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スマプリ 『ココロ、赤く燻って』

 今日は戦いもないし、至って普通の日やった。
 帰り道やよいが何もないところでこけて涙目になっとったんも含めて、いつも通りやろ。
 それを助けようとして走り寄ったみゆきもつまずいて一緒にこけて、なんや押し倒しとるみたいに見えたけど、これもいつも通りの範疇のはずや。うん多分。
 それにしても、転入してからみゆきはホンマ変わらんやっちゃなあ。
 まあ、それはウチもなんやろうけど。
 実際一年前の自分を思い返して何も変わってへんなあと思う。
 そらそうやん。いきなり大人になるわけやあらへんし。
 お好み焼きやバレーとか、昔と比べてそういうんは上手くなったし、成長したと思う。
 それは長い時間をかけて練習したからや。ずっと努力してたらできるようになっとった。
 けどな、これはそういうんやないねん。
 ウチは、れいかみたいに頭ええわけやないから、上手く説明でけへんねんけど。
 中学一年生のウチ。小学六年生のウチ。そんで今のウチ。
 勉強とか部活とか、そういうんはできることや覚えたことも増えた。
 せやけどウチがやっとることは自体は、何も変わっとらん。
 部活とか体動かすんは元々好きやったし、お好み焼きを焼くんも好きや。
 色んなことに遠くまで手を伸ばせるようになったけど、ウチがウチなんはずっと一緒や。
 一番大事な部分は何も変わってへんように思う。
 なんか考えるんも恥ずかしいけど、きっと心っちゅーやつやな。
 ウチはずっとウチのままや。
 けど、一個だけ変わったことがある。
 誰にも言われへんけど、言えるわけないけど、『それ』だけは確かに変わってもうた。
 それがええことかと聞かれると、ウチには答えられへんけど。

          ●

 学校のチャイムが鳴って起立と礼の号令がかかる。
 いつもと変わらんその挨拶を済ませたら、次にあるのは授業やのうてお昼休みや。
 今日は中庭で食べるんやったなとウチが教室を出ると、なおが扉のすぐ近くで待っとった。
「あれ、みゆきちゃん達は?」
「みゆきは朝からお弁当忘れたーとか叫んどってな。一回行ってみたかって言うて学食らしいわ。それ聞いたやよいも久々に学食が恋しくなったみたいやな」
「あー、学食のカツ丼美味しいもんねー」
 学食のカツ丼を思い出したらしく、なおは心底空腹そうな顔でお弁当片手にお腹をさすっとる。
 修学旅行もそうやったけど、腹ペコキャラが板についてきとるな。
「れいかはどうしたん?」
「生徒会の用事があるから、今日はあっちで食べるって」
「そうかー。ってことは今日はうちら二人だけやねんな」
「そうだね」
 最近の昼食は五人で食べることが多くなっとって、誰かが抜けることはあっても二人だけになるんは滅多にない。そうやのうても、なおと二人だけでのお昼は初めてや。
「ほな、いこか」
 元々なおとは同じ運動系のクラブ入っとることもあって話は合うし、よくなんとなく二人で行動してるんもあって特に話題に困ることもない。
 やから、二人だけの昼食も問題なく会話に花は咲いとった。
「ふー、やっとお昼ごはんが食べれるよ」
「そんなに目輝かして、どんなけ腹減ってんねん」
「朝練もあって、もうお腹ペコペコ! いっただっきまーす!」
 お弁当を開けたなおは、テンションを上げて弁当箱を平らげ始める。それにしてもおっきい弁当箱やなあ。
 うちもバレー部で朝練しとるけど、なお程は食べられへんわ。
「そう言えば、あかねのお弁当にお好み焼きが入ってるのを見たことないね」
「あんなあ、ウチがお好み焼き屋やからって毎日お好み焼き食べとるわけやないからな」
 どんな偏見やねん! いくらウチでもそんな粉もんばっかり食べへんちゅーねん。
 お弁当作ってくれとるんはおかーちゃんやし、そもそも店がまだ開いてへん朝からお好み焼きを焼く方が珍しいわ。
「ちぇ、いつか分けてもらおうと思ってるのに」
「何で人の弁当狙っとんねん……」
 そのサイズでもまだ足りへんのか!? ホンマにどれだけ食い意地はっとんねん。
 やっぱりサッカー部のエースともなると、運動量も人一倍なんやろなあ。修学旅行でもかなり食べとったけど、太るような気配は微塵もあらへん。
「なあ、なおのお弁当ってやっぱ自分で作っとるん?」
「うん、まぁ毎日ってわけじゃないけど、今日はそうだね」
 なおが弟達のためにご飯を作ってるのは前から知っとった。そこにお弁当も含まれるわけやな。ネギが刺さった自分用の買い物袋を持っとる姿を前に見たこともあるし、あれはよう似合っとったわ。
「なおの作ったお弁当かあ。きっとなおを尊敬しとる子達が知ったら、なお先輩が作ったお弁当是非食べてみたいです! とか言いそうやな」
「ははは……」
 苦笑いするだけってことは、自分で想像してあり得そうとか思ってんな。
 そんでも、なおはファンの子らを大事にしとるから、本気で頼まれたら断れんのやろう。
 むしろ愛しの王子様相手やったら、ファンの子らが手作り弁当食べてもらいたがるかもしれへんな。
「にしても、ホントなおはおかん役がよう似合うなあ」
「もう、だからおかんて言わないでってば」
「だって実際そうやん。サッカーやりながら姉弟の面倒もきっちり見とって、その上家事もできるねんで」
 なおの人気は運動神経や凛々しさだけやない、あの面倒見の良さがあってこそや。そのおかん属性かて、姉弟の面倒を見てたとこから生まれたんやろう。
「なおと結婚する相手は幸せモンやな」
「な……! ゲホゲホッ」
「っと、大丈夫か!?」
 いきなりむせ返ったなおに、水筒からお茶を注いで渡した。それを一気飲みして落ち着いても、なおの顔は赤いままや。
「いきなりなんてこと言うの!?」
 怒っとるというか照れとる感じで、なおがウチに抗議する。なおはこのギャップがまたかわええなあ。
「なんならウチがお嫁にもらったってもええで?」
「からかい過ぎ」
 睨まれてもうた。
 みゆきが決め台詞考えようと言い出した時に、心底どうでもいいと言った時の目や。これちょっと恐いねん。
「可愛い冗談やーん」
「まったく。困るよ……そういうの」
 なおが、持っていたお弁当を膝に置いて、俯き加減にちょっと熱っぽく潤んだ瞳でこっちを見た。今度は睨むというより見つめる方に近なっとる。
 なんやこれ、どんなけ可愛いねん!
 思わずドキドキしてもうて……って、何でウチがドキドキしとんねん!
 ウチは必死で動揺を悟られへんように、お弁当のおかずをパクパクと口に放り込む。味わからへん。
「それにさ、あたしからすれば、あかねの方がずっとすごいよ」
「ウチが?」
 モテモテの王子様にすごいと言われても、全然実感わかへんわ。
「なおはバレーやりながら、お好み焼き屋まで手伝ってるでしょ」
「そんなことあらへんて。店の手伝いしてるんはたまにやで」
 この前おとーちゃんの代わりに店開いてたんは、あくまでおとーちゃんがぎっくり腰で動かれへんなったからやし。
「それでもすごいよ。あんなに美味しいお好み焼き、あたしには作れないもの」
 なんかベタ褒めされてもうて、背中がむず痒い。さらになおは畳みかけるように話を続けてきよる。
「この前だって、あかねのお好み焼き食べてきたって言ったら、弟達が食べたい食べたいって騒いじゃってさー」
「それやったらウチが作ったるさかい、いつでも食べに来たらええで」
 ウチの焼いたお好み焼きを食べたい言うてくれる人がおるなら、ウチは喜んで何枚でも焼くで。それがなおの姉弟なら尚更や!
「流石にそれは悪いよ。あかねまでとは言わなくても、家でもっと上手に焼ければいいんだけどなあ」
「それやったら、ウチがコツを教えたろか?」
「え、いいの?」
 そりゃ店のお好み焼きと同じのんは、器具とか練習とか色々必要やけど、ちょっとしたコツとか手本くらいやったらウチが説明できる。それに作るんがなおやったら、すぐ憶えられるやろ。
「なら、なおの家で直接作るんが手っ取り早いと思うねんけど。せやな、今度の日曜日は開いとるか?」
「そうだね……。うん、あたしは大丈夫だよ」
 なおは頭の中で予定を確認してから、大きく頷いた。よっしゃ、それやったら決まりや。
「じゃあ日曜日になおの家でな!」
「ありがとう、あかね!」
 今度は、すっごい生き生きとした笑顔をウチに向けてきおった。
 さっきのドキドキが、またぶり返ってきおる。
 あれ、そう言えばウチ、何でなおの家に集合って言ったんや?
 別にウチの家や店でもええやん。
 なおの家に行く。
 そう考えただけで、このわけわからんドキドキは強くなる。
 ウチはもしかして、とんでもないことをしてもうたんちゃうやろか?

          ●

 さあ、遂にこの日がやってきたで。
 ウチは今なおの家におる。
 直接なおの家にお邪魔するんは初めてやな、どうも友達の家に初めて入るのはちょい緊張してまう。
 けど、それだけや。
 あのお昼休みに感じたドキドキは教室に戻る頃には消えとったし、それ以後はずっと普通になおとも遊んどった。
 普段は見られへん、恥ずかしがっとるなおが可愛くってちょっと動揺してもうただけ。
 つまりあれや、一時的な気の迷いかなんかやったっちゅー話や。
 そうとわかればもうなんも心配はいらん。やったるでー!
「弟達も今日はお母さんと出かけてて夕方までは帰ってこないから、今日はしっかり練習できるよ!」
「お、気合入っとんなー」
 なおは腕まくりしていて、今日のために買ってきたらしいコテが握られとる。見ただけでわかる気の入れようやった。
「そりゃもちろん! なんたってお好み焼き焼き屋の看板娘に、直接お好み焼きの作り方を教わるんだからね!」
「っふっふっふ、ウチの特訓は厳しいで」
「望むところさ!」
「それじゃ、ホンマに始めよか」
「よろしくお願いします!」
 二人ともやる気全開になったところでレクチャーはスタートや。
 実際、あかねちゃんのお好み焼き講座はやっぱり順調やった。
 ウチが先に手本を見せて、なおがそれをメモしながら真似して料理する。
「ええか、焼いてる時は押さえつけたあかんで」
「うん。押さえつけない……っと」
 普段なら、みゆきかやよいが面白いことや派手なミスをやらかすねんけど、今日はそれがないんで何の問題も起きへん。
 どころか、なおが料理に慣れてる分スムーズに進んでいくんで、ちょいおもろないと思うんはウチの性分でご愛嬌と言うもんやろ。
「後は強火で一分、そんでひっくり返してソース塗ったらしまいや」
「うん」
 なおは完成間近のお好み焼きを真剣にジーっと観察しとる。最後まで気を抜かへんのはいつも全力投球のなおらしいなあ。
 慎重な手つきでお好み焼きをひっくり返す。試合ん時のなおを見てるみたいや。
 近くで見るとより凛々しいわ。そら女の子のファンがわんさかできるわけやで。
 もし、なおにこんな顔でウチのことを見つめられたら、きっと固まってしもて何もできへんなるやろな。
 と、丁度思った矢先になおがこっちを振り向いた。
 思わず動かれへんなってまうウチ。自分で言ったことが即現実になってもうた。
 ど、どどどどないしよ!
 いや待ち、そもそも何をどないすんねん。
 このままでええやん。
 なおがウチを見てくれとる。
 普段は試合や他の子らに向けられるなおの視線が、今はウチだけや。
 いやいやいやいやいやいや! そういう問題やないやろ!?
「あかね……」
「な、何や、なお……」
 ウチの目にはなおが写って、なおの目にはウチが……。ん、いや、ちょいズレてへんか?
 これはウチというより、ウチの少し後ろを見とるような。
「焦げてる」
「へ?」
「あかね、お好み焼き焦げてるって!」
「へ? あああああ!」
 ウチのフライパンから上がる黒い煙。急いでひっくり返したんやけど、表面が真っ黒焦げお好み焼きがこんにちわしてきおった。
「あちゃー。こりゃやってもうたー!」
 これは格好悪いし、情けないわ。教えるはずのウチが失敗してどないすんねん。
「あかんわ。真っ黒焦げや」
 とりあえず皿に移してソースとマヨネーズで誤魔化してみたけど、さぞかし苦いやろなぁこれ。
 テーブルに置かれた完成したウチとなおのお好み焼きを見比べて、自分の駄目っぷりに呆れ返った。
「あかねがお好み焼きに失敗するなんて、珍しいこともあるんだね」
「面目次第もないわ」
「まあ誰にだって失敗はあるんだし、あんまり気にしちゃ駄目だよ」
 そう言うたかて、作ったもんがお好み焼きで、しかも自分から教えに来といてこれはないわ。
「看板娘失格やな」
「あたしが失敗しないように見てて、こうなっちゃったんだよね」
「そりゃ違うて、これはウチの不注意やさかい、なおが気にすることやあらへんて」
 ウチが落ち込みすぎたせいで、なおまで気にし始めてもうた。みゆき達がおらんってことは、無理矢理にでも明るく場を収めてくれる子がおらんって意味でもあんねんな。
「ま、そんなことより食べよ食べよー。なおのがちゃんと美味しく焼けてるかチェックせんとな」
「うん、そうだね。それじゃ、あたしとあかねのお好み焼き、半分こにして食べよう」
「いやいや、何でそうなんねん!」
 流石サッカー部のエースと緑川家の長女として鍛えられたなおは、フォローにも隙があらへん。
「そこまで気使わんでええって」
「そうじゃないよ。せっかくあかねに教えてもらったから、あたしがあかねと一緒に食べたいんだ」
 この前は嫁にもらうとか言ったけど、やっぱりなおは夫やな。
 王子様みたいな凛々しい顔でそないなこと言われたら、どうやっても抗われへんやん。
「それじゃ、はい、あーん」
 またも動かれへんなっとるウチがまだしぶっとると思ったんやろか。なおはお箸で自分のお好み焼きを切り分けてウチの口元へ運んできおった。
「いやいや、そこまでせんでもちゃんと食べるて」
「いいからいいから、あーん」
「うう……」
 これはウチが口開けるまでやめへん気やろなあ。
 まるで泣いとる子をあやすような扱い方で恥ずかしいてしゃあないけど、諦めて口を開ける。そこになおの手作りお好み焼きが。
「あ、美味しい……。めっちゃ美味しいで、このお好み焼き!」
「ホント!? ホントだ、美味しい!」
 さっきまでの凛々しい王子様が、お好み焼きを食べると可愛らしい笑顔のお姫様に早変わりや。
 いや、そらちょっと違うな。
 ああそうや。王子様とかお姫様とかそんなんやなくて、どっちもがなおなんや。
 普段は凛々しくて頼りになる姉御肌で、でも可愛いもん見たり美味しいもんを食べると途端にキラキラした笑顔になる。
 プリキュアになって一緒におる時間が増えて、初めて知ることができた素顔。
 これが、なおやねんな。
「そんんでウチのは……うう、やっぱ苦い」
 なんやこのノリで食べたら、意外といけるやん。なんて都合のいい展開にならへんかなと思ったけど、そないに甘なかった。
「あはは。あかねったら、変な顔!」
「そやな、っぷくく、あはは!」
 気が付けばウチも釣られて笑っとった。
 失敗は二人で分かちおうて、楽しいことは共有する。
 プリキュアとしても、友達としても、これが一番ウチらしいわ。

 お好み焼きも食べて後片付けも終わり。そんでウチは居間で一服中。まさかなおがもっと食べたいち言い出して、さらに三枚も焼くとは思わんかったけどな!
 まだ時間はあるし、これからどう過ごそっかな。
「あかね、ホントに今日はありがとね」
 ぼーっとしとったら、なおが後ろからいきなり抱き付いてきた。
 腕まくりしたままで、なおの素肌がウチの首筋に触れてくる。
「なんやいきなり抱きついて、そないにウチのことが好きなんか?」
 ここで固まってまう思うたら甘いでえ! 思い切り笑いあったおかげで、変に意識すんのも直ったわ。今度はなおがまっかっかになる番やで。
「へ?」
 間抜けた声を出したなおは、息が吹きかかる程近く、きょとんとした目でウチを見とる。
「あかねのこと? そんなの好きに決まってるじゃない」
「え?」
 あかん。これは卑怯や。無理やて、これは無理。無理無理無理。
 こないなタイミングで直球勝負とか、耐えれるわけないやん!
「…………」
 何か言おうにも言葉にならへん。もうウチゆでだこみたいになっとる。耳熱いもん。
 めっちゃ嬉しい!
 けど、どないしたらええんやこれ。
 思わずうつむいてまう。
「へ、ああいや、これは違う。違うの? ああえっと、違わないけどそういう意味じゃなくて、あれ、あたし何言ってんの?」
 自分の答えがどういう意味になっとるか気付いたなおが、慌てふためいて言い訳する。
 何故かそれに対して安心したような、寂しいような複雑な気持ちになっとるウチ。
 なおと一緒にいると楽しくて。
 たまにすっごいドキドキして。
 そんで切なくなる。
 こんなん初めてやったし、なんやわけわからんなっとるけど、つまりそういうことやん。
 ウチ、なおのことが好きなんや。
「なーに本気にしてんねん。ジョークに決まっとるやろ!」
「あ、あかねー。冗談キツいよぉ」
「あはは、すまんすまん。まさかここまでなおが慌てるとは思っとらんかってん」
 ちょっと怒ったような口調だけど、なおは安心したようにへたり込んだ。
「なぁなお、不思議図書館行かへん?」
「あ、そうだね。この時間なられいか達がいるかも」
 二人きりの時間はこれで終わりや。それでええねん。
 ウチ、日野あかねには好きな人ができた。大人の階段を登ったような気もするけど、こんなん女の子やったら誰でも経験することやろ。
 ただその相手がちょっと普通やないけど、ウチの中で灯った火は小さく燻り続けとる。
 これを激しく燃やそうとも、消してまおうとも思わへん。
 けど、この火はあるがままで大事にしたい。そう思った。

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