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緋色の平穏 Ep9『偶像崇拝シンメトリー5』

「まぁいいさ。俺も別に前回のごたごたを根に持っているわけじゃないし、あんたと正義談義をしたいわけでもない」
「そうだったな。私のセイオーカーの乗り心地はどうかな?」
「聖王ってことは、やっぱりこれは雄介さんのレアスキルなんですか」
「その通りさ」
 モニターにジョンさんが出た時点でなんとなく予想はしてたけど、ジョンさんの能力はダイセイオーだけではなかったんだ。
「このマシンの名はセイオウカー。敵の尾行からダイセイオーの支援まで可能なスーパーマシンだ!」
「要するに、チートロボのおまけとして付いてるチートマシンだよ」
 たっ君の説明は身も蓋もないなぁ。それでも、とにかくこの車はとても高性能らしいというのは理解できる。
「何やらまた引っかかる物言いだが、まぁいい。今のセイオウカーは隠蔽機能としてどこにでも有りそうな外見となっているが、本来の姿はもっと未来的なデザインで、カラーリングもダイセイオーに合わせてある。幾つか武器も装備されているし、さらには自動操縦機能も付いていて、いざとなれば私が遠隔操作して君達を移動させられるんだ。どうだい、素晴らしだろう!」
「は、はい……」
 セイオウカーの説明をするジョンさんは、とても生き生きとしていて楽しそう。本当にこういうロボットものが好きなんだ。ただちょっと勢いが強過ぎて、相槌に困るけど。
「さらに! 幻影魔法の目眩まし効果で、外からは君達の姿が見えない!」
「え?」
 これにはとてもビックリした。だとすると何も知らない人からすれば、無人の車が駐車してあるようにしか見えなくなってるということ。まさに張り込みに必要な隠蔽能力だ。
「探偵なら、車にスモークやカーテンはったりして隠れるのは常套手段さ。これで納得してもらえたかなフェイフェイ」
「うん、だけどもっと早く説明して欲しかったかな」
 これならここに立て篭もってる間はまず、警察の人達に見つかる心配はなくなる。もしバレたとしても、たっ君はジョンさんに運転してもらうつもりだったんだ。それなら免許が無くても問題ないから。
 だとしても、何も知らないまま私が車から出てしまっては、その隠蔽さが逆に不自然さに変わってしまう。これはこれで一大事なんだけど。
「それはふぇいふぇいの驚く顔が見たかったから!」
「意地悪さんだ」
 どうしてこんな一言を、ここまで力強く言えるのだろう?
「まぁ立ったままじゃ目立し、何よりクソ熱い炎天下で汗ダラダラ流しながら見張るなんて、俺は御免被る」
「お前にとってセイオウカーはクーラー代わりなのだな」
「それ以外に何があるよ? 状況的にカーチェイスイベントなんぞまず起きないぞ」
 正義の役に立とうとしていたのに、自分の車の主な役割が避暑目的だと知ったジョンさんは大きく肩を落としてしまった。でも夏の日差しをしのげるのも、それはそれで大事な役割なんだけど。
「犯人が動き出す前に私達が暑さでバテちゃったら困るのは本当だから、しばらく貸してもらえますか」
「ああ遠慮なく使ってもらってかまわないよフェイト君。というか、わざわざフォローしてくれてありがとう。同じ意味なのに、この棘の差はなんなのだろう……」
 たっ君て人によっては対応が冷たい気がするんだけど、気のせいかな。やっぱり、ジョンさんに襲われたのが無意識で尾を引いているのかも。
「それじゃ、用はもう済んだから切るぞ」
「了解した。また何かあったら呼んでくれ」
「はい、その時はよろしくお願いします」
「任務成功を祈っているよ」
 こうしてジョンさんとのお話を終えて、私とたっ君は張り込みに集中した。それからお昼なるまでずっと、犯人が潜伏しているかもしれないマンションを自動車のウィンドウから眺めるけど変化は無い。家の人が出てくることもなかった。
「何もしないのは好きだけどさ、何もさせてもらえないのは苦痛だよねー」
「何もしてないんじゃなくて、監視してるんだよ」
 いつの間にかたっ君から目的が消失してる。真面目に張り込みしてると思ってたのに、行動そのものが嘘かもしれなかった。
 ずっと見ていて集中力が切れてきたようで、あくび交じりにたっ君は言葉を紡ぐ。手持ち無沙汰に握っていたハンドルの手もゆるくなってきてるみたいだ。
「犯人め。ずっと家でごろごろしてるなんて、お兄さんは感心しないね」
「たっ君が言っちゃ駄目だと思うよ……」
 たっ君の家に行くと、起きたばかりか無気力そうに過ごしている。もしくは円さんに怒られてる。
「俺はほら、高校生だから」
「全然理由になってないよ。私は勉強見てもらえるから助かってるけど」
 たっ君がたっ君の家で活動的に動いてるところは、これまで一度も見ていない。大抵円さんが身の回りのお世話をしていて、やっぱりただの友達同士には思えないんだけどな。そこは何度聞いても、絶対に誤魔化されちゃうのでもう追求するのは諦めた。
「ほら、俺って人のために力を使うタイプだから、普段は余計なエネルギー消費を抑えてるんだよ」
「回りまわって円さんの消費が増えてるよ」
「その分、フェイトの勉強に回しております」
 どうしてだろう、感謝しないといけないはずなのに、なんだか都合の良い言い訳にされている気がするよ?
「それじゃあ、私が勉強見てもらう日以外は何してるの?」
「食う寝る遊ぶのローテーション」
「人助けを挟む余地がないよ! そもそも一人暮らしなのに家事も入ってないのはおかしくないかな」
「そこはほら、俺は円無しじゃ生きていけないから」
 開き直った。それもストレートに分り易く開き直ちゃった! どうしてたっ君の生き方はこう緩急が激しいんだろう……。真面目な時のたっ君なら、誰の手も必要としないで何でもこなせてしまいそうに見えるのに、普段はその頑張りが感じられない。
「たっ君は円さんに甘え過ぎじゃないかな」
「俺は苦痛に強いけど悦楽には滅茶苦茶弱いんだ。見事にウィークポイントを突いてくれるよあの娘」
「弱いなら鍛えようよ。自分でできるたっ君を見れば、きっと円さんだって喜ぶと思うけど」
「それは違うな。俺が円に甘えてるんじゃない。円が俺を甘やかすんだ」
 卵と鶏どちらが先みたいな話になりつつあるなぁ。つまりたっ君は円さんが過保護なのをいい事に、円さんに依存しているんだ。ならたっ君を更生するには、たっ君を円さんから切り離さいないといけないと思う。
「それなら、しばらく輪廻さんの家で暮らせば、きっと生活リズムを直せるんじゃないかな」
「あそこには美羽という、もう一人の主婦がいるのさ!」
「もう、誰かに頼るのは禁止です」
「ふぇいふぇい……。人は独りでは生きられないんだよ」
「格好良い台詞なのに、中身は格好悪いよ!」
 駄目だった。たっ君は甘えられる人がいる限り甘え尽くすつもりだ。どうしてこうなってしまうのかな?
「一人でどうにかしないといけない時だってあるよ」
「その時は俺ごと人類は滅んでしまえばいい」
「発想が飛躍し過ぎ!」
 他人の迷惑を顧みずどころか、全世界の人を巻き込んで迷惑な発想だよ。
 駄目な時のたっ君でも、会話のペースは持っていかれてしまう。私があのたっ君を、会話だけでどうこうしようと思うのは甘かった。このお話については一旦諦めて、別の話題にしよう。
「もうこのお話は置いといて」
「ならば再び持って」
「くるのは許可しません」
「むうぅ、手厳しい」
 この人は、置いた会話をまた持ってくるという感性が何処から生まれるの? この柔軟性を活かせばもっと上手く生活できそうなのに。
「だけどたっ君の言う通り、ここの家の人達はもっと外出してもいいと思うんだけど。お仕事とかどうしてるんだろう?」
「子供はともかく、あの年齢なら老夫婦は溜め込んできた貯金とか年金生活でまかなえたりもするだろう。少女の両親がすでに死んでいるのなら、場合によってはそれなりの手当やら遺産があるのかもしれない。ならば無理して働く必要性はない」
「じゃあ、家に居たっていう女の子は? 夏休みなんだし、誰かと遊んだりしても不思議じゃないよね」
「偶然今日は家にいるだけの可能性だってある。他にインドア派な子だって可能性もあるだろうしな」
 私もどちらかというと、なのは達とはスポーツするよりも誰かの家でゲームしたりお茶したりの方が多い。家にいる子の趣味が読者だったりすれば、買っていた本を読むだけで気が付けば夜なんてこともあるかもしれない。
「それに……」
「犯人を匿っているなら、必要以上の外出は避ける?」
「断定するにはまだまだ早いが、その可能性もある」
 それを確かめるためにも、私達はここにいるんだ。まだ張り込みを始めて数時間じゃ、何も結論は出せない。
 ずっとここに座っていると、必要以上に色んな想像をしてしまうみたいだ。あの家の中が今どうなっているのか、犯人はどういう人なのか。どうして人を殺し続けているのか――なんて、捕まえないとわかりようもないのに。
 きっと私は焦っている。ずっと探してきた犯人が、目に見えているドアの向こう側にいる。それはわかっているのに捕まえられない。すぐにでも乗り込みたいという気持ちはある。でも乗り込んでもここで捕まえられなければ、きっとまた犯人は逃げ出してしまう。そうなってしまうと、また何の関係も無い人が次々と犠牲になっていくんだ。
 じゃあここで結果がでるかどうかもわからない張り込みを続けるのが、正解なのかな? これまで姿さえ見られないまま追いかけてきた犯人は、もしかしたら私達の目の届かないように家を抜け出して、新たに人を殺しに出かけるかも。それなら、やっぱりここで待っているより一か八かでも犯人を捕まえるべきじゃあ……。
 捕まえる? 捕まえられる? どっちが正解?
『……ちゃん。 もしもーし、フェイトちゃーん』
 気が付けばずっとループしてしまいそうな、暗い思考の海に浸かっていたみたいだ。そんな弱い私を、頭に直接響いた声が引き上げてくれた。声の主は、私の大切な友達。
『どうしたの、なのは?』
『フェイトちゃん朝からずっと張り込みしてるし、様子はどうかなって』
 なのはは少し遠慮がちに、そう質問する。私の友達は、私の知らない場所でずっと心配してくれてたんだ。そう思うだけで、心の中があったかくなるような気がして、ずっと沈んでいた気持ちは自然に溶けていった。
『私は大丈夫だよ。心配してくれてありがとう、なのは』

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