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緋色の断片 『ペテン師の最強論講座1』

どれだけの血を流しても、貴方の心は傷付かない。

          ●

 それは、ちょっとした疑問から生まれたものだった。
 御堂叶さんとたっ君の戦闘報告書。
 陸戦A相当の魔力を相手に、Bランク相当のたっ君はからめ手を使い勝利した。
 報告書を見る限りでは、力の無いたっ君が、策を張り巡らせて辛勝したように見えるけど、多分違う。
 たっ君はおそらく、他にも勝つための戦略を持っていた。
 もっと犠牲も小さく、安全に勝利するための作戦を考えて尚、この戦い方を選んだじゃないだろうか。
 なのはや、はやて、シグナムでもおそらくは持っていない独特な戦いの感性。
 ただ勝つのではなく、この結果に持っていくことを目的としているように私は感じたんだ。
 それを知りたくて皆とミーティングをする少し前に、私の部屋で直接たっ君に時間を作ってもらってそのことを聞いた。
 座布団代わりのクッションに2人して座る。私の疑問を、たっ君はあっさりと答えてくれた。
「叶には悪いが、一度心をへし折りたかったのさ。二度と戦いたくないと思わせるためにね」
「心を、折る」
 自分には絶対に勝てないと思わせるために、危険を冒してまで後から一気に逆転する。
 そうしてたっ君は、御堂さんにとてつもない実力差があるように思わせた。
 魔導師戦においてまで、力でなく“相手の心”を武器に戦いを挑む。
 私だって戦闘中相手の動きを予測はもするけれど、相手の心の奥まで見透かして作戦を立てるなんて真似はできない。
 私が親睦会で垣間見た、たっ君の本質を戦いに用いる、たっ君にしかできない戦術。
 この説明を受けて私は、ふと訓練校で学んだ話を思い出した。
「ねぇ、たっ君。もう一つ質問してもいいかな」
「なんでもどうぞ、好奇心旺盛なお嬢様」
「え?」
 たっ君の浮かべた笑みとお嬢様という言葉から、なぜだかちょっとからかわれている様にように感じる。
 不快ではないけど、不思議ではあった。
「だって、やたらと目を輝かせて質問してくるからさ」
「私、そんな顔してた?」
「絵本の続きを催促する子供みたいだよ」
 私は自分が考えている以上に、たっ君のことに興味心身だったらしい。
 でも当然だ。わざわざ時間を作ってもらってまでこんなことを聞いてるんだから。
 指摘されるまで全然自覚がなかったから、恥ずかしい。
「うぅ、あまりからかわないで」
「いいじゃないか。それくらいの方が子供っぽくてかわいいよ」
「え? あう!」
 かわいいという一言で、余計に赤面するのが自分でわかる。
 余計にニヤつくたっ君。意地悪だ。
「ふふふ。で、質問は?」
「うん。たっ君は聞いたことあるかな。自分より強い相手に勝つためには、相手より自分の方が強くないといけないって話」
 私が管理局の短期プログラムを受けていた頃に出された問題。
 当時の教官だったファーン・コラードという人に、なのはと私は二人がかりで模擬戦を行い完全に負けた。
 すでに前線は退いた年配のAAランクのベテラン魔導師だけど、ここまで手も足も出ないとは思わなくてショックを受けたのはよく覚えてる。
 その時に出された問題がこれだった。
 問題を出された経緯を含めてたっ君に話すと、たっ君はへぇっと呟きながら口角を上げる。
「初っ端からAAAの天才魔導師にも、挫折ってのはあるもんだぁねぇ」
「やっぱり意地悪だ」
 私が自分のことを天才なんて思っていないことも含めた皮肉。私に非難されても、たっ君は笑みを崩さない。
「だけど、俺がこの質問に答えるのは難しいな」
「どうして?」
 この問答を実践しているのがまさしくたっ君だと考えていた私には、ものすごく意外な答えだった。
 もっとさらりと自分の考えを出すと思ったのに。
 ちなみに、当時私となのはが一緒に悩んで出した答えは――
「自分よりも高い能力を持った相手とは競い合わず、自分の持ち味を生かして勝負する」
 難しいと言ったそばから、たっ君は回答を出した。
 それもやっぱり、ものすごくあっさりと。
「それが答えじゃないの?」
「一般的にはこれが最もポピュラーだろうね。でも俺は違うな」
 私が心のどこかで望んでいた、たっ君の感性が導く思考。どんなものを返してくれるのだろうと思うと、心が躍ってしまう。
 それは、私にはきっと考えもつかないものだろうから。
「私も、自分より総合的に強い人と戦うには、自分が持っている相手より強い部分で戦うことが答えだと考えたよ。でも同時にこのお話に、絶対これだって解答もないと思う。だから、たっ君の考えを聞きたいな」
「あーっと、そうだね。まず俺とっては、この話自体が成立し得ないのかな」
「え?」
 想像以上に根本的なことを言われてしまった。思わず私も間の抜けた返事しかできない。
「強さの基準はその場その場で変わるもの。確定もできないのに強いだの弱いだの唱えるなんてナンセンスじゃない?」
「それはそうかもしれないけど……」
 でも審査基準だって一応あるんじゃないだろうか?
 魔力やスピード、射程距離、そもそも魔力ランクはある程度強さを順位付けするためのものだし。
 たっ君の考えはそういったものを一切合財排除している。ある意味たっ君らしいとは思うけど。
「どーせ今、魔力値とか魔導師ランクのこと考えてるだろ」
 また、たっ君に心を読まれてた。
 ぴくん、と跳ねるように頭を上げた私はたっ君と見つめあうことになった。
「そうだけど、だって完全じゃなくても強さを格付けする基準はあるんじゃないかな?」
 私が尋ねると、たっ君は1度静かに目を閉じて、黙考した。
 けれどそれは数瞬の話で、すぐ目を開いて話を続ける。
「ならこうしよう。フェイトは今凶悪な犯罪者を追っています」
「うん」
 私は頭の中でシチュエーションを思い浮かべる。
 出てきたのは最近の事件で、たっ君と出会ったものだけど、そこは置いておくことにした。
「そこで犯人は人質をとり、ポーカーで決着つけようぜと言い出しました」
「えぇ!?」
「さぁ、こうなったら魔力もなにも関係ないぞ」
「そんなの反則だよ!」
 無茶苦茶だ。こうなったらもうなんでもありになってしまう。
 そこには魔導師としての強いも弱いもない。
「どうしてだい? 戦いが全て魔法で片付くと思ったら大間違いだよ。これだから管理局員は」
 そうか、たっ君は時空管理局に所属していない。
 任務が全て魔法に関することとは限らないんだ。
 だからこそ、様々な状況に対応してなくてはいけないし、そこに魔法という概念が持ち込めるかどうかもわからない。
「たっ君は戦いそのものがとても広い意味を持ち過ぎてるよ。なんだか質問を間違えちゃったって感じがする」
「まぁ、確かにそうだね」
「なら、魔導師戦だけに絞ればどういう考えになるの?」
 基準を絞ってしまえば今度こそ、ちゃんとした回答が得られるはずだ。
 絞った時点で答えとしては間違えてるんだろうけど、それくらいしないと強さに対するたっ君の気持ちは見えない。
「それなら、話は簡単かな。流れに乗ればいい」
 何故だろう? もっとわけのわからない答えが返ってきた気がするよ?
「ごめん、たっ君。全然わからないよ」
「そう返ってくると思って答えたから全然問題ないさ」
 あれ、もしかして私はたっ君に遊ばれてるだけ?
「……説明はしてもらえるんだよね?」
「戦いのルールが魔導師戦と定まっているなら、選ぶべき選択肢は限定されてくる。だったら、相手を倒すためのルートを選択すればいいわけだ」
 すごく抽象的過ぎて、言いたいことはなんとなくわかるのだけど現実感が伴わない。
 まるで戦いをボードゲームの基盤で行ってるかのような表し方だ。
「普段、たっ君はそう考えて戦ってるの?」
「俺だけじゃないだろ。どう動くか考えるってのは、そのまま自分のルートを決めるってことなんだから。ただ普通はそんなふうにはいちいち考えないだけだよ」
 戦いには必ずセオリーがある。それは魔導師なら戦闘で使う魔法は種別や種類で決まってくるからだ。
 できるだけ動きの無駄を省こうとしたら、それは最終的に皆にたような動作になる。
「そう言われれば、確かにそうかも」
「なら、相手がいくら強くても関係ない。自分が勝つためのルートを選び取って動く。これが流れに乗ることさ」
 本当にそれだけだろうか? 何かとても大事なことが抜けている。
 違う、わざと抜かされていると思ったほうがいい。
 私はその抜けている部分を必死に考える。
「それだと、足りないと思う」
「何がだい?」
「それだけじゃ、たっ君は御堂さんにも勝てなかったんじゃないかな。だってルートを選択しているのは相手も同じなんだから、自分が選びたいルートを選択できる保証はないよ」
 戦いは刻一刻と動くのだから、ルートも変化し続ける。
 相手が自分を倒そうとしたら、こっちは逆に相手の動きを読んで反撃するのが普通だ。だから、戦闘は後に動いた人の方が有利になる、これも戦いのセオリーだった。
 本来なら簡単なボードゲームみたいに考えられるものではない。
 私の反論を聞いて、たっ君は嬉しそうに頷いた。
「まさしくその通り」
 たっ君の話を聞いて、私がどう考えてどう答えを導くか、それを試されていたんだ。
 私の結論はたっ君の満足するものだったのだろうかはわからないけど、たっ君は続きを話し出す。
「そもそもこのルートは魔力や、使える魔法のバリエーションが多い者の方が選択肢が増える。俺みたいな能力的に劣る人間が勝利するには的確ルートに選ぶだけじゃ足りない」
「なら、たっ君だからこその選び方があるの?」
「ふふ、フェイトは俺がどうやってルートを選びとっていると思う」
 ここはとても重要なこと。
 たぶん、たっ君が相手の心を読みとる術にも関わる、核心部分はずだから。
「ここまでの話から想像すると、たっ君は相手の心の動きを読んで自分の選択を決めている。だから、本来勝てるはずのない差があっても逆転ができるんだ」
「うむぅ、それだと三十点くらいかな」
 ということは、私の予想はほとんどはずれと言ってもいい程度なんだ。満点だとは思ってなかったけど、私なりに一生懸命考えた答えだけにちょっと悔しい。
「そんなに違うんだ……」
「着眼点は間違っていないんだけどね。色々足りてないな」
「足りてないもの?」
 たっ君は今日最大のシニカルな笑みを張り付かせる。そして今日一番意地悪なことを言い放った。
「ここから先はただじゃ教えられんな!」

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