、耶徒音の分身達が自分を構成する半分以上を伴って、私より上へ昇った。
 花びらが影となって、届くはずの日光を遮り、薄い闇を作り出す。
 私は戦い方を変更せずに、ひたすらに全速で飛行を続行して、残った花びらをいなす。追いつけずに少しずつ削られていく花びらは、だけど何処か私を誘うようだった。
 けれども私は戦術を変えず、速度をキープし続ける。あくまでこの速さを手放さい。
 意固地になっているという自覚はある。けど、これ以上の回答を私は持っていないから。
 そして、空から影が落ちてきた。
 速度を最優先にした私は、だけど、それ故に読まれていた。私が飛翔するスピードに合わせた天上達が、波のように降り注ぐ。
 そう、私はこれを待ってたんだ!
 天井が動き出すと同時に、私は自分に急停止をかけた。
「くうっ!」
 超高速のトップスピードから、今度は総力でのブレーキ。疲労とダメージが積み重ねられた身体に、さらなる負荷がかかり、身体が軋む。
 でも、これでいい。私の作戦は上手くいったんだから。
 天井は目標を押し潰すことなく、私のすぐ前を通り過ぎていった。
 これが君の弱点だよ、耶徒音。
 強すぎる力と能力を振るうあまり、戦い方が単発になって、外した時が隙だらけなんだ。
 陽動に使った花びらを一部こっちに回しておけば、こんな失敗もなかったけど、もう遅いよ。
「プラズマスマッシャー」
 プラズマスマッシャーはこれまでとは違う、出の早く攻撃範囲の広い射撃魔法だ。
 再びバラバラになる前の塊を直接叩く。
 これまでみたいに数枚じゃない、表面の花びらが黒く塗り潰されて剥がれ落ちた。それでもダメージは表面だけで、中まで魔力は通ってないのか。
黒い花びらを散らし、仲から鮮やかな赤が顔を出す姿は、まるでサナギが羽化するようだ。
「耶徒音ちゃん!」
 詩都音の妹を呼ぶ声が、歓喜から悲嘆のそれに変わっていく。
 ここに来て、耶徒音に対する詩都音の信頼が揺らぎ始めているんだろう。詩都音の心に渦巻く怖さも、私の心と同じで限界があるんだと、きっとまだ手は届くはずだ。
 耶徒音を退けることが、詩都音をこの事件から開放することにも繋がる。
 待っていてとは言わない。恨んでくれてもいいよ。それでも私は詩都音を勝手に助けるから。
「まだ……来る!」
 これまで以上の魔力を受けたとはいえ、未だ大量に残る塊が蠢いた。耶徒音が再び人型へと戻ろうとしている。
 停止の後遺症はまだ強く残っているから、ここで引いても周りの花びらにつかまってしまう。それに、次またこれだけの花びらを奪えるかはわからない。
「けれど、もう少し、後一押のはずだ」
 頑張ろう。そして、ここは逃げずに迎え撃つ。
「バルディッシュ」
≪Haken Form≫
 空に浮くように耶徒音の上半身のみが形成されたけど、その中で右手だけは花びらがドリルみたいに渦を巻いている。私が動けないと悟って、一番魔力に耐え易いよう固まり、かつ広い範囲でピンポイントを打つつもりか。
 カートリッジを消費して、サイズは同じで通常より密度の高いハーケンを精製する。
 右腕の花弁が高速で舞い降り、耶徒音が私へ突撃を仕掛ける。
 対して私は縦にスピンするハーケンを射出し、耶徒音の腕へぶつけた。
 ハーケンは耶徒音のドリルを巻き込み、黒色の塵に還していく。
「いけぇ!」
 踊る花びらを残らず消し去ったハーケンは、勢いをそのままに、やとねの右腕をも食い込んで蹴散らした。やっぱり……。
 耶徒音に対して有効な魔法は、数でも範囲でもなく、密度だ。花びらで吸収仕切れない魔力を、奥まで届かせればいい。
 右腕までほとんどを裂かれ消失したやとねは、動きを止めた。
 最も花びらを集めた身体を一気に破壊されて、危機感を抱いたかはずだよね。このままぶつかると、残りまで破壊されるかもしれないと。
「や、ややや耶徒音ちゃん!?」
 自負の特性が不利に働きだしたやとねは、私から逃走を選択した。私はそれを追いかけるため、痛みに苛まれる身体に新しい負荷を加えて、耶徒音を追走する。
 耶徒音が退いたのなら、私は進もう。最初とはお互いの立場が逆転している。それだけ戦況は、私に傾いているんだから。
 それに、耶徒音の殴打や急激なブレーキの行使で、負荷を背負いこんでいる私の限界だってすぐそこだ。次で耶徒音との決着を付けないと、倒されるのは私の方かもしれない。
 耶徒音が全ての分身を集結させて、詩都音の妹である完全な美濃耶徒音としての姿を復元させる。しかし、そこにあるのはもう元の耶徒音ではなかった。
 ゴシックロリータの衣装は多くのパーツが欠けており、右の腕も肘から消失したまま。何より衝撃的なのは、右の目を欠如し大きく空洞になっている。花びらを欠乏し過ぎたがために、もはや自分をの形を保ってられないんだ。
「や……耶徒音ちゃ……」
 その五体不満足の姿を見た詩都音の顔は、今にも泣きだしてしまいそうなほど、くしゃくしゃに歪んでいる。
 ここまで身体を欠損してもまだ人型を選ぶのは、耶徒音は飛んでいるより走った方がずっと速いからだ。足を保持するパーツが欠けていないのは、そのためだろう。
「耶徒音に詩都音。次で、完全決着だ」
 わざと耶徒音と少し位置を離しながら、私も着地する。
 追加のカートリッジから新たな魔力をバルディッシュに送り、魔力を圧縮し研ぎ澄ます。そうして完成するのは巨大な魔力の剣。私最後の切り札、バルディッシュアサルト・ザンパーフォームだ。
 私は耶徒音を見据える。
 耶徒音は私を瞳に映す。
「耶徒音ちゃん、負けないで!」
 その一言が引き金だった。
 耶徒音が跳ぶ。速度はこれまででも最速だ。身体の構成物を損なった分だけ、軽量化されている。
 打。
 打。
 打。
 打。
 打。
 欠乏した身体であっても、何の躊躇いもない打撃の応酬だ。
 人間味のない人形、人形のような人形。
 感情のない決死だった。
 でもね耶徒音。私だって、この戦いは負けられないんだ。
 だから、避けるし、行くよ。
 耶徒音より尽力を尽くして、より速く。
「疾風迅雷!」
 半分なくした腕まで使い、横振りで叩きつけようとした耶徒音の背後に回る。
「これで、決着だ!」
 ザンパーを縦にして、斬るのではなく、耶徒音へ高密度の魔力剣を打ち当てた。
 抵抗する間もなく宙を身を躍らせて、煤色を撒き散らしながら耶徒音は崩れていく。
 舞うように。
 散り散りに。
 地に落ちた耶徒音は、耶徒音という記号を維持するだけで精一杯だった。
 足もなく、腕も一本だけ。
 顔さえ過半数の花びらが消え去っていた。
 ここまで変わり果てた姿だと、耶徒音を直視するのも辛くなってしまう、それだけ無惨な姿に変わり果ててしまっている。
 ごめんね。口にすることは許されるはずもないけど、心の中でだけでも、そう呟かずいにはいられなかった。
 なのに――
「嘘でしょ……耶徒音ちゃん!」
「耶徒音……!」
 そんな状態になってさえ、耶徒音は動いた。
 ずるずると、蠢き這って、何かを手中に収めたいがように腕を伸ばす。
「残り全ての花びらを足に集中しても満足に走れないし、分解しても私を追詰めることはできない。もう勝負はついたんだよ耶徒音」 私も限度いっぱいだとは口にしないで、だけど耶徒音の力が底をついてるのも決して嘘ではない。
「耶徒音ちゃん! もういい! もういいよ!」
 駆け寄った詩都音が、請うように耶徒音を抱きしめた。
「耶徒音ちゃんは精一杯やったから、十分だから、これ以上戦わないで! 耶徒音ちゃんが死んじゃったら、私はどうしていいかわからないよ!」
 どれだけ身体が崩れても、詩都音が望む限り、耶徒音は詩都音であり続けるのだろう。
 そうして詩都音は耶徒音の模造品を作り出し、本物の耶徒音として縋りつき、自分を保つ。
 たっ君は詩都音を、操る人の心が創造した願望の力だと語っていた。
 なら詩都音は、心の鏡に自分と同じ姿の少女を求めて、虚像を産みだしたと言えるんじゃないのかな。
 シンメトリーの偶像崇拝だ。
「大丈夫だよ。詩都音が望まないなら、戦いはそこで終わりだから」
「え? それって、どういう意味?」
 耶徒音が詩都音のために在るのなら、詩都音は制御が可能なはず。そしてその詩都音が戦意を失ったのなら、耶徒音は止められる。きちんと話をするなら、今こそがチャンスだ。
「話をしよう。とても大事な話なんだ」
 誰も傷つかないように。海鳴を哀しませる負の連鎖を、断ち切ろう。詩都音を解き放ってあげるんだ。
「ああそうだ、終わったよ。一人でよく頑張ってくれたね、フェイト」
 そして私が詩都音の心へ手を伸ばすため、歩み寄ろうとしたのと同時に、彼は屋上へと帰ってきた。それも一人でなく、アルフとシャマルに支えられて。他の人達も一緒で、皆が屋上へと集う。
 口先だけじゃない、終わりが迫っていることを感じさせた。

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