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緋色の平穏 Ep7『大恋上6』

 誓いは立てた。自分へ課した任務、俺のやりたいことは希咲との復縁。
 そう決めたのなら果たすのが俺だ。否、俺達トルバドゥールだ。
 俺の肩に乗るのは俺の意志だけではない、苦楽を共にしてきた二人の魂も俺の後ろを押す。
 常に時間を共有するのが友ではない。離れていても、その輝きが胸に灯り続けるのが真の友なのだ。
 艱難辛苦の最中、思い出すだけで闘志が燃え上がる。
 本来ならすれ違うはずもなかっただろう俺達。
 そんな赤の他人でありながら、だがしかし俺達のレールは混じり合い、繋がり合った。
 そして今や絆は距離や言葉を超越した存在となったのだ。これを奇跡と呼ばずして何が奇跡なものか。
 俺はまさしく奇跡の力を借りて立ち向かう。
 そんな俺に突破できない壁なぞ在るわけがない。そうとも、在っていいわけがない。
 例えるなら俺は刀だ。友の心で打たれ、鍛えられた。折れることのない一本の刀。
 刀と成った俺は斬る。俺と希咲との複雑に絡んでしまった縁を。もう一度繋ぎ直すために。
 見ていてくれ二人の友よ、俺はやる。希咲との復縁を成し遂げる!
 そして午後の練習開始直前、希咲の前に立ちはだかりし俺は――見事スルーされた。
 相手は壁ではなく、空気だった。押しても引いても斬っても軽く流される。
 徹底的だ。午後の練習中、一切絡めそうな隙を見せなかった。
 むしろ俺が空気だよ! 真紅先輩には最低限反応しているのに。
 あいつはよほど親しい人間以外は最低限が最大級の人付き合いだから、真紅先輩は早くも現在上昇可能なMAXまで好感度をあげたと言える。言えてしまう。言えちゃうよ!
 いくら攻め込んでも、素通りされてしまってはイベントも起こらない。何も出来なければフラグは立てられないのだ。
 人間、好きの反対は無関心だというのが身に染みたぜ。
 そりゃあ、会話すら出来ずに練習終わっちゃったらねぇ。
 他にもここまででわかったことがある。
 あいつ等二人の魂つっかえねーなー。前置きの意味がなくなったじゃねぇか。返却だ返却!
 こうなればここから帰るまでが最後の勝負だ。遠足も家について母親にただいまを告げてこそ初めて終了なんだし。関連性は有りそうでねぇけどな。
 難易度は極上。なんせ、まずはどうやって自分に関心を持たせるかから始めないといけないんだから。どう考えてもペテン師か道化師の仕事だぜ。
 だとしても俺が考えて何か出せるわけがないのだから、無理矢理腕を掴んででも止めるしかない。
 夏休み後に女子から俺の評価が地に落ちてたとしても、あえて受け入れてやる。
「おい、きさ」
「さぁ希咲、約束通りマグマのような恋の勝負だ!」
 空気読めよこの恋愛熱中症患者!
 しかも約束って、そんなのいつの間にしてやがったんだ。
 だけど、それで希咲はまだ道場にいる。しかも他の連中は去っていくから比較的話もしやすい。
 ウザいが有りがたい。これは利用しない手はないぜ。
「希咲、真紅先輩と試合する前に話が」「おお修一、他の連中は勝負の邪魔だから帰させるが、お前だけは別だ。俺の燃えたぎる恋のソウルを見届けてくれ!」
 この先輩邪魔ってレベルじゃねーぞ!
 わざとか、わざとやってんのか。俺の立てようとしているフラグを破壊するつもりだな?
 もう面を取っても、いがぐりに戻せないよう丸坊主にすっぞてめぇ!
「それはいいですけど、ちょっとだけ時間を」「わかりました。余計な時間は使いたくありません。さっさと始めましょう」
 希咲は確信犯でやってるのはわかってるから、追求しないでおく。
 ある意味どちらからも空気のような扱いで、特別な扱いを受けてるよな。嬉しかねぇけど。
 某クッキーは美味しいから特別扱いに意味があるんだよ。
「その前にルールと約束は覚えてるよな?」
 約束って、そんなおまけまで付けていたのかよ。
 なんて要領の良さだ。これも全国レベルの(変態だから)なせる技か。
「わかっています。一本勝負で勝った方が負けた方へ何でも一つ命令できる。無論、それは内容を問わずこなさねばならない」
「その通り。もちろん俺はお前に俺の彼女になれと命令するぜ」
「どうぞお好きに。私はあなたに二度と近寄るなと命令しますので」
「希咲、お前……それを受けるのか?」
 俺は今日、いったい何度絶句すればいいんだ。
 だってそのルールは、俺が希咲と一0年以上前に行った決闘と同じものなのだから。
「何か問題が?」
「い、いや、ねぇけどさ……」
「なら言うな」
 希咲との関係を一度切った俺が、今更あいつに忠告なんてしていいいはずがなかった。
 俺にできるのは、ただことのなりゆきを見守ることだけだ。
 空はすでに赤らみ、俺達に鍛錬の終了を告げている。
 嫌々ながらでも、充実していても、皆酷使した肉体を休めるため我が巣に戻り親にピーチクパーチク飯をねだる。
 ここにいるのはその例外。
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
 静まり返った剣道場に、剣道具一式をまとった二人の声が木霊する。
 獅童希咲と真紅恋馬。剣道部からすれば期待の新人と、現在のエース。
 野次馬根性以外でも見物したい奴らはいるだろうが、真紅先輩はそれらをおっぱらった。
 二人の剣士を除き残されているのは、希咲との古い知り合いで、真紅先輩からも戦力として注目視されている俺。
 そして顧問の代理となりつつあるシグナムさんだった。
 二人の試合をシグナムさんはあっさり認めた。
 シグナムさんからすれば女子との試合では計りきれなかった希咲の実力を知る、ちょうどいい機会であるようだ。
 俺が訴えかけた勝者の命令権も、両者が同意の上ならば問題ないだろうと、あっさりと流された。
 希咲は強い。午前にやった女子達との試合は、まるで過去の記憶をほじくりだされるような気分だった。
 俺自身、あいつには一度も勝っていない。敗北以外には“無効試合”が一つあるだけだ。
「始め!」
 シグナムさんのかけ声で、試合は開始された。
 まず先につっかけるのは、体格で勝る真紅先輩。
 あの人はわかりやすい。恋も戦いも猪突猛進だから。だがそこは頭が尖っていてもエース、突っ込んで力押ししても足元を掬われない技術が伴っている。
 反面、希咲は受ける。男女で生まれる力差をいなすように、無駄な動きはなく柳が風にしなるように流す。
 あの日もこうだった。あれは“真剣勝負”で、武器が木刀に変わり防具も付けていなったけど。
 武道の精神など感じられない獣のような野生で果敢に攻める俺と、一辺の表情も変化させず捌き続ける希咲。
 あの時との相違点は、二人が互角だということだ。
 真紅先輩は攻めきれず、希咲は反撃のタイミングを掴めない。
 幾度も鍔迫り合いとなり、討ち取り損ねては離れる。
 近代の打撃系格闘技では有り得ない、一撃必殺の世界。だからこそ一瞬が重い。
 二人は噛み合いすぎてぴったりとはまってしまい、拮抗状態に陥った。
「せあぁぁい!」
 しかし、そんなくらいで手を緩める先輩ではない。それどろか、希咲に隙がないなら自ら作らんと勢いを上げていく。
 獣の気迫がこっちにまで伝わってくるような、そんな獰猛さ。
 野獣の力に屈せず、反撃の機を待つ希咲。
 華麗な足捌きなんてありきたりな表現だが、その言葉がぴったりと当てはまる。それこそ、希咲が体重差も大きい真紅先輩の攻めを凌げている最大の理由だ。
「めえええええぇぇぇんんああ!」
 頭部へ牙を降り下ろさんとする真紅先輩。希咲はそれを間合いを微妙に詰めて受ける。
「どぅおおおおぉうう!」
 決まらないなんて初めから察していた真紅先輩は、そのまま一旦身を引き胴体を打つために攻めを切り替える。
 それが希咲に与えられた、ほんの僅かで、だけど十分過ぎる転機だった。
「小手ぇぇぇぇ!」
「っ!?」
 ほんの僅かに先んでた希咲が胴体を狙った、その手を打ち抜く。
 しかし――
「今のじゃ浅い」
 シグナムさんは旗を下に降ろす。一本にはならず。
 綺麗に決まったかのように見えた抜き小手だが、僅かに当たりが浅かった。
 打たれる前に己の失策に気付いた真紅先輩が、寸前で退いたのだ。
 避けきることはできなくても、一本負けだけは防ぐために。攻めの一辺倒だけに見えても下がるときはきっちり下がる。伊達に全国クラスではない。
「やるな、気付くのがコンマ一秒遅かったら終わってたぜ」
「先輩こそ、剣士としての素質は尊敬に値します」
 なんかちょっと良い雰囲気になっているな。
 試合の果てに待っているものは、俺とは反対の結果なのかもしれない。
 それならそれで、希咲にとっては悪い結果ではないだろう。
 剣士なのだから剣で語る。それを実践しているのは俺ではなく真紅先輩だった。
「だが、俺の胸に宿る恋の炎はまだ燃え尽きちゃいない!」
 試合再開。
 真紅先輩の攻めも再開された。けど、その勢いは先ほどより落ちている。
 あんな反応での反撃、通常の相手なら早々あり得ない。それが真紅先輩を警戒させた。
 ただでさえ公式の三本勝負ではないのだ、一度のしくじりだけで敗北は確定して取り返しがつかない。
 希咲の小手はたとえ勝利をもぎ取れなくとも、勝利を拓くための布石にはなった。
「せええええぇい!」
「くぅっ」
 真紅先輩の手数が減れば、希咲は浸け入れる部分が増える。ここで怯えるのはむしろ逆効果だ。
 希咲がそれを狙っていたかは知れないが、相手の精神を蝕む戦いを好む拓馬がよく使う手ではある。
 そうして形成が傾き始めた頃、終わりはきた。
「突きいいぃぃぃ!」
 希咲の腕が竹刀と一体化したように真っ直ぐに、真紅先輩を狙って伸びる。
「むぅええええぇぇぇんん!」
 だが、明らかに出遅れたはずの真紅先輩が降り上げた竹刀が、希咲の頭部を打った。
 打たれた希咲ですら、固まり現状を捕らえきれていない。
「一本!」
 そんな中、シグナムさんから試合終了の合図が告げられた。
 そこでようやく希咲が敗北を悟り、停止を解除する。
 互いに礼をして、それで何事もなく何事かが過ぎ去った。
 面による真紅先輩の一本勝ち。結果だけをまとめればこうなるが、それだけじゃない。

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