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サイキックハーツ 『無常拓馬のとりとめもない遺言状5』

(この話は、シナリオ『シューティングスターQ 超速、闇卓球!』と『故郷の緑』の後日談となります)

  無常についての話をどういう手順で書いていくかを考えていたら、思いの外まとまり辛かったので、先に実行してきた依頼を消化することにした。

 今回書き記す依頼は二つだ。
 どちらも、闇堕ち者を灼滅せずに救うことが目的だった。
 他にも受けた依頼はあるのだが、データとして残す程の何かは得られなかったので、書き残すことはしない。
 学園の報告書には全ての事件情報が残っているので、読みたければ読めばいい、と言ったところだ。

 俺は、そして恐らくは紫乃も、この学園に来るまでは闇堕ちした者を助けたことはない。ともすれば、紫乃には闇堕ち者を救出する発想自体、欠け落ちているかもしれない。
 どちらにせよ、あいつには一番向かない依頼の類であることだけは確かだ。
 紫乃は生粋の殺人鬼として教育され、純正な殺人鬼として成長してきた。
 あいつが人殺しを飽きたとのたまい放棄しても、あいつの中にある殺人鬼としての習性は、そう簡単に消えることはない。

 俺に紫乃は救えない。それはもう、あいつの生き方として染み着いているから。
 しかし、救えなくとも、救いがないわけではない。
 紫乃が自分で変わろうと思えば、変わるために歩み出せば、変わっていくことはできるだろう。
 俺が手助けするのではなく、紫乃が自ら変化を求めること。もし紫乃からそれを希望し進もうとするなら、俺はあいつの手を取って引っ張ってやってもいい。
 だが、あいつ自身が変わろうと動き出さない限り、俺からあいつを諭すつもりは皆無だ。

 決めるのはあいつの意志だ。
 変える気のない奴や、変わりたいと口先だけで唱える者に、俺は手を貸さない。
 それは紫乃じゃなくても同じことだ。

 だから、ここに書くのはあくまで依頼の情報に過ぎない。
 俺はこの情報で、こうすればいいと語るわけでも、何を強制するわけでもないと、先に注釈しておく。
 ただ、俺は今回救うことを選んだだけで、紫乃や他の者がそれに倣う必要はないのだ。

 一つ目の依頼は羅刹の少年を元に戻すことだった。
 少年の名前は流星橋・球介。
 日々卓球の修練を詰み続けていた少年だった。

 強くなりたいという意志に呑まれて、少年は羅刹へと墜ちた。
 前へと進んでいたはずの歩みを踏み外した求道者。

 俺以外のメンバーは、球介を『強さを求めて闇堕ちしたストイックな少年』と一定の評価を見出していた。
 しかし、どれだけ自分を律し鍛え続けていたのだとしても、闇堕ちしてしまったのならそれは球介のメンタルが弱かったという証明に他ならない。
 精神薄弱な未熟者。それが俺から球介という人物に対する評価だった。

 通常、闇堕ち者を救出するためにはその相手を宥めたり説得したりしながらの戦闘になる。
 そうすれば闇堕ち者は人間だった頃の心を僅かずつでも取り戻し、戦闘能力も低下して戦局を有利に進められるというメリットがあるためだ。

 しかし、こと球介に限っては真逆だったと言っていい。
 力を求め手にした羅刹は、その力を解放することを望んでいた。
 ストイックだろうが真面目だろうが、力を望む理由は単純だ。
 鍛え得た力を――自分を試したい。開放したい。
 自分という価値を引き出し、燃焼させる。それを達成できたなら、球介を闇堕ちから救うことができる。
 自分の強さを証明することが、自分という存在の証になる。
 俺がこの依頼を選んだ理由は、そこにあった。

 下手な慰めや諭しの言葉よりも力をぶつけて、同時にぶつけさせる。
 それは敵の力を全力で引き出させるため、むしろ通常の説得よりも困難な救出となるだろう。
 しかし、そういう異常ケースだからこそ、こうして記録を残す価値も出てくる。
 何より、リスクを払ってのリターンこそ、手にする価値があると俺は思った。

 そういう理由から、俺は主にあいつを挑発していた。
 熱い台詞とやらは、俺よりあいつとガチンコでぶつかりたいと心から思っている奴の方が、確実に効果を上げるだろう。
 俺がやるのは焚きつけること。あいつの闘志を萎えさせないように、俺達を倒したいと思わせて相手をムキにさせる。そういう言葉を選んでいた。

 ――技を磨く求道者といえば聞こえはいいけど、力に溺れた精神薄弱者だよお前は。スポーツ道具を殺戮に使う脳筋半人前が、悔しかったらスポーツマンシップ乗せてみろ!

 ――ほらほら急速落ちてるぞ。羅刹になってまで証明したかったものを見せてみろ……魅せてみろよ!

 八人で言葉をぶつけていった、それが幸をそうしたのかなんてわからないが、球介は灼滅されずに人間へと戻った。
 ただし、右腕を失するという、奴にとっては生命線を絶たれるのに等しいリスクを負うことになったが。

 これにさえ、俺の心はさして動かなかった。
 全力で殺意を向けてきた羅刹相手に、中途半端な手加減などできようはずもない。ならばこの決着は、ごく自然な結末だろう。
 それに、スポーツマンが怪我や病気で選手生命を失うのはさして珍しい話ではない。
 力を求めて人の道を踏み外し、相応の対価を払って人へと還った。
 俺からすれば妥当な落としどころだと思う。
 それが、球介の歩んだ、短くも人より曲がりくねった卓球道だった。

 もう一つの依頼だが、こっちはスタンダードモデルと言っていい。ご当地怪人の救出だった。
 対象者の名前は大野・宙(おおの・そら)。
 町をクリーンにするため清掃活動を行い、ご当地の平穏を守るヒーローだ。

 しかしどれだけ清掃を繰り返しても汚され続ける町に耐えきれず、こいつは堕ちた。
 正直、町を血で汚すなら普通のゴミの方がまだマシだろうと思うが、そんな理屈も通じなくなるのが闇堕ちというものだ。

 俺がこれを受けたのは、こいつ自身よりも、ご当地怪人に興味があったためだ。
 ダークネスは人類を糧としているが、ダークネスの敵は人間ではなくダークネスだ。そこに奴らの隙が生じる。
 暁家はその隙を、友好条約という形で利用して、自分達を守ってきた。
 ソロモンの悪魔や淫魔の動きをヴァンパイアに流したり、奴らの手足となる優秀な手駒を与えたりして、奴らの戦略ゲームを有利に進められるよう働きかける。
 実際はこっちが不利な条件での契約は少なくなかったが、戦場の武器商人に近い動き方をしてきた。
 そうすることにより、暁家は自分達に降りかかるダークネスの侵略を抑えてきたのだ。

 その中で、最も利用しやすかったのがご当地怪人だった。
 みかんジュースを大量に買い込むことで契約が成立したのは、暁家のそれなりに長い歴史の中でも、ご当地怪人が最初で最後である。
 蛇足であるが、買い込んだみかんジュースの大部分は俺が処理しており、かの怪人との仲はごく個人的に良好だった。

 などという経緯があり、普段命だけで日本を守ってきたご当地ヒーローが、どういう経緯であの面白芸人になっていくのかがずっと気になっていた。
 だがまぁ、当のご当地ヒーローは普通にキレて暴れる若者だったので、その謎が解明されることはなかった。これは非常に残念だ。

 これだけを切り取って説明すると、俺はしごくしょうもない動機で依頼を受けたと思われるだろう。
 誤解を恐れずに言うと、そういう知的好奇心は情報収集において重要である。
 多方面から物事を見られるというのは一種のアドバンテージに繋がるし、ダークネスの中でもご当地怪人は少しばかり特殊な立ち位置にいる。
 それは、多種あるダークネスのうちで、ご当地怪人だけが比較的最近生まれた種族なのだ。

 何故、人間の素質が根幹となるダークネスから、ここにきて新種が生まれたのか。
 ご当地という概念なら、ダークネスが誕生した時代から少なくとも近しいものはあったはずだ。にも関わらず、ご当地怪人は近代に入ってから生み出されはじめた。
 そしてご当地怪人が近代から生まれたということは、ご当地怪人の才能を持つ人間も近代から発生したということになる。その上、ご当地怪人出現の理由は未だ解明されていない。
 そう考えるならば、ご当地怪人という種族はどのダークネスよりも謎に満ちているとさえ言えないだろうか?

 ならば、ご当地怪人に闇堕ちしていく過程を観察すれば、ひいてはダークネス誕生の秘密を解明することにも繋がる可能性だってあるかもしれない。
 また、ご当地怪人が後に現れた新参者だというのなら、さらに新たなる種族のダークネスが生まれるという展開もあり得るということだ。
 ダークネス誕生の秘密が暴かれ、新種族の誕生を未然に防ぐことができるたなら、その功績は計り知れないものになるだろう。
 ご当地怪人の解析には、それだけ価値があると俺は思っている。

 とはいえ俺は科学者でも何でもない。そのため俺が情報を集めて、もし有力なものが発見されたとしたら、知り合い投げ渡すか学園に報せるくらいしかやれることはないだろう。そして、この探すという行為は、探偵である俺の役割であるはずだろう。

 とまぁ大言壮語吐いておきながら、実際に行ってきたのは、普通で普通な闇堕ち者の救助である。
 収穫と言えば、その闇堕ち者を灼滅者として引き上げたことと、俺と他者の闇堕ちに対する考え方の違いくらいだろう。それに後者は球介の時に嫌というほど感じていたので、改めての確認でしかなかった。

 闇堕ち者は救えるならば救う。無理なら灼滅する。俺の中にあるのは、そんな程度の実に浅い考えだ。
 故に、今回の闇堕ち者に対しても同情なんてものは無かった。
 俺にとって、もう人殺しは仕事ではないし、趣味でもない。だから殺す必要がないなら殺さない。ただそれだけ。
 だから、俺がまずあの闇堕ち者に向けたのは、優しさなんて一ミリも含まれていない言葉だった。

 ――思い通りに行かなくて頭の線が切れたというのなら、今日のところは代わりに繋いでおいてやろう。
 ――頭を冷やして考えろ。お前が守りたいのは街か、それともそこに住まう人か?

 その後も、励ます気もなければ同情もしていないので、俺がぶつけたのは正論だ。
 それも闇堕ちに抗う心があるなら、下手にひねった言葉より、こういうタイプの方が高い効果が望めるのではないだろうかと思っただけである。

 ここまで宙について高評価なことを一つも記していないが、終止苦しそうに戦っていた宙は、最後まで闇堕ちに抵抗していた。ことにこの部分について、俺は肯定示しておこう。
 その結果、こいつは灼滅者としての力を失うこともなく、無事生還したのだから。

 宙とは違い、五体満足でいつか宙はこの学園にやって来るだろう。
 それがいつになるかもわからないし、何をなせるかもあいつ次第だ。

 だがまぁ、一声かけて奴が望むなら、この先へと進む手伝いの一つくらいは、してやってもいいかもしれないな。その時が来れば、だけど。

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