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緋色の平穏 Ep9『偶像崇拝シンメトリー9』

 わたしと耶徒音ちゃんはいつも一緒。一緒におしゃべりして、一緒に遊んで、一緒に寝て、一緒に生きてきた。耶徒音ちゃんが笑うとわたしも嬉しいし、耶徒音ちゃんが泣くと私も悲しい。わたしにとって耶徒音ちゃんは、たった一人の妹でかけがえのない家族だから。
 それは今もいつまでも変わらないし、絶対に変えられない。
 きっとわたしは、誰より耶徒音ちゃんが大好きなんだ。
 普段の耶徒音ちゃんはとても明るく、元気に動き回る子。でも人見知りが激しくて、知らない人の前だとびっくりするくらい大人しくなる。おじいちゃんやおばあちゃんの家に行く時も、わたしの後ろに隠れてあまり出てこない。たぶん、ごはんやおやつを食べる以外にはずっとかくれんぼしてる。わたしが鬼じゃなくても、簡単に見つけられちゃうかくれんぼだけど。
 あまり意味がないと思うし、耶徒音ちゃんにちゃんと出てこようよって何度言ってみたりもした。それでもわたしの服をはなしてくれない。
 いっしょーけんめいかくれようとする姿は、ちょっぴりかわいいんだよ。だから最後はつい許しちゃう。
 耶徒音ちゃんは人見知りさんでかくれんぼになると、いつもわたしに逃げてくる。わたしより近くにお母さんがいても、わたしのいる場所まで走ってきていた。それだけじゃなくて、怖い夢を見てお布団に潜ってくるのもわたしのお布団だ。
 お父さんはたよってもらえないからショックを受けてすねる。なぐさめてあげるのはわたし。お母さんにはお姉ちゃんっ子だねと言われてた。
 耶徒音ちゃんはわたしに甘えんぼさんなのです。それがわたしにはうれしくてほこらしくて、また耶徒音ちゃんを甘やかしちゃうんだ。
 たぶん耶徒音ちゃんが甘えんぼさんだったから、わたしたちはずっとなかよしでいられるんだと思う。
 お母さんとお父さんが死んじゃって涙が止まらなくなっても、耶徒音ちゃんが生きていてくれたからわたしは壊れてなかったんだ。だって、わたしが壊れちゃったら耶徒音ちゃんを守ってあげれなくなるもの。
 耶徒音ちゃんは生きて、わたしの心を助けてくれた。
 耶徒音ちゃんは生きて、わたしの心を救ってくれた。
 耶徒音ちゃんが生きていてくれたから、今のわたしはあるんだよ。誰の前でも笑わなくなってしまった耶徒音ちゃんに、わたしはそう言ったことがある。
 それはうそいつわりのない事実で、耶徒音ちゃんは何も答えてはくれなかったけど、何があってもわたしが耶徒音ちゃんを守ろうと心に決めた瞬間でもあったんだ。
 悲しい事故で耶徒音ちゃんの体は無事だけど、心はバラバラにこわれちゃった。それでもきっといつか、耶徒音ちゃんはまた笑ってくれるとわたしは信じてる。
 だって、耶徒音ちゃんはわたしの妹で、わたしは耶徒音ちゃんのお姉ちゃんだから、信じて当然だよね。
 そしてわたしにできるのは、ただ耶徒音ちゃんが治るのを神様に願うことだけじゃない。それに神様はキライ。お母さんとお父さんを殺して、耶徒音ちゃんをこんなにしたから。
 神様が助けてくれないからこそ、余計にわたしが耶徒音ちゃんを助けなくちゃ。わたしを助けてくれた耶徒音ちゃんを。そのためになら努力はおしまないよ。
 耶徒音ちゃんが誰かに傷つけられるなら、わたしが守る。耶徒音ちゃんが誰かを傷つけるなら、わたしが隠すね。
 人にはどうしても戦わなくちゃいけない時があるんだって、お父さんが言ってた。それが今なんだ。
 押入れにも耶徒音ちゃんはいなくて、おまわりさんはようやく諦めて帰った。
 これでやっと一安心だよ。わたしが疲れて机でぐでーっとしてたら、耶徒音ちゃんがかくれんぼを止めてとなりに立っていた。家の中で気がついたら近くにいるのはいつものことだから、わたしもあまり大きな反応はしない。
「耶徒音ちゃん、かくれんぼ上手になったね」
 耶徒音ちゃんがおまわりさんから逃げ切ってくれたから、今日のところは安全に夜を過ごせる。
 けど、おまわりさんはまだわたしたちを犯人だとうたがっているに違いない。ゆだんたいてきなんだ。しばらくはけいかいして、様子見しないと。
 耶徒音ちゃんは一回人を殺したら、次までに間隔を開けるし、その空白を次は多めにしてもらおう。
「恐い人に見つかっちゃったけど、わたしたちが勝って、おじゃま虫さんをぎゃふんと言わせちゃお。二人でまた笑えるようになるために!」
 耶徒音ちゃんの両手をぎゅっと握って、わたしはそう力強く言った。
 おまわりさんは大人で、わたしたちは子供で、きっとおまわりさんを出し抜くのは難しい。それでも、やるんだ。大好きな耶徒音ちゃんの病気を治すために。
 人殺しは耶徒音ちゃんが心を壊してから、初めて自分から動いたことだった。つまり、もっと人を殺せばそれだけ耶徒音ちゃんは自分を取り戻す。だから人殺しは止めちゃ駄目なんだよ。
 わたしの熱意が伝わったのか、耶徒音ちゃんはこくりとうなづいてくれた。それにつられて、わたしの心もあったかくなるのを感じる。大丈夫、わたしたちならやれるよね。
「それじゃあ今日は疲れちゃったし、もう寝よっ!」
 まずわたしがパジャマになって、耶徒音ちゃんのおきがえもわたしがやってあげる。
 次にお布団。しくのは一人分だけ。まくらは大きめで、お布団はわたしたちがまだ小さいから、これで十分なの。
 わたしたちはよりそい合うように、一緒に同じお布団に入る。
 明かりが消えた部屋で耶徒音ちゃんを見つめた。
 わたしの目の中にはわたしがいて、耶徒音ちゃんの目にはわたしがいる。
 わたしがわたしの。耶徒音ちゃんが耶徒音ちゃんの。
 耶徒音ちゃんをずっと見ていると、鏡を見ているのと同じ気分になってくる。でも、わたしたちは同じじゃない。
 そっくりの髪。
 そっくりの目。
 そっくりの鼻。
 そっくりの口。
 そっくりだけど違う。同じじゃないから共にいる。同じじゃないからこそ、わたしたちは共犯者なんだ。わたしたちは双子。そっくりな別人。だから、だけど、心はどこかでつながってる。大好きな妹。
 耶徒音ちゃんの手を握る。からんだ指からひんやりとした冷たさが広がって、わたしにはそれが心地よかった。
 次の日。わたしはずっとおうちにいることにした。
 外に出るのは恐いし危ない。算数の九九をおぼえたり、他の宿題をしながら、どうしようかを考える。
 おまわりさんからは逃げないと、けれどそればかりじゃ駄目なんだ。犯人は耶徒音ちゃんなんだから、このままじゃいつか捕まっちゃう。
 大事なのは疑いのまなざしから逃げること。むーだから逃げちゃ駄目なんだよぅ。
 うにゅうっと、机にあごを乗せてためいき。良い案が中々浮かばないし、九九も全然頭に入ってこない。
 逃げるんだけど、逃げちゃ駄目で。おまわりさんにはあきらめてもらわないといけないんだよね。何かないかなー。そんな方法。
 うー。あー。うー。うにゃにゃ。
 おゆうはんを食べても、作戦も宿題も上手くいかなかった。
 一応、耶徒音ちゃんにも良いあんがないか聞いてみよう。耶徒音ちゃんは、人を殺す時以外は何処かでぼーっとしてる。何を考えてるかはさっぱりわからない。多分何も考えてないんだと思うけど。
 それで思いたったみたいに突然人を殺すんだ。事前に殺すとも教えてくれないので、そこがちょっと困る。そう言えば、耶徒音ちゃんの姿が見えないなぁ。
「耶徒音ちゃん。やーとーねーちゃーん!」
 しばらく家の中を探したんだけど、耶徒音ちゃんは見つからなかった。
 急に嫌な予感が浮かんでくる。まさかまた人を殺しに出かけたの?
 どうして? これまで耶徒音ちゃんが二日続けて人を殺したことなんてないのに!
 わたしの中で生まれた不安はどんどんふくらんで大きくなっていって、わたしを押しつぶそうとする。
 そう言えば、昨日わたしは耶徒音ちゃんと約束をした。「おじゃま虫さんをぎゃふんと言わせちゃおう」と。
 わたしにとってはおまわりさんにあきらめさせようという意味だったけど、耶徒音ちゃんは「おまわりさんを殺してしまえ」ととらえてしまったとしたら?
 そこまで考えてしまうとわたしはもう、いてもたってもいられなくなった。
 おうちを探しても耶徒音ちゃんがいないんだから、きっともうお外だ。
 でもどうしよう。お外は絶対おまわりさんがパトロールしてる。耶徒音ちゃんを捕まえたいから。耶徒音ちゃんはおまわりさんを殺したい。もしおまわりさんと、耶徒音ちゃんが出会ってしまったら……。
 耶徒音ちゃんを探さないと! でも耶徒音ちゃんが無事で、わたしがおまわりさんに見つかったら、きっとわたしたちはもっともっと怪しまれちゃうことになる。
 耶徒音ちゃんなら、耶徒音ちゃんはこれまで何人も殺しているんだよ。警察の人だって殺して、いつもみたいに帰ってくるかもしれない 。
「……どっちがいいの?」
 わたしがおうちにいるのと、耶徒音ちゃんを探して連れて帰るのは、どちらが安全?
 耶徒音ちゃんは強い。おまわりさんは……そうだピストルがある!
「耶徒音ちゃんは危険人物だから、お巡りさんがピストルを持っていても変じゃない」
 普通ならうたれないかもしれないけど、耶徒音ちゃんは普通じゃない。いくら耶徒音ちゃんが強くても、ピストルで うたれちゃったら死んじゃうよ!
 答えは出た。わたしが耶徒音ちゃんを守る。だから行かなきゃ。
 もし耶徒音ちゃんがおまわりさんから逃げてたら、わたしが代わりにたいほされればいいんだ。わたしたちは双子なんだから、おまわりさんだって見分けがつかないよ。
 わたしは迷いを捨てて、外へとび出した。お外はもう暗くて、お空は黒。耶徒音ちゃんの心みたい。
 耶徒音ちゃんのいる場所なんて想像もつかないけど、だからこそ探す。
 お巡りさんに捕まらないようにだけ注意して、全速力で町を走った。
 走って走って、息が苦しくなっても走って。愛してるから走る。
 だけど、それなのに、どうしても、どうしよう。耶徒音ちゃんは何処にもいない。
「耶徒音ちゃん、もう出てきてよぉ……」
 いない。
 いない。
 いない。
 いない。
 ここにも。
 ここでも。
 どこでも。
 どこにも。
 いない。
 おなかの横が痛くて、どうにもならなくなってから、ようやくわたしは気づいた。けいさつのおまわりさんがずーっと煙りにまかれるくらい、耶徒音ちゃんはかくれんぼが上手になってる。それなのに、わたしが見つけだせるわけないよ。
 わかってしまったわたしは、もう走れなかった。
 足におもりがついちゃったみたいに、ずんと重くなる。
 もう無理なんだとわかっても、それでも止まることまではできなかった。あきらめて動けなくなっちゃうのが、何より恐いから。
 からだはもう限界だって拒否しても、心はまだ探そうよって悪あがきをしてる。停止もあきらめるも選べなくて、涙で前がにじんだ。
 お鼻もぐじゅぐじゅって音が鳴って、吸い込もうとするとツンってなって痛い。
「隠れんぼはもうお終いにしようよ」
 そうつぶやいてみたけど、耶徒音ちゃんは現れてくれなっかった。そんなのは当然だよね。耶徒音ちゃんはこんな所にいるわけないんだから。
 だんだんと自分でも歩いてる理由がわからなくなってきて、耶徒音ちゃんのためなのにわからない。何がわからないのかもわからない。
 そして止まった。
 前は海で、波は静かにゆれてる。ここは海鳴公園だ。歩けなくなって、周りを見回してようやく現在地を理解したみたい。みたい、なのは自分で自分がわからないから。
「君、そこで何してるの?」
 私に話しかけたのは女の子だった。金髪のツインテールで肌が白い、すごくきれいな外国の子。そんな子が私を見てる。耶徒音ちゃんを見つけられない私を見てる。

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