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緋色の平穏 Ep9『偶像崇拝シンメトリー6』

 だからもう大丈夫。なのはの声だけで、私はいくらでも勇気が湧いてくるから。
『ならいいんだけど。もし疲れてたら交代しようかなって』
『ううん。これは私のお仕事だし、執務官になったらこういう仕事も増えると思うから、貴重な経験にもなると思うんだ。だから私にはその気持だけで十分だよ』
『そっか。うん、わかったよ』
 ほんの少し残念そうなトーンだけど、なのはは了承してくれた。優しい私の友達は少しでも私の負担を軽減してくれようとしたけど、私はまだ頑張れる。友達に頼るのと甘えるのは違うから。
 それに普通の車より安全とはいえ、あまり頻繁に出入はしない方が良いと思うし。
「誰かから念話かい?」
「うん。今終わったけど、どうしてわかったの?」
「そりゃ、硬くなってた表情が急に柔らかくなったからね」
 無意識のうちに、私は自分が思うより沈み込んでいたらしい。こんなんじゃ駄目だな、だからなのはにも心配をかけちゃうんだ。もっとしっかりしないと。
「たっ君にも、心配かけちゃってたかな」
「うんにゃ。気持ちはわかるし、そこまで心配はしてないよ。フェイトはさ、人と話している間は心配かけないように振舞うのが上手いけど、一人で黙考したりすると感情が表に出やすいね」
「そうなの?」
 たっ君には行動を読むのだけじゃなくて、隠し事するのも難しいな。今のは隠してたわけじゃないけど、それでも特に意識したりはしてなかった。
「どうしても犯人のこと、考えちゃうんだ。ここでこうしてるより、直接犯人を捕まえに行った方が良いんじゃないかとか。他にも、もしここで犯人を見つけられないまま、次の犯行が起きちゃったらどうしようって」
「犯人を捕まえようとしてるんだから、それが普通だよ。特に今回の張り込みは割と苦肉の策だからね」
 もしかしたら、たっ君も同じように考えてたのかな。たっ君が迷うというのは想像しにくいけど、今の行動が絶対に正しいと言えるのかくらいは、考えていたのかも。
「ちょうど俺にも念話が着ていてね。もうお昼時だし、ちょっとお散歩してきます」
「え?」
 たっ君はさっきまで無駄な出入りはしちゃダメだと考えていた私の思惑を、あっさりひっくり返した。ここは大事なところだと思うんだけど。
 それにお昼って、食べ物はたっ君が早番だと嘘を聞いた円さんが、お弁当を用意してくれている。だから別に車から出る必要はないはず。
「ずっと車の中じゃいまいちお腹の減りが遅い気がするんだよねぇ」
 それ普段家からでない人の言葉じゃないよ!
 どこまで自由に生きる気なんだろう、この人……。前言撤回。たっ君は現状にまるで動じてなんかないし何時も通りで、犯人が目前でも、まるでマイペースを崩さない。
「あまり車から出入りすると、誰かに見られるかもしれないよ」
「それくらい気を付けるって。俺にはそれよりも大事な事情もあるのさ」
「もしかして、お弁当を美味しく食べること?」
 その優先順位は円さんには優しいのかもしれない。その思いやりは、此処じゃなくて家で発揮するべきだと思う。きっと円さんも喜ぶのに。
「まぁね」
 最後に軽薄そうな笑いを浮かべながら、たっ君は本当に車外へ出て行ってしまった。そしてほとんど入れ違いに、たっ君と交信していた一時的な交代要員の人が到着する。
「本当に外からは無人に見えるのだな」
 そう言ってドアを開けたのは、シグナムだった。この様子だと念話で車の仕掛けを予め聞かされていたみたいだ。私とは対応が違うよぉ、たっ君。
「私は何も教えてもらってなかったから、もっとビックリしました」
「なんだ、一緒に行動しているのに、何も聞かされていなかったのか?」
「驚かせたかったからって、車についての話は全部張り込みが始まってからで……」
「やれやれ、調子はどうだと聞く前からこれとはな」
「たっ君は悪戯好きで自由なところがありますから。今もお昼ごはん前だからお腹が空くようにって、お散歩に行っちゃいましたし」
 シグナムは私の話を片目を瞑り、呆れ顔だけど私の話に耳を傾けてくれた。まさか自分がそんな理由でここに呼ばれたのだとは思ってなかっただろうし。
 と言うか、お散歩は一体何処まで本気なんだろう。おトイレくらいなら別に私1人残しておけば済む話で、わざわざシグナムを呼んで交代するほどではないし。もしかして、たっ君は犯人の手がかりを何か発見して確かめに行ったのかな。たっ君の性格ならそれこそ本当にやりかねないし、秘密主義だけどそういう部分が頼りになったりするのがたっ君でもある。
「悪戯だけなら、かわいいものだがな」
「それはどういう意味ですか?」
 シグナムも私と同じ、たっ君がただ歩き回っているだけではないと思ったのかな。それにしてはシグナムの表情は堅くて、あまり良い話をすると言う雰囲気じゃない。
「テスタロッサ。お前はあの男とよく行動を共にしているな」
「はい。時々勉強を教えてもらったり、一緒に遊んだりならしてますけど」
「その時、何か感じたり不思議に思ったりしたことはないか?」
「不思議……?」
「疑問に置き換えてもいい」
「うーん……。そう言われても、たっ君が不思議なのはいつもですよ?」
 改めて言われると、何が疑問なのか逆に分からない。そもそも私がたっ君と一緒に動こうとするのは、その疑問や不思議を少しでも理解したいからだし。
 それに、少し口下手だけど言うべきことははっきりと言うシグナムが、遠まわしな質問をするのも珍しいと思う。
「そういう意味でもないんだがな。どう説明したらいいものか」
 シグナムはたっ君について思う節があるのは間違いないけど、具体的な何かというのを挙げられずに言葉を紡ぎあぐねている。少なくとも、私にはそう感じた。
「たっ君はそんなに悪い人じゃないと思います」
「テスタロッサ?」
「たっ君の生き方は誰とも違うし、価値観だって私だと理解しにくい部分もあります。だから誤解されちゃうんじゃないかなって」
 そう。たっ君が本当に悪い人なら、これまで私との話をおざなりにせずきちんと聞いてくれて、その上相談に乗ってくれたりなんてしない。何より、窮地の時に逃げ出さず自分の身を犠牲にして戦ったりなんて……。これこそ、自分だけが大事な人がとれる行動じゃないはずだから。
「あいつの価値観か。確かに私には理解できん」
「たっ君が言ってました。生きたいからこそ迷わないって」
 死にたくないと心が弱い方に傾くと、人は正しい判断を見失ってしまうんだと。傷つくことを恐れて、伸ばした手を引く。そうして大事な何かを掴めずに終わる。
「恐いからこそ自分の中の弱さに流されないで、自分の本当に大事だと思う気持ちだけを信じるんだと、私は解釈しました」
 私は弱いから、きっとどれだけ頑張っても真似できないと思うけど。
「なるほど、一理あるかもしれん」
 たっ君は常に自分の考えをまとめていて、自分なりの答えをたくさん持っている。私はそれを聞く度に、そういう考え方もあるんだと驚いてばかりで。そして、どうしてそれだけ自分を確立できるんだろうって、私はずっと考えて探していた。
「だがなテスタロッサ。迷いがあれば剣先も曇るが、迷いがなければ恐れることもできん。恐れを知らない者は目の前にある危険もわからん。私には矛盾していると思えるがな」
「はい。たっ君の考えは、いつもどこかズレていて、矛盾してるようにも思えました」
 けれどたっ君の一番凄い部分は、強い部分は、たっ君の思想そのものではなくって。
「たっ君の強さの理由は、自分の思想を進むべき道だと信じて歩めること。誰が違うと言っても、迷わず自分が重ねた答えに向かって進んでしまえる心。なんだと思います」
 それは、なのはの勇気から生まれる不屈の強さとも、シグナムのはやてを想う騎士道の強さとも違う。
 これが正しいと思えても、他の人が違う答えを出したり、思っていた計算と現実がズレてしまうと、どうしてもホントはどこかで間違ってしまったんじゃないかって、不安になる。
「皆がそんなはずじゃなかった未来に振り回されて、迷って恐いけども、勇気を出して乗り越えて強くなっていく。なのに、たっ君は、たっ君だけが“迷わないから恐がらない”」
「何を前にしても動揺しない。だから死に直結する選択肢でも躊躇いなく前へ進めることが、あいつの持つ力か」
「実際に私はそういう場面を何度か見てます」
 たっ君は二体の巨大ロボットとの戦いで、どちらも自分から時間を稼ぐ盾になっている。アリサとすずかも、監禁された事件でたっ君が腕を切り落とされながら敵を追いつめていったと、語ってくれてた。
「なんとも危うい強さだな。ある意味、高町以上に極限状態でこそ発揮される力だ」
 たっ君の心は“悲しいくらい”に揺るがない。
「それでもたっ君は、いつもああやって笑ってる……。それはたっ君がそう望んで生きてるから」
 それはたっ君が自分の生き方を認めている、そして死を隣に置いても自分を崩していない証拠なんだ。だから私には止められない。「やはりお前は、心から暁を信用してるんだな」
「え?」
「そこでそんな顔をされてもな。少なくとも暁という人間に興味がないならば、そんな明朗について語るれんだろう」
 なのはとは初めに色々あったけど、一度力と気持ちを全力全開でぶつけ合って、想いを伝えてからはかけがえのない友達になれた。 アリサやすずかとも打ち解けられたし、はやても同じ。なのはと同じ戦いから始まったシグナム達ヴォルケンリッターだって、今はこうして共に信頼しあって同じ事件を追ってる。
「それは……」
 たっ君はどうなんだろう。私はたっ君を知りたいと思った。友達になりたいとも。そうして自分なりに心を縮めようとして話もしてみた。
「わかりません」
 昔よりきっと心の距離は近付いてるはずなのに、想いを触れ合えていると思えない。理解したはずなのに、全然わからない。
「そうか。お前でさえ、まだあいつが本当は何者なのかわからないか」
「それでも私は、たっ君を知りたい」
 偽りだらけなのに、真っ直ぐなあの人を。くるくると変わる、暁拓馬という人の景色を、真意をいつか捜し当てたい。

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