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緋色の断片 『ペテン師の最強論講座3』

「コントロールされている側はそれに気づけない」
「見えてるくせに盲目のような有様。これなら、誰が相手でも勝てるだろ。これだけだと、だ荒い理想論ではあるけどね」
 背筋が凍った。
 御堂さんも、意識できずにたっ君の手のひらで踊らされたんだというのがよくわかる。
 たっ君はその理想論を現実にしてきて今まで勝利してきたんだ。
 誘導できるなら、魔導師の強さなど関係ない。たっ君の考える“強い”の定義に対する曖昧さも、これに繋がっているのかもしれない。

「お姫様、これで満足ですか?」
 終わってみれば途中ふざけてはいたけど、たっ君は思っていた以上にちゃんと私の質問に答えてくれた。
 私が未だたっ君の腕の中に収まっているのが問題だけど。
「もう一つだけ、聞いていい?」
「いいよ。拓馬おにーさん心が広いからね!」
 心の広い人が自分の出した質問の答えに条件つけたりするのだろうか? もう細かい部分は考えるだけ負けかもしれない、だってたっ君だし。
「あのね、今までの話とは矛盾するんだけど、だからこそ聞きたいんだ」
「ふむふむ、それが答えられるものなら問題ないよ」
「たっ君が考える最強の魔導師像ってなに?」
 管理局の教本にも全く載っていない、オリジナルの理論。
 魔力を否定して、レアスキルを否定して、そうして強さを手にしたたっ君だからこその“強さ”。
 その果てにはいったい何があるのだろう?
 私が出した最後の問いかけに、たっ君は珍しく少し上を向いて考え込んでいるようだ。
「うーんっとさ、あるにはあるけど、また魔導師限定じゃなくなるんだよ。それでもいい?」
「それでもいいよ」
 どんな形でも答えてもらえるならそれで十分だ。
 そんなものないと返されてしまうかもしれないと思っていたし。
「戦い……というか人生は常に流れがある。良い流れも悪い流れもね」
 それってつまりは運ってことだよね。誰にでも運の良い日と悪い日はある。
「良い流れに乗り続けることが最強ってこと?」
「それも確かにそうかもしれないけど、それは理や技術よりも強運の方が重要になるから、磨くもなにもない」
 また、話が漠然としてきたけど、言いたいことはわかる。
 宝くじであたりを引き続けても、それは運が良いだけで、たっ君の持ち味である独特な技術は介在できない。
「現実感もあまり感じられないかな」
「俺の理想も現実的じゃないんだけどね」
 ばつが悪そうに軽く笑ってから、たっ君は説明を続ける。

「どんなに深く考え、最良の選択を続けても、ちょっとしたハプニングで砂場の山のように容易く崩れ去る。どんな天才でも突如頭上に降ってきた核ミサイルに対応することはできない。それが不条理というものだろう?」
「世界にはこんなはずじゃなかったってことがたくさんある……ってクロノも言ってたよ」
 私がまだプレシア母さんのために戦おうとしていた頃の話。
 ぼろぼろになりながら、それでもクロノが叫んだ台詞。
 お父さんを幼い頃に失い、それでも強く生きていたクロノだからこそ重みがあると、私は思う。
「だったら、その不条理さえ乗りこなせる力を持てれば、“こんなはずじゃない”事態を自分の有利に運ぶ力を持てるならば、そいつは神の隣に座れる」
「不条理を、乗りこなす」
 操りきれないからこそ不条理。たっ君だって自分の話している内容の矛盾はわかっている。
 だからあえて、神という名前を使ったんだ。
「きっとこの価値観は、今まで生きてきた環境の差だよ」
 そうだ、たっ君は子供の頃――といってもまだ未成年なんだけど、とても過酷な環境で生きてきた。
 どれだけ完璧に選択し続けても、次の瞬間には命を落とすかもしれない戦場。“こんなはずじゃないこと”をクロノより誰より多く体験している。
 これは幾度も修羅場を乗り越えてきたからこその発想なのかもしれない。
 私が本当の意味で納得するには、まだ未熟で弱すぎるけど。
「ありがとう。たっ君のこと、また少しだけ理解できた気がするよ」
 謝らなきゃと思った。
 私はまた不用意にたっ君の過去に触れてしまったのだから。
 だけど、たっ君はそんなこと気にもとめていないことはもう知っている。
 時空管理局に復讐心を抱いても不思議じゃない仕打ちを受けたのに、恨むことを無駄と断言してしまう。
 過去に縛られず、過去から積み上げた辛い経験を武器に戦う。そこには悲壮感もや哀愁もない。
 たっ君が戦うのは復讐のためじゃなく、自分が望んだ未来を作るため。そのために前を見据えて、精神的にブレることも折れることもなく自分の信じた道を進む。
 誰に否定されても迷わない、揺るがされない。それがたっ君の“強さ”。
 だから私は『ごめんなさい』ではなくて『ありがとう』にした。
 たっ君にとって、大事な知識の一部を教えてくれたことへのお礼だ。
「どういたしまして」
 たっ君は優しく微笑み返して、これが最後と私を抱きしめる。顔を髪にうずめられて、恥ずかしさも一際だった。
 でも、たっ君の体温が伝わるのをどこかで嬉しいと感じる私もいる。
 そこでふと思った。私にとって、たっ君とはどういう存在なのだろう?
 友達。それは間違いない。
 まだ出会ってから日は浅いけど、とても大事な仲間だ。
 それに私は、たっ君の持つ何かに憧れている。
 いつも私の想像の上をいく独特な感性。
 こうやって話をする時間を作ってくれたり、宿題をみてくれる面倒見の優しいお兄さんな部分。
 だけど子供っぽくてわがままな部分もたくさんある。いたずらも大好きだ。
 そして、時折垣間見せる底の見えない程の深い闇。
 比べるとどれもちぐはぐで、同時にどれもがたっ君だった。
「さて、そろそろ行こうか」
「あっ」
 ようやく満足してくれたのか、たっ君は私を離してくれた。
 ちょっぴり寂しく感じたのは、急に解放されて体温が下がって錯覚したんだ。
「名残惜しいなあ」
 私にもしっかり聞こえるように呟いてたっ君は立ち上がる。絶対また何かあったら、抱きしめるつもりだ。
「いくら言っても、これが最初で最後だから」
「あの温もりが、もう二度と味わえないなんて!」
 大げさに両手を広げて天井を仰ぐ。まるで舞台の役者さんのようなリアクションだ。
「……ばか」
「ああ俺は大馬鹿野郎だよ!」
「もう、大げさだよ。ふふ」
 気が付くと、どちらともなく笑いあっていた。
 何が面白いのかはよくわからないけど、とにかく可笑しくて、さっき感じた寂しさはすでに消え去って、また別の温かさが宿っているように感じる。
「さ、行こうか」
「うん」
 ひとしきり笑った後、私達は並んで部屋を出た。
 たっ君との間には、きっと私が思っている以上に深い溝があると思う。話してくれていないこともきっとたくさん……。
 でもこうしていれば、今だけは仲の良い兄妹に見えないかな。
 髪や目の色が違うからやはりそれも無理があるだろうけど、誰かに間違われてみたい。
 そんなことを考えながら二人一緒に居間へ行くと、本当の兄が待ってくれていた。
「あまり遅いから呼びに行こうと思ってたよ」
「ごめんね。お話が長引いちゃって」
「まぁいい、次から気をつけてくれ。もうあまり時間がないからすぐ転送……?」
 突然クロノの言葉が止まり、私をじっと見つめる。
「どうしたの」
「フェイト、髪と服が乱れてるぞ。何があったんだ?」
「え、何って、お話してただけだよ?」
「話してただけで、そうなるわけないだろう」
 しまった。きっと抱きつかれた時にちゃんと直すのを忘れてしまっていた
 とっさの言いわけが思い浮かばないけど、本当のことを話すわけにもいかない。
 それにどうしてだろう。そこはかとなくクロノが怒っている気がする。なにかとても不味い方向に勘違いされてる?
「まぁまぁ空気を読みたまえ弟よ」
「なんで、いつ、僕がお前の弟になったんだ」
「俺も気は進まないが、フェイトがお嫁さんになるのなら致し方あるまい」
「え?」
 そんなお話は全くした憶えがないよ?
 たっ君の表情を見ると、とてもいたずらっ子な笑顔になっていた。この顔は、勘違いしているクロノで遊ぶ気だ。
「お前、フェイトはまだ子供だぞ!」
「愛があれば年と身体の差なんて!」
「身体だと!?」
「ちょっと待って、二人とも落ち着いて」
 割って入ろうにもすでに手遅れだった。話の流れはものの数秒で、洪水のように激しくなっていく。
「フェイトに何をした!」
「ククク、さぁなんだろうな? 聞きたいのかエロノ」
「されてない、何もされてないから」
「つまり、兄には言えないことだ」
 どうしてそこだけ本当のこと言うの! たっ君は人を怒らせる天才だよ!
「お前だけは絶対に許さない!」
「ならばやってみせろ小僧!」
 この後、本気のクロノが楽しそうに逃げ回るたっ君とトレーニングルームで魔力が尽きるまで鬼ごっこをしたのは、ミーティングに遅刻して三人揃ってリンディ母さんにとても怒られた後だった。

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