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スマプリ 『緑川なおの割と慌ただしい日常』

 貴重な日曜日の朝、あたしは朝からふしぎ図書館で刺繍を縫っている。今日は母の日、これはそのプレゼントだ。
 やろうと思えば昨日までに作り終えることはできたんだけど、そうしなかった理由は二つある。
 一つは、家でやってお母ちゃんにバレるのが嫌だったから。どうせならプレゼントのことは秘密にして、お母ちゃんを驚かせたいよね。
 もう一つの理由は、
「あかん、中々上手くいかへんわ」
「ファイト、あかね。まだまだ時間はあるから、ゆっくり確実に進めていこう」
「せやな、それしかないもんな」
 昨日あかねが母の日のプレゼントに何をするか悩んでいて、あたしは何を渡すつもりなのかと聞かれた。
 その質問にティッシュケースを縫うつもりだよと答えたら、「裁縫かぁ……」と腕組みしてまた苦悩し始めたんで、あたしで良かったら教えようか? と自分から申し出たのだった。
 あかねにはこの前お好み焼きの焼き方を教えてもらったから、そのお礼も兼ねている。一方的に助けられてばかりじゃ、筋が通ってないよね。
 あかねもそれに賛同したので、今日はふしぎ図書館にやってきたのだった。
「それにしても、なおは器用に縫っとるなあ」
「こういうのは慣れだよ」
 あたしの場合弟達が走り回ってよく服に穴開けたり、裾をほつれさせたりして帰ってくるので、それを直しているうちに自然とこういうことが得意になっていただけだし。
「ホンマになおは」
「ストップ。口じゃなくて手を動かす」
「うう、何言うつもりか読まれてしもたか」
「そりゃ、もう言われ飽たよ……」
 どうせまたワンパターンにあれを言うのかと思って止めたら、図星だったようだ。それ、母の日に言われると余計複雑な気分になるし。
 それにしても、誰か呼びかけた訳じゃないのにふしぎ図書館にあるプリキュアの秘密基地には、あたし達五人全員が揃っていた。さっきみゆきちゃんがお母ちゃんの手伝いをしに家へ戻ったけど、まだ結成されて一月ちょっとのプリキュアなのに、もう既に皆で一緒に過ごすのが当たり前になっているみたいだ。
 こうして皆が自然とここに集まるのは、なんだかすごく嬉しかった。
 れいかなんて、電動式のろくろをふしぎ図書館に持ち込んで陶芸をしている。
 ここで作業するためにわざわざ買ってきたのかな。ふしぎ図書館にはちょっと不釣り合いなアイテムなのがれいからしい。
 お屋敷みたいな家に住んでて古風な趣味をしているけど、そこまで超然としていなくて、ちょっと天然でむしろ親しみやすい。
 あたしは、れいかのそんな部分も好きだ。
 そんなれいかが大好きだ。
 ふと、れいかと目が合った。偶然じゃなくて、気が付くとじっとれいかを見つめていたからだ。
 急に自分の行為が恥ずかしくなったあたしは、急いでれいかから視線を逸らした。
 何やってんだろ、あたし。自分で自分に飽きれてしまう。
 こんな馬鹿やってないで早くお母ちゃんへのプレゼントを仕上げてしまおう。そう思ったら矢先、
「痛っ!」
 部屋に声を響かせた相手は、私の前でエプロンを縫っていたあかねだった。
「大丈夫、あかね!」
「ちょっと勢い余って自分の指まで縫うてもうたわ」
 あたしは強がって笑うあかねの後ろに回って、今しがた作れられた傷を見ようとするとあかねは手を引っ込めてしまう。
「ほら、ちゃんと見せて」
「ええって、そんな大した傷ちゃうから」
「駄目だよ。絆創膏貼るから」
 弟達の相手をして遊んでいると、あの子達はよく転んで膝を擦りむいたりするので絆創膏は常備するようにしていた。
「ほら、血が出てるじゃない。ん……っちゅ」
「あわわわわわ!」
 あたしはあかねの指を咥えて、舌を絡めとり血を舐めとった。何故か慌ててるあかねを無視して、また血が出る前に絆創膏を貼り付ける。
「これでよし」
「ええわけあるか!」
「え、何が?」
 絆創膏を貼った指を、もう一方の手で握りながら軽く涙目であたしを睨んでくる。あたし、そこまで怒らるようなことしたのかなぁ。
「ああ、ごめん。唾が汚かった?」
「そこやない。ええねんけどそうやないねん」
 何が言いたいのかはっきりしないまま、あかねはあたしから目を逸らしてしまった。けど、その目は絆創膏に釘付けとなっている。
 あかねらしくない、もじもじした態度だった。可愛いけど。
「ええっと。とにかく自分の怪我くらい自分でなんとかするさかい、そんな心配せんでも大丈夫や」
「そっか、ごめんね。絆創膏はここに置いておくから、また怪我しちゃったら使って」
「謝らんでもええよ。っちゅーか、その、ありがとうな……」
「うん」
 元気なあかねが一番だけど、しおらしいあかねも、これはこれで。って、あたしはまたも何考えているんだろう。
 そうだよ、あたしにはれいかという心に決めた人がいるんだ。
 あたしはその想い人に、またそっと視線を移す。
「あっ!」
 すると、れいかもどうやらこっちを見ていたようで、今度はれいかが目を逸らして陶芸を再開してしまった。心なしか、れいかの顔が赤い。
 どうしたんだろう? まあ、わざわざ聞くほどでもないかなと思ったので、あたしも自分のティッシュケース作りを再開することにしたのだった。

          ●

 あかねの絆創膏事件からしばらく、あたしはあ母ちゃんへのプレゼントを完成させていた。
 うん、中々綺麗に作れた。お母ちゃん、喜んでくれるといいな。
 あかねも、あれからさらに苦戦を強いられていたけど、なんとかエプロンを完成させていた。
 一部糸が突っ張ってはいるけど、あかねがどれだけ気持ちを込めてあのエプロンを作ったのかは、絆創膏だらけになった手を見なくてもわかる。
 頑張ったね、あかね。
 他の二人もあたし達と大体同時にプレゼントを完成させていた。
 やよいちゃんの似顔絵もそうだけど、れいかの湯呑みは、もはや芸術の域に達してるんじゃないかな。この二人はホントにすごいや。
 そして、最後に残ったみゆきちゃんが帰ってきた。
 どうやらお金がなくてプレゼントが買えず、お手伝いも失敗してしまったらしい。
 そこであたし達は一度囲い合うように集合して、作戦会議を開くことにした。
 あたしはなんとはなしに、ソファーでみゆきちゃんの正面に座る。そしてあかねはあたしの左隣に座るつもりらしく移動、
「あっ」
 する前に、れいかがすっと左隣に腰掛けてしまった。予想外だったあかねは思わずその気持ちを驚きとして声に出した。なんというか、間が悪かったね。
「あら、すみません。あかねさんはここに座るつもりだったのですね」
「別に気にせんでええよ。こんなんどこに座っても同じやし」
 まあ、あかねの言うことはもっともで、ここで席を立たれる方がかえって気を使ってしまう。
 そこから僅かな時間ではあったけど、二人は笑顔のまま互いに視線を交わし合っていた。
 れいかとあかねは、会話でより目で意見を交わし合ったように思える。
 二人だけがわかるような目配せみたいで、あたしだけそこに混ざれなかったのがちょっと悔しい。
 そこからあかねがもう一つ空いてるあたしの隣に……周った頃には、やよいちゃんがそこに収まっていた。
 れいかの時よりやるせない顔したあかねに、やよいちゃんはひたすら恐縮している。ああ、走ってギリギリで信号を渡れなかった時にあかねみたいな表情してるな、あたし。
 そこまでソファーに座りたかったのかなあと疑問に思ったけど、結局あかねは一人用の椅子に座って、あたし達の作戦会議は始まった。

          ●

 話し合いの結果はみゆきちゃんがビーズのネックレスを作り、そこにカードを添えてお母ちゃんにプレゼントすることで落ち着いた。
 ……れいか、みゆきちゃんの良いところを急にこっちへ振るのは、ちょっとズルいよ。
 ひみつ図書館から外に出て、買うカードを選んでいたところでバッドエンド王国のウルフルンが現れて戦いになったりもしたけど、今回も皆で協力してなんとか乗り越えられた。
 その後、みゆきちゃんがお母ちゃんに無事プレゼントも渡せたし、この一件はハッピーエンドだよね。
 家に帰って、あたしもお母ちゃんにきちんとありがとうを言葉にしてプレゼントを渡した。
 お母ちゃんがプレゼントを受け取ってくれた瞬間はすごくドキドキして、最後までプレゼントを渡すか迷ってたみゆきちゃんの気持ちが少し理解できたよ。
 だけど、お母ちゃんはすごく喜んでくれて大事に使うよと言ってくれた。
 ああ、そうだ。この笑顔が見たくてあたしは頑張ったんだ。
 一緒に裁縫したあかねも、今頃エプロンを渡してるのかな。
 あかねはきっと大丈夫、喜んでもらえてるよ。苦手だって言いながら怪我をしても、一度だって諦めようとしなかったもんね。
 うん、あたしの母の日もハッピーエンドだ。と、そう思った時、後ろから誰かに服の裾を引っ張られた。
「けいた?」
「なお姉ちゃん、こっちこっち!」
「え、ちょっと何?」
「いーから、こっちー!」
 もう、あたしは今お母ちゃんと話してるのに。けどそのお母ちゃんにも行ってあげなさいと言われてしまった。あの様子だと何か知ってるみたいだけど、教えてはくれそうもないので行ってみるしかなさそうだ。
「はーやーくー!」
「わかった。行くから、服引っ張らないで」
 半ば無理やり連れて行かれた部屋には、はるやひな、他の姉弟達が全員並んであたしを待っていた。
「どうしたの、皆揃って?」
 事情が全然飲み込めないあたしは、ひたすら混乱するだけだ。すると、両手を後ろに回したはるが、前に出てきてあたしの正面に立つ。
「あのね、なお姉ちゃん。いつもお母ちゃんの代わりに、お母ちゃんしてくれてありがとう!」
「え……?」
「だからこれ、わたし達皆からのプレゼント」
 はるがあたしの前に出したのは五輪のカーネーションだった。多分一人一輪ずつ出しあって買ってくれたんだ。あたしのために……。
「なお姉ちゃん、泣いてるの?」
 けいたに言われて、あたしは初めて自分が泣いてることに気が付いた。
 あたしはお姉ちゃんだからこの子達の面倒を見るのは当たり前で、だから感謝されるなんて考えたこともなったから。
「嬉しくなかった?」
「ううん、違うのひな。皆ありがとう!」
 心配して寄ってきた皆を抱きしめて思う。あたしはこの子達のお姉ちゃんで良かった!
 お母ちゃんって呼ばれるのは大抵からかわれる時だったから、こんなに嬉しいのは初めてだ。
「せっかくもらったお花、活けないとね。お母ちゃーん、花瓶どこだっけ?」
 あたしもいつか、結婚していつか本当のお母ちゃんになるのかな。弟達にもらったカーネーションを花瓶に移しながらあたしはそんなことを考えていた。
 でも、あたしがお嫁さんなんて想像もつかないな。ウェディングドレスならあたしよりれいかの方がずっと似合いそう。
 純白のドレスに身を包んだれいか。あたしはそんなれいかの手を引いて、教会のバージンロードを……。
 これじゃあたしお婿さんだよ! っと自分にツッコミを入れたのは、空想のあたしとれいかが誓いのキスをした後だった。
 重なる唇と重なる温もり。
 いつか、あたしとれいかが一つの家族になれたらいいのに。

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